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「あっちにいたら死んでたかも」「拷問の傷がある人もいる」男性が日本政府に問いかけること

ウクライナからの避難民を「準難民」と位置付けて受け入れることを掲げて、政府が今秋にも、入管法の改正案を再提出することを目指しています。難民申請中の人々や弁護士などから、再提出に改めて、強く反対する声が上がっています。

ウクライナからの避難民を「準難民」と位置付けて受け入れることを掲げて、政府が今秋にも、入管法の改正案を再提出することを目指している。

しかし、この法案は昨年、日本の難民受け入れや入管施設への収容に大きな影響を与える可能性があるとして、市民からも大きな反対の声が上がり、廃案となっていた。

難民申請中の人々や弁護士などから、再提出に改めて、強く反対する声が上がっている。

弁護士らは6月1日、都内で会見を開き「ウクライナ避難民保護にかこつけて難民を強制送還する改悪をすることは許されない」「火事場泥棒だ」と、法案再提出に向けた動きを批判した。

昨年廃案になった法案では、国に帰れない理由があったとしても強制送還を拒むと刑事罰の対象となりうる、いわゆる「送還忌避罪」(退去強制拒否罪)の新設や、申請回数の上限を設け、3回目以降は強制送還の対象にするなどの内容が含まれていた。

駒井知会弁護士は、同法案は「悪夢の法改悪」と非難。「ウクライナからの難民も、ウクライナ以外からの難民も、等しく救っていく日本であってほしい」と話した。

ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本政府は5月25日までに、ウクライナから1055人の避難民を受け入れた。

ウクライナからの避難民は、就労が可能な在留資格のほか、住民登録や健康保険加入も認められている。

会見で弁護士らは、そういった政府の対応そのものは歓迎している。

会見の趣旨は、ウクライナ避難民の受け入れに反対することではない。

・ウクライナから避難する人々を「準難民」という国際的には聞き慣れない位置づけで受け入れること

・その陰で、これまでの入管政策の問題により、長年にわたり生活にさまざまな制約がある仮放免の状態で苦しむ難民申請者の存在があるという問題点の指摘

・そのうえで、こうした問題を改めて正当化しかねない方向性での法改正に反対する

これが、この会見で難民申請中の人々や弁護士らが訴えたことだ。

保険なしでは、風邪で5万円。家族がインフルエンザになり15万円

6歳の頃に家族と、トルコでの迫害から日本へ逃れてきたクルド人のオザンさん(23)は現在、3回目の難民申請中だ。

家族も仮放免の状態で、オザンさんは「健康保険の加入、携帯や家の契約もできず、仕事もできない。保険がないので、病気になっても医療費が高額になる」と難民申請中の苦しい状況について語った。

「風邪をひいて病院に行くと5万円くらいかかる。家族全員でインフルエンザにかかった時は、妹3人が病院にかかり15万円払いました。自分は病院に行かないようにしています」

2021年夏に公開されたドキュメンタリー『東京クルド』では、オザンさんを含む、クルドの若者の苦悩を追っている。

「トルコに残っていたらどうなっていたか」「死んでいたかも」

日本政府は、トルコ政府との関係性などを理由に、トルコ出身のクルドの人たちには一切、難民認定を下していない。

オザンさんのような状況にある、弾圧から逃れてきたクルドの人たちは、埼玉を中心に、日本に約2千人いるとされている。

弾圧から逃れてきた人の中には、拷問や不当逮捕を経験した人もいる。それでも難民認定は下されず、「どうやって調査しているのか」「どういう理由で(難民認定が)出ないのか」と、オザンさんは問いかける。

「拷問を受けて日本に来ている人もいる。体に傷がある人もいる。それでも(難民認定が)でない」

「あっち(トルコ)にいたら死んでいたかもしれない。どうなっていたか分からない。何回も家に軍の人が来て、お父さんが消えたりもしていた」

仮放免の状態にあるオザンさんは、定期的に入管での手続きが必要だが、その際に入管職員から「いいからとりあえず帰んなよ」「連れてきた親が悪いんだからさ」「いる意味ないじゃん」との言葉を投げかけられた経験もある。

オザンさんは日本政府、そして入管に対し、「1人の人間として向き合ってほしい」「人権を無視している」と思いを吐露した。

「ウクライナの人たちも難民。私たちも難民」

イランでの迫害から逃れ、現在3回目の難民申請中のサファリさん(53)は、計4年間にわたり、入管施設に長期収容されていた。

サファリさんは、「ウクライナの人たちも大変な状況で、彼らも難民。私たちも難民」と訴えた。

「私もそうですし、他の難民申請者もそうですが、自分の命が危ないから帰れないんです」

「私たちの国では今、戦争は起こっていなかったとしても、私たちも政府と問題があり、帰れない」

入管法改正法案の再提出については、「ウクライナ難民を受け入れるために、一度ダメになった法律を通そうというのでしょうか」とし、こう話した。

「法案について聞いて、また不安になった。一難去ってまた一難」

「私たちを切り捨てるつもりなのか、本当にひどいと思います。私たちも人間です」