性犯罪の記事はアダルト系コンテンツじゃないのに…。ライターたちの憤りと指摘。どう対応すべき? 専門家と企業に取材した

    性教育の動画や、性犯罪の記事をアップすると、記事への流入が来なくなったり、SNSアカウントが凍結されたりすることがあります。ニュースプラットフォームやSNSによる性的表現を含むコンテンツの規制には、公益を阻害しかねない面も……。

    性犯罪について取材した記事を公開したら、配信先のニュースプラットフォームからその記事への読者流入がぱたりと止まった。性教育の動画をアップしたらアカウントを凍結されたーー。

    ニュースプラットフォームなどは一般的に、露骨な性的表現を含むコンテンツを規制するガイドラインを定めている。品位を保ち、興味本位なアダルト系コンテンツを未成年などから遠ざけるためだ。しかしその過程で、性教育や性被害などについて専門家に取材した記事や動画も「弾かれしまっているのでは」という指摘が、複数のメディア関係者からあがっている。

    実態はどうなのか。性にまつわる問題と報道、社会のあり方を考えるうえで、何が適切なのか。

    ニュースプラットフォームやSNS運営企業7社、専門家らに取材した。

    「セックス」や「コンドーム」などの単語で記事が“弾かれて”いる?

    多くのメディアは自社サイトで記事を公開するのに加え、Yahoo!ニュースやLINEニュースなどのニュースプラットフォームや、スマートニュースなどスマホ向けニュースアプリ(以下、これらをまとめて「プラフォ」)でも配信する。

    大きなユーザー基盤を持つプラフォでの掲載を通して、より多くの人に記事を読んでもらえ、配信収入も得られる仕組みだ。

    一方で多くのプラフォは、「露骨な性的描写」や「性的に過激な表現」などが含まれるコンテンツが出ないように、一定の規制を設けている。

    プラフォ上の記事内容の「品位」を保ち、アダルト系コンテンツや、興味本位で読者を釣ろうとする記事などが、不快と思う人や未成年に届かないようにするためだ。

    「明らかにおかしいと感じることが何度も」編集部でも問題視

    しかしこの規制が、公益性を鑑みて取材した記事にも適用され、読者に届かなくなっている可能性があるという。

    あるウェブメディアの編集者の女性は、5年ほど前から明らかにおかしいと感じることが何度もあり、問題意識を持っていた、と振り返る。

    性被害の事件や裁判、AV(アダルトビデオ)出演強要問題などについての記事を公開し、アクセス解析ツールなどでリアルタイムの読まれ方を見ると、露骨なアクセス数の変化がみられたという。

    この編集者によると、あるプラフォで記事への流入がピタッと止まったり、アクセス解析ツールでは高い流入が見られるにも関わらずプラフォサイトのアクセスランキングに表示されなくなったりということが、繰り返し起こった。

    その時の経験から、「強制わいせつ罪」の「わいせつ」や、「児童ポルノ」という言葉が原因で、記事が非表示になったのではないかと編集者は推測する。

    しかし、「これらは罪名や法律の名前に入っているワード。刑事事件について書くことも多いので、困っている」と話す。

    編集者が勤務する社内でも、これは問題視されている。以前プラフォの関係者に尋ねたところ、「アルゴリズムは日々変わり、それもエンジニアにしかわからない」と、あいまいな答えしか得られなかったという。

    ほかのプラフォでも、性的なワードが原因で記事が非表示になり流入が止まっていると感じたことが相次いだので、先方の担当者に尋ねると「アプリは小学生も使っているため(内容に)気をつけている」との返事があった。

    性被害の記事が「あたかも悪質な性的コンテンツのように」…。「取材をさせてもらった方に申し訳ない」

    性被害に関する事件や裁判を取材しているフリーランスライターの女性も、何度も同様の経験をしたという。

    その経験から、メディアに寄稿しても、見出しや記事の内容に含まれる性的なワードや表現が原因で、配信先プラフォで記事が非表示になってしまうのでは、と心配するようになった。

