「黒人さんが暴れている」日本大学講師が授業で差別発言を連発。受講学生が告発→大学は授業継続の判断

    日本大学文理学部の授業内で、非常勤講師が黒人や中国人を差別する発言を繰り返していました。受講学生の告発で明らかになりました。

    日本大学・文理学部(東京都世田谷区)の法学の授業内で、非常勤講師が黒人や中国人を差別する発言を繰り返していたことが明らかになった。

    講師は授業内で「黒人さんが暴れている」「何かあれば略奪しようとする」といった発言を繰り返していた。

    受講していた学生が、差別問題の対策に取り組む学生団体に告発したことで、大学側は事実関係を調査。差別発言があったことを認める声明を26日に発表した。一方、講師に「指導」はしたものの、後期も授業を継続するとしている。

    (*この記事には差別的な文言が直接含まれます。閲覧にご注意ください)

    オンラインの授業内で何が。発言の内容は

    今回、この講師が黒人や中国人などに対する差別発言をしたのは、日本大学文理学部の法学の授業内。

    新型コロナウイルスの影響で授業はオンラインで実施されていたため、講師はこの授業を受講している学生に音声ファイルを公開し、学生はその音声を聞く形で授業は進められていた。

    音声ファイルは、8月までの前期いっぱい、この授業を受講している学生ならオンライン上でアクセスできる状態だった。

    差別発言は、5月25日と6月15日の授業内で確認された。

    6月15日の授業内では、アメリカで大きな問題になっている「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」について言及した際、以下のような発言をした。

    「今アメリカ全土が北斗の拳みたいな状態になっていて黒人さんが暴れている」

    「プエルトリコ人とか、あと茶色い人たちと、あともうかなり混血でメスティーソみたいなかたちで混血で混じってる人たちとかそういうのも、何かあれば略奪をしようとすると」

    「裏の話としては、単に黒人の事件にしてはいっぺんに暴動が広がりすぎているというので。一時間40ドル払って、お金を払って暴動をさせている人間がいるというので、バックに中国共産党がついている」

    「アンティファとかそういうので、中国共産党のスパイみたいな留学生が3か4人か暴動のあれで捕まっているというようなことも一時期、ちょこっとだけニュースで、一瞬だけニュース流れた」

    このほかにも、授業内で知的障害者を差別用語で呼ぶ発言をしていたことが記録されている。

    5月25日の授業内では新型コロナウイルスを「武漢肺炎」などと呼び「中国に世界中が損害を与えられてます」と、新型コロナウイルスについて中国の責任を追及。

    「国際法上で、国家同士でそういう争いをしたときは戦争で払わせるしかないみたいな話がある」と述べ、「戦争の賠償金とかそういうので払わせるしかないというような枠組みがある」などと発言した。

    特定の地名と感染症を結びつけることは差別にもつながりかねず、今回の新型コロナウイルス感染症には「COVID-19」という名称が決められている。

    WHOも2015年に出した疾病の名称決定に関するガイドラインで、「貿易、旅行、観光、動物、福祉に及ぼす不必要な悪影響を最小限に抑え、文化的、社会的、国家的、地域的、職業的、民族的グループへの攻撃を回避する」必要があるとして、特定の町や国、集団などの情報を含まないようにと定めている。

    受講の学生が告発。「差別に反対する社会に」

    この差別発言に関しては、授業を受講していた日大1年生が、差別問題の取り組む学生団体「Moving Beyond Hate」に連絡を取ることで表面化した。

    団体は「再発を防ぐために差別を禁止するルール作り」と「差別発言をした非常勤講師の解雇」を求めて、オンライン署名を集めた。

    団体と大学側は9月23日、日本大学の文理学部キャンパスにて面談し、団体は差別の再発防止対策などを直接求めた。

    団体は、大学との面談日までに集まったオンライン署名2734筆を大学当局に提出した。

    この講師が授業内で行った差別発言の音声データや文字起こしは、Moving Beyond Hateのウェブサイトに掲載されている。

    問題を告発した学生は、授業でこうした発言を聞いた時の思いについて、BuzzFeed Newsの取材にこう語った。

    「この発言をもし中国人や黒人の学生が聞いていたら、悲しい思いをしていると思いました。彼らに向けられたヘイトですが、代わりになって告発しました」

    「本来なら差別に対して『おかしい』と声をあげるのが当たり前なのに、今の日本社会はそれができない・やりづらい社会です。告発することによって日大や日本社会が、差別に反対する社会になってほしいという思いです」

