親と引き離され一人で異国に逃れた子どもたちを、誰が守るのかーー。
搾取。暴力。アフリカから欧州に逃れた子ども2人が直面する厳しい現実を描く映画『トリとロキタ』が間もなく、全国各地で上映される。
難民の子どもを題材に映画を作った思いは。映画を通して、社会に訴えたいことは。
来日した監督に、話を聞いた。
【あらすじ】ベナン出身の少年トリと、カメルーン出身の少女ロキタ。血のつながりはないが、アフリカからベルギーに逃れる中で出会い、異国の地で2人、まるで本物の姉弟のように暮らしている。
トリにはビザが出たが、ロキタには出ず、正規の仕事に就くことができない。2人の生活を支え、母国の家族に送金するため、ロキタはドラッグの運び屋などの仕事をして日銭を稼ぐが……。
欧州に逃れ、消息を断つ子どもたち。今、この世界で起きているリアル
映画『トリとロキタ』の監督は、ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ兄弟。
監督たちは、現実社会で起こっている難民の子どもをめぐる問題に「憤り」を感じ、映画の制作に至ったと話す。
映画の構想を練り始めたのは、10年前。アフリカからベルギーに逃れてきた家族についての映画を想定していた。
実際に映画化に向けて動き出したのは、2021年ごろ。その頃、欧州では、難民の子どもたちの受け入れが問題になっていた。
ジャン=ピエール氏は、こう語る。
「ある日、ベルギーだけでなくフランスやイタリアなど、EU(欧州連合)諸国に逃れてくる子どもたちについて、新聞の記事で読みました。アフリカやアフガニスタンから未成年の子どもたちが同伴者もなく一人で逃れてきて、その子たちの消息がわからなくなっていると」
「例えば18歳になっても正式のビザが取得できないために、偽装ビザを取り、闇の社会に子どもたちが入ってしまったり、最悪のケースも想定されたりしているということです」
「ビザが降りない子どもたちの、行方がわからなくなってしまっているのです。民主主義の国に生きていながら、こういう現状があること、そしてこのような事件が大きな問題にもなっていないということに驚きました」
映画では、トリにはビザが出たが、ロキタにはビザが出ず、偽造ビザと引き換えに、危険な仕事で働くことを強いられる。
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、2021年に紛争や迫害などにより故郷を追われた人の約41%は18歳未満の子どもたち。その多くが、親と離れ離れになり一人での避難を強いられている。
映画では、現実に起きている難民の子どもが直面する厳しい現実を描き、「子どもたちが置かれている状況を告発したかった」という。
ジャン=ピエール氏は「シナリオを書く時点で、やはり怒りや憤りを感じました。 この『不正義』に応えるためにも、このトリとロキタの友情を通して、この物語を語ろうと思いました」と話した。
「脅威」ではなく「友人」である難民の子どもたち
ロキタはドラッグの運び屋などをする中で、仕事を得るために性的な行為を強いられるなど、立場を利用した「搾取」や「暴力」にも直面する。
リュック氏は、難民の子どもたちを守るために「法律を変えるなり、何かの対策を講じることが必要」とも話した。
「彼らは、『搾取』されるだけの人間ではありません。彼らにも、搾取される以外の人生があります。トリは学校に通いたい。ロキタは家事ヘルパーになりたいと、ただそれだけのことを望んでいたわけです。それもビザさえあればできたことです」
「彼らは決して、外国に来て最初から盗みをしたり、悪事を働いたり、法律を順守しなかったりするような人たちではないんです。もっと違った難民のイメージを、私たちは見せたいと思いました」
「この映画の主人公2人は、私たちにとって『脅威』ではないんです。この2人を『友人』として考えてほしいと思いました」
学校でも上映。難民について「知ろう」とする生徒たち
本作は、映画館のほか、ベルギーの高校などでも多く上映された。
リュック氏は、映画を通して、生徒たちが普段メディアで目にする難民のイメージと違った姿を見てほしかったと話す。
「一般的にメディアで再現なしに流れている難民の映像は、とても悪い印象を受けてしまうものが多いと思います。しかし、私たちの映画では、そのような映像とは別のイメージの難民の姿を見せていると思います」
「テレビやラジオでは難民や移民の話は語られているけども、子どもたちは実際にはよく知らないんです。映画の上映後には、情報を得ようとして色々と質問してくれます」
映画で、自分たちと同年代の子どもの難民が苦しむ姿を目の当たりにした生徒たちは、「自分たちには何ができるのか」「どうすればいいのか」と質問をするという。
ジャン=ピエール氏は「おそらく生徒が自分たちで観る映画を選んだら、マーベル系の映画を見ていたと思いますが、この作品を一緒に見てくれることは、とてもうれしいことだと思います」と話した。
先進国の難民受け入れは、どうあるべきか
難民の受け入れをめぐる問題は、映画の舞台となった欧州だけでなく、日本にも大きく関わりがある問題だ。
ロシアのウクライナ侵攻では、800万人以上のウクライナ人が国外に避難している。今年3月までに、日本にも2300人以上のウクライナ人が逃れてきた。
そして、それ以前からも、アフリカ諸国やアフガニスタン、ミャンマーなど各地から日本に助けを求めて難民として逃れてくる人たちがいた。
一方で、日本の難民認定率は例年1%ほどと、先進国諸国と比べると著しく低い状況だ。
難民受け入れが進む欧州でも、本作で描かれたような子どもたちが直面する厳しい状況など、もちろん問題は山積している。受け入れに対する市民の意見も分かられていることも事実だ。
しかし、そのような状況の中で、ジャン=ピエール氏は、先進国の難民受け入れについて、こう意見を述べる。
「先進国である国は、難民を受け入れるべきだと思います。難民の人たちの尊厳を尊重して受け入れるべきです」
「ヨーロッパに逃れてくる子どもたちには、様々な背景があると思います。家族に送金しなければならない子どももいます。しかし、それのどこに問題があるんでしょうか。何が悪いんでしょうか。私は難しい問題ではないと思います」
【予告】『トリとロキタ』
映画は3月31日から、東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネマート心斎橋などで上映される。
上映情報などはウェブサイトから。