    取材で把握した実態をなるべく正確に伝えたいという思いがあるため、このような形で記事が読者に届かなくなってしまう状況を懸念している。

    「このワードだと引っかかってしまうかなと、メディアの側が忖度しなくてはいけない状況で、性被害の実態を丸めたような表現になってしまう。人々に知ってほしい被害についてきちんと書けないということは、取材をさせていただいた方に対しても申し訳ない思いです。すごく問題意識を感じています」

    「性犯罪についての記事が、あたかも性的コンテンツのように弾かれてしまうことについては、腹が立ちますし、当事者の方も困惑されるだろうと思います。プラフォへの怒りもありますが、私としては取材に応じてくれた人など、周りへの申し訳なさがあってつらいです」

    BuzzFeedでも2022年、10代に向けた性教育の企画で記事を配信した際、記事へのプラフォからの流入が不自然にストップするといった現象が相次いで起きた。

    基準はどこに? “垢バン”された発信者の意見は

    このような事象は、プラフォだけでなく、SNSでも起きている。

    誰もが気軽に投稿できるSNSでは、人を傷つけたり差別したり、不快に思わせたりするような悪質な投稿内容の規制のあり方が、常に議論となっている。その中で、SNSでの性への言及がある投稿への規制が「表現の自由」にまで及んできていると指摘する声もある。

    軽妙なタッチで性についてSNS上で動画発信している佐伯ポインティさんは、活動拠点であるSNSアカウントを何度も「凍結」されてきた。

    性に関する内容が含まれる投稿は、規定に反したと運営側に判断されると、映像や投稿が削除されるだけでなく、アカウントが停止されることもある。アカウントの停止や一時停止は「凍結」、またはアカウントがバン(禁止)されるという意味で「垢BAN」と呼ばれている。

    ポインティさんによると、動画の内容を決める際にも、法律を順守し、性犯罪にあたる同意のない性行為や暴力的な表現は決して取り扱わないと決めている。

    SNS各社の規約も読み、コンテンツの内容についてもチームでよく考え、性に関する話題の中でも、HPVワクチンや避妊、性感染症予防といった社会的な内容も取り上げてきた。しかし、凍結や垢BANが相次ぎ、その度に新しいアカウントを作るなどの対応に追われたという。

    ポインティさんの場合、性について話していた動画が原因で、各SNSで凍結や垢BANなどの措置が10回ほど相次いだ。

    SNSでの動画発信の活動を始めてから、性を後ろめたく隠すものと扱うのではなく、「明るく面白いエロ」として前向きな内容の発信を続けてきた。

    しかし、100万人のフォロワーがいたTikTokアカウントは垢BANされ、YouTubeでは動画がアップロードできなくなる措置も複数回受けた。その際には、過去の動画1000本を削除する対応をとった。

    YouTubeやTwitterなどのSNSが急成長し、社会インフラのようになってきた一方で、「一企業が制限できる領域が広がりすぎている」とも、ポインティさんは指摘する。

    ニュースプラフォ、取り締まりの内容は

    ニュースプラットフォームやニュースアプリ、そしてSNSでは、性的コンテンツについてどう規制し、対応しているのか。

    BuzzFeedは代表的な7社(ヤフー=Yahoo!ニュース、LINE=LINE NEWS、スマートニュース、Twitter、Google=YouTube、TikTok、Meta=Facebook、Instagram)にアンケートを送り、取材した。

    全社が、悪質な性的内容を含むコンテンツの対策の一環として、なんらかの形で性的なワードや内容を含む記事や動画などを、非表示にしたり削除したりなどの対応を取っていることを明らかにした。

    また、それにより、性教育などに関する情報などの発信にも影響していることを認めた社もあった。

    スマートニュースとLINE NEWS、Yahoo!ニュースは、露骨な性表現などを含むコンテンツの公開について、提携しているウェブメディアなどに対し一定のガイドラインや規制を設けているとした上で、以下のように説明した。

    スマートニュース
    《性的なコンテンツに関して、コンテンツポリシーに定める『露骨な性的表現』に該当するものは、非表示(配信を停止)の対応をしています。ただ、芸術・科学・医学・教育などの分野における表現はその限りではなく、性的な内容を含むことで、ただちに非表示の対象になるものではありません》

