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メイクをし、ハイヒールをはいたお坊さんが、伝えたいこと「自分が好きな道で生きていい」

メイクアップアーティストで、僧侶の西村宏堂さんが伝える、自分らしく突き進む生き方。初の著書「正々堂々」で語ったこととは。

艶やかなメイクをし、ハイヒールで闊歩する「お坊さん」をあなたは知っているだろうか。

西村宏堂さんは、プロのメイクアップアーティストで、僧侶。

LGBTの当事者でもある西村さんは、「周りの人の期待を意識しすぎるのでなく、自分が生きたい道で生きていい、そう思うんです」と語る。

西村宏堂さんは、メイクアップアーティストとしてミス・ユニバースのメイクを担当したり、僧侶として国連などで講演をしたりと、多岐にわたる活動をしている。

この夏、初の著書となる『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』を出版した。

「お坊さんだけど、ハイヒールも履くし、キラキラしたものも大好きです」「そして自分は、男でも女でもない」ーー。そんな思いを抱きながら「自分らしく正々堂々と生きる」という意味を込めたタイトルという。

プリンセスになりたかった幼少期や、自分の見た目が好きになれなかった学生時代、親にカミングアウトできずに悩んだ経験など、過去を振り返り、今、西村さんが抱く思いを綴っている。

風呂敷を頭に巻いた「こうどうプリンセス」

BuzzFeed Newsの取材に対し、西村さんは「男の子だから『ディズニープリンセスが好き』ということを言えなかったり、受けとめてくれない社会を変えていきたいんです」と語る。

西村さんの幼少期の憧れは、ディズニープリンセスやセーラームーン。

母親のミニスカートを借りて身につけ、頭には風呂敷を巻いて、プリンセスになりきって遊んでいたという。

「こうちゃんは女の子よ」。そう母親には言っていたけど、成長するにつれて、なかなか親に自分の思いを伝えることができなかった。

当時19歳だった、はとこのお姉さんが「女の子用」の雑誌の付録を一緒に作ってくれたり、マニキュアで遊んでくれたりしたという。必要なのは「理解者」、そして「成長しても好きなものを好きと言える勇気」だった。

西村さんは語る。

「私は小さい頃から今まで、ずっと同じ人間で、同じスピリットを持っているんです。昔からキラキラしたものが好き。大人になったから『大人らしくしなきゃ』と思うのではなく、好きなものは好きだと胸をはって言っていいんです」

虹色のミッキーのシールがくれたメッセージ

西村さんは、自身の性自認(ジェンダー・アイデンティティー)について、著書でこう綴っている。

私は私のことを「男でも女でもない」と思っているし、「男でも女でもある」とも思っているんです。

プリンセスになりたかった幼少期から、中高時代、自分を変えたくて飛び出したアメリカ留学時代、ずっと「自分って、なんなんだろう」と悩んでいたが、「自分は自分でいい」と肯定できるようになった、一歩となる出来事があった。

それは、自分らしく生きるゲイの友人との出会い、そして大好きな「ディズニー」からのメッセージだという。

著書では、人生初の一人旅で行ったスペインで出会った、同年代のゲイカップルとの衝撃的な出会いが綴られている。

ずっと人にも相談できずに自身の性自認やセクシュアリティについて悩んでいたが、そのカップルとの出会いが「価値観をぶち壊し、180度考えを変えてくれた」という。

さらに、アメリカで参加したニューヨーク・プライドマーチで「今でも大切にしている宝物」を得た。

それは、ディズニーが配っていたレインボーカラーのミッキーのシール。西村さんが小さい頃から憧れていたディズニーが「応援してくれている」と勇気をもらったという。

「今はそのミッキーのレインボーカラーのシールは、(実家の)お寺の前に貼ってあります。そんなに目立つところではないんですけど、分かる人が見たら、分かるかな」

そうして虹色のミッキーのシールを密かに貼ることで、西村さんがディズニーから受け取った「勇気」のたすきを繋いでいる。

「それぞれの色で鮮やかな生き方を」仏教の教え

著書には、仏教の教えが散りばめられている。

しかしそれらは、毎日の良い行いについてでもなければ、もちろん極楽浄土についてでもない。

ずっと昔から仏教が唱えていた、平等の考えや自分らしく生きるということ、支え合う考えなどについてだ。

西村さんが好きな仏教の教えに「阿弥陀経」という経典の「青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白光」という一説がある。

著書によると「青色の蓮の色は青く光り、黄色の蓮の花は黄色く光り、それぞれの花がそれぞれの色で輝いていることが素