    また、「自分も標的にされるのではないか、自分に差別が向けられたら…という恐怖があった」とも話した。

    差別発言は「不適切な発言」。一方で、この講師の授業は継続

    日本大学は告発を受け、この講師の授業内での発言に関する調査委員会を設置した。

    その結果、文理学部は9月26日に「文理学部はあらゆる人権侵害およびそれを肯定する発言に反対します」と題する声明を発表。

    声明で文理学部は「本学部非常勤講師による前学期授業における不適切な発言がなされていたことが判明しました」とし、このように記した。

    本学部としては、直ちに弁護士を含む調査委員会を設置し、事実関係の調査、本人への聴取を行い、本学規程に基づき指導を行いました。今後もいかなる差別的、侮辱的な行為や言動、SNS等での発言も絶対に許すことはありません。これからも本学の「日本大学教育憲章」「日本大学人権侵害防止ガイドライン」に基づき、継続して差別撲滅に向けて取り組み続けていきます。

    日本大学はBuzzFeed Newsの取材に対し、「不適切な発言があった旨、学部として確認しております」とした一方で、今後の対応についてはこのように述べた。

    「調査委員会に調査結果を受け、本人が謝罪し、反省の意を表しましたので、文理学部として厳重注意を行い、今後の授業を管理、監督することとしております」

    授業内で差別発言があったと認めた一方で、解雇の判断はせず、授業に監視をつけながら後期もこの講師の授業を継続するという。その判断については、こう説明した。

    「後学期の授業は、例年、履修学生が多数いることも配慮し、学部が授業内容を確認し、指導していくことで、対応していきます」

    後期授業は、声明が発表される9月24日に始まっている。この非常勤講師が受け持つ、後期の法学の初回授業は28日だったという。

    文理学部としての声明は短いものだが、紅野謙介・文理学部長の声明文のリンクが付けられている。

    紅野学部長は長文の声明で、こう述べた。

    「ひとつひとつの発言を見るかぎり、学問的に許容範囲のものと受けとめること はできません。明らかに差別であり、先入観による偏った発言と考えます。したがって、こうした発言が本学部の授業内でなされたことについて、学部長として強い憤りを覚えています。また、これらの発言に傷ついた学生のみなさんには心からお詫びします」

    また、そのうえで学内で差別的な言動があれば、すぐ異議申し立てや学内の人権相談オフィスなどへの相談をするよう、学生に呼びかけている。

    一方、団体側が求めた講師の解雇についてはこう述べた。

    「反省の弁を述べており、一定の業績をつみ教育実績もある講師です。ただ切り捨てるのではなく、むしろ、それが地に足の着いたものになっているか どうか,確認と検証の機会が必要ではないでしょうか」

    また、講師の「黒人さんが暴れている」という発言に関しては、「明らかな差別発言」として、こう指摘した。

    「もちろん、一部に暴徒化した人たちによる『略奪』や犯罪行為があったことは報道のとおりです。しかし、その原因を Black Lives Matter運動に帰することはで きません。それこそが、特定の人たちへの偏見であり先入観です」

    「また起こるのでは」学校側の対応に対し、学生らは差別再発を懸念

    大学側のこのような対応に対し、告発した日本大学の学生や、学生団体のメンバーは「再発防止の対策が不十分」と声を揃える。

    学生団体「Moving Beyond Hate」の代表・長谷川トミーさんは、「日大も講師の発言が差別であったことを認めているのに、責任はとらせないという矛盾がある」と指摘し、こう話した。

    「私たちの第一の要望は差別を防止するということでしたが、後期の授業をこのまま続けて、どうやって防止するのかと疑問に思います」

    「授業に監視はつけるけど、授業内容の事前チェックは『検閲になって監視社会につながるのでよくない』とし、できないと告げられました」

    文理学部には中国人留学生も多くいるという。差別発言の再発で被害を受ける学生がまた出るのではと懸念する。

    大学側と学生団体の面談は1時間半に及び、メンバー7人それぞれに発言の機会も与えられ、「話は聞き入れてくれた」と感じる一方で、「議論は平行線だった」と話す。

    日本大学は2015年4月に「人権侵害防止ガイドライン」を設置して、キャンパス内での差別や人権侵害の防止・対策、発生時の対応を定めている。Moving Beyond Hateは、ガイドラインを遵守し、実際に実行していく他、反差別の研修やイベントなどを拡充していくことを大学側に求めている。

    告発した日本大学の学生は、大学側の対応に対し、「日大はこの問題に対して誠実に対応したとは思っていません」と話す。

    監視をつけて後期の授業を継続することに関しては「監視をつけても、その後また何もなかったように差別発言が起こり、スルーされるのではないか」「差別をしないという保証にはなっていない」と指摘した。

    この学生は、今回の件をきっかけに、Moving Beyond Hateのメンバーとして活動を続けていくという。

    Moving Beyond Hateは、大学内での差別や教員による差別発言について対策を考えるため、10月3日にキャンパスヘイトに関する学生向けオンラインイベントを実施する。

    団体は「キャンパスで起こる差別やセクハラをどうやったらなくせるのでしょうか?キャンパスヘイトを一緒になくしませんか?」と呼びかけている。