    《性に関するコンテンツが制限される中で、性教育系のコンテンツなど、性に関する適切な情報の発信が困難になっているのではと指摘する声があることを承知しています》

    《メディアから提供されるコンテンツについて、コンテンツが露骨な性的表現を含むかどうかは、複数の要素で機械的に判定しています。コンテンツの判定と配信の詳細は公表していませんが、コンテンツの評価では、機械的な判定だけではなく、人の目によるチェックも行われます。スマートニュースでは、メディアの自由な表現活動を最大限尊重し、性的な表現を含むコンテンツについて、機械的な判定で一律に除外することはありません》

    LINE NEWS
    《不適切な内容が含まれていないかを、機械的な確認と人の目の確認(一部の記事が対象)を組み合わせて、継続的に確認しています。万が一不適切な内容を含むコンテンツが表示された場合は提供元と相談の上、記事の訂正、削除などの対応を行なっています》

    《性的なコンテンツに限定した話ではありませんが、違反投稿への対応を機械的な判断にすべて任せると、本来規制するべきでない表現についても削除してしまう可能性があることは承知しております。そのため、機械的な判断に加えて、場合に応じて人の目による確認を行う仕組みにて対応しております》

    Yahoo! ニュース(ヤフー)
    《明らかにアダルト的な意味での興味関心に答えるための文言を含むコンテンツや、機械学習によって違反内容を含むと判定されたコンテンツについては、トップページ等の目立つ場所から非表示する対応を実施しています。個々の文言や判定事例については非公表とさせていただきます》

    《適切な情報の流通や表現の自由を配慮することはもちろん、わいせつな内容を含む不適切な内容の記事の防止等に関しては、自社のみならず有識者の皆様をはじめとする第三者の意見を伺いながら、今後も慎重に検討、改善を重ねていきたいと考えています》

    Yahoo!ニュースにおける「トップページ等の目立つ場所から非表示」にする対応について、「アクセスランキングから非表示になるのか」と質問したところ、「『Yahoo!ニュース』の運営方針、入稿ガイドラインに照らし、アクセスランキングを含むトップページ等の目立つ場所から、掲載を抑制することがあります」との回答があった。

    誰でも投稿できるSNS、各プラフォの対策は

    SNS運営各社はどうか。

    Twitter、Google(YouTube)、TikTok、Meta(Facebook、Instagram)は、それぞれに投稿内容をめぐるガイドラインや規定を定めているとし、それに違反するとみなした投稿は非表示や削除、アカウント停止などの対応をとっていると説明した。

    各社は取材に対し、対応について以下のように回答した。

    Twitter
    《プラットフォームに投稿されたポリシーに抵触する可能性のある投稿は、利用者からの報告だけでなくシステムで検知をしており、24時間365日、専門の訓練を積んだスペシャリストチームが確認しています。チームは、単体の言葉だけでなく投稿全体の文脈を見ながら、ポリシーに照らし合わせて審査を行い、必要性、違反の深刻度に応じて対応を行っています》

    Google(YouTube)
    《YouTubeで許可されるルールを定めたコミュニティガイドラインに違反するコンテンツを機械学習と人間の目の組み合わせで迅速に削除しています。2022年第2四半期には、違反コンテンツがYouTubeの再生回数の0.09%から0.11%を占め、440万本以上の動画と390万以上のチャンネルをコミュニティガイドラインに違反しているとして、削除しました》

    TikTok
    《プラットフォーマーとして青少年を含むユーザーの安全・安全を最優先と考えており、ガイドラインを設けています。具体的なトラブルや被害例は非公開とさせていただきます》
    《システムと人の目で多重審査を行なっています。性的コンテンツはガイドラインに沿った審査によって排除しています》

    Meta(Facebook、Instagram)
    《ヌードや性的行為や性的搾取、さらに、子どもを性的に搾取する、または子どもを危険にさらすコンテンツを禁止しています》
    《性的コンテンツに関するポリシーを定めており、ポリシーに違反するコンテンツに対してはコンテンツの削除やアカウントの停止などの必要な措置を講じます》
    《ガイドラインに違反する場合、それを削除したうえで、その投稿者のFacebookまたはInstagramアカウントに対して、特定の機能を一定期間使用できなくするなどの制限をかけることがあります》

    各社は、投稿に対する報告機能や審査方法を常に改善しているとした上で、規制の重要性を説明。

    TikTokは審査に関して「『性的コンテンツの取り締まり』と『性に関する教育コンテンツ』は分けて認識」しているとも述べた。

    「常に改善をしていかなくてはいけない」しかし「限界もある」と専門家。発信側にも改善点が

    この問題について、専門家はどう見るのか。

    Yahoo!JAPANでヤフー・トピックス編集長などを長年務め、現在は東京都市大メディア情報学部教授の奥村倫弘さんは、ニュースプラフォの規制に、性教育などの記事が「引っかかってしまう」ということは「実際に起きている」と話す。

    奥村さんによると、一般的にプラフォでは性的なキーワードなどを設定し、見出しや記事内容にそのキーワードが含まれるものを検出したり、アルゴリズムを使って弾いたりするなど、いくつか内容を精査する方法があるという。

    各社の審査や判定の技術について「常に改善をしていかなくてはならない」としつつ、「限界はある」とも指摘した。

    「キーワードを設定しても、無関係なものまで弾いてしまうこともあります。アルゴリズムにしても、例えば性に関するコンテンツだけを判定するアルゴリズムだけではなく、他にも数十という色々なアルゴリズムが同時に走っています。(アルゴリズムなどを)作っている本人たちが、どういうキーワードを入れ、どう制御すれば望むアウトプットが出るかというところが分からない。そこが、機械で判定するところの難しさです」

    「人間の目で見ても白黒はっきりつけられない記事もあるでしょうし、そこを機械がどこまでシミュレーションできるかという点には、やはり限界はあります」

    また、記事を配信するメディア側にも、改善するべき点があると指摘する。

    「パブリシャー(メディア)側にも問題はあります。プラフォに記事を出すことでパブリシャーが欲しいのは、アクセス数です。そのために、記事見出しに性的な言葉を入れて注目を引くというのは、全国紙のウェブ記事でもあることです。そうすると、ますますグレー化して対応が難しくなっていくため、そこはパブリシャー側が改善する必要があります」

    個人による発信が多いSNSの場合、性的コンテンツの規制などはさらに困難となるという。

    SNS側が設定したNGキーワードを予想し、規制の裏をかく表現で児童ポルノなどの悪質な性的コンテンツを投稿する発信者が存在する。奥村さんは、規制とそれをすり抜けようとする「ハック」のいたちごっこ状態になっているとも指摘した。

    「第三者機関が入るなどの対応」「人の目で見て是正を」。改善策は

    ニュースプラフォとSNSは、悪質な性的コンテンツに対する適切な規制と対応をすべきだと考える人は多い。そんな規制の裏をかこうとする投稿者やパブリシャーがいる一方、規制の機械的な適用は、社会性や公益性を主眼に置いた記事や表現行為をも制限しうる。

    どんな改善策がありうるのか。今回の取材に応じたライターと編集者、動画投稿者の3人は、以下のように語った。

    ポインティさんは、凍結などの際の対応、そして規制の2段階での対応の改善が必要だとする。

    これまで、凍結やアカウントのバンなどに遭った際には、SNS各社のお問い合わせフォームなどから連絡をしても「基本的に返信はなく、不親切なコミュニケーション」だったという。「運営会社と基本的に対話ができるような状況にもなっていません」とし、規制の改善に関しては以下のように指摘した。

    「憲法や法律などに基づかない、『セックスの話は控えたほうがいい』のような、なんとなくの判断で個人の表現活動が阻害されている状態だと思います」

    「プラットフォームのガイドラインや規制については、オープンな場で議論や批評されたり、第三者機関が入るなどの対応をしていく必要があるのかなとも思います」

    前出のフリーランスライターの女性は、「プラットフォームのブランドイメージを守るための戦略など意図があるのは分かるが、非表示にしていることや基準などについて、明文化すべき」と語った。

    ウェブメディア編集者の女性は「性被害などの社会問題について書いた記事と、単純に性についておもしろおかしく書いた記事の差は、人間が読めば明らかに分かるはず」と話し、以下のように話した。

    「人がしっかり読まずに機械に任せているから、そうでない記事も排除してしまっている。それはプラフォとして責任を放棄しているのではないかと思います。人の目できちんと見て、しっかりと是正してほしいです」