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「MeTooはもういいだろうという声も。でも…」伊藤詩織さんが“最後の会見”で語ったこと

ジャーナリストの伊藤詩織さんが5年にわたった裁判を振り返り、「性被害の当事者の声に耳を傾け続けてください」「今後の刑法改正にも注目して」と語りました。

ジャーナリストの伊藤詩織さん(33)が2015年に、元TBS記者の山口敬之氏(56)に性暴力を受けたとして損害賠償を求めた裁判で、最高裁は7月、山口氏の上告を棄却し、約332万円の賠償を命じる判決が確定した。

これを受け伊藤さんが7月20日、都内で会見を開き、被害からの7年と、うち5年にわたる裁判を振り返った。

実名で性被害を公表したことに「後悔はない」と話す一方、自ら被害を公にしたり、裁判を起こしたりする際の負担の大きさ、刑法上の問題などを指摘した。

伊藤さんは意識を失った状態で性行為を強要されたとして、山口氏に対し慰謝料など損害賠償を求める裁判を2017年に起こした。

最高裁は7月7日、山口氏側の上告を棄却し、約332万円を伊藤さんに支払うよう命じる判決が確定した。同時に、伊藤さんにも著書の記述で山口氏の名誉毀損などがあったとして55万円の支払いを命じる判決も確定した。

伊藤さんは2015年、準強姦容疑で警視庁に被害届を提出した。

しかし、週刊新潮などがその後、山口氏の逮捕状は発行されたものの直前に逮捕は取りやめになったと報じた。当時は警視庁刑事部長だった中村格・現警察庁長官の関与が取り沙汰されることになった。

伊藤さんは、2017年に会見して初めて被害を公にした時の思いについて、こう語った。

「当時、(性被害を公表する)会見をした大きな目的が、日本の刑法の中に『同意』という言葉が入っておらず、『同意がない性交はレイプ』ではないという現状を変えてほしいという点でした。自分が(性被害の)当事者になるまで、法の現状を理解していなかった」

「少しでも(刑法改正に向けた)扉を開けることができたら……という気持ちでお話しました」

「今の刑法では『不同意性交=犯罪』ではないというところに目を向け、今後の刑法改正などに注目していただきたいです。そして今後も、性被害の当事者の声に耳を傾け続けていただけたら幸いです」

伊藤さんは「5年間闘ってきた裁判が一つの区切りを迎えた」とし、性被害の当事者としての会見は、今回が最後になると語った。

「当事者の声にどう向き合うか」「声を聞き続けて」

東京地裁で2019年12月に第一回目の判決が言い渡された際、判決を聞きにきた伊藤さんの母親は、性被害について「母親としては1番、自分の娘に起きてほしくないことだった」「まさか自分の家族に起こると思っていなかった」と話していたという。

伊藤さんは「色々なニュースが流れる中で、自分ごととして捉えることは難しい。だからこそ、当事者の声にどう向き合うか」とし、こう呼びかけた。

「(性被害は)いつ自分の身に起こるか分からない。法律が追いついていない部分がある。法律の感度をあげていくためにも、一緒に目をくばってほしい」

「残念ながらまた起こってしまうであろう同じようなケースに対して、その時はどのような法が使われるのか、どのような決断がされるのかというところを、皆さんに引き続きウォッチしていただきたい」

伊藤さんが民事訴訟を起こし、会見で性被害を公にした2017年、世界各地で沈黙を破り性被害を訴える「#MeToo」運動が始まった。

伊藤さんは「これまで届くと思わなかった声が、少しずつ届くようになったかなと感じる」とした上で、現状と今後について、こう訴えた。

「#MeTooが始まって5年で、『もうこのストーリーはいいだろう』という声も聞きます。しかし、それでもやむことなく、こういったストーリーがどんどん出てくる。本当にこれまでどれくらいの声がかき消されてきたのかと想像すると、本当にこれは、当事者だけではどうにもできないことだと感じます」

今後は、ジャーナリストとして性被害の当事者の声を報じていきたいとし、また、社会に対しても「当事者の声を聞き続けて」と呼びかけた。

性被害者が声を上げにくい状況。課題も山積

伊藤さんは、「少しずつ(性被害者の)声が届くようになった」と話す一方で、課題も多くあると指摘。

長期化する裁判では、精神的・経済的負担も大きく、誹謗中傷も多く受けたと話した。

「当事者として声あげたことに後悔はありません。学ぶことも多くありました。でも、あまりにも負担が大きかった」

「被害に遭った時は25歳。今は33歳です。当時は、やりたいことがたくさんあった。自分のキャリアを考えても、これ(被害や裁判)ゆえ、仕事ができないこともあった」

「誹謗中傷などで尊厳を傷つけられることもあり、果たして(被害を公にするという)同じ経験を、他の人に勧められるかと考えると迷います。でも、迷うということは、現状が変わっていないということだとも思います」

この点については、西廣陽子弁護士も「被害者への負担はものすごく大きい」「長期化すると、被害者は精神的にも経済的にも負担を強いられる」とし、課題だと話した。

また、伊藤さんの民事裁判の意見陳述において、加害者の反論が性被害者をさらに傷つけるということが起こっているとし、「そのようなことが法廷で堂々と行われていた」「改善に取り組んでいくべき」と語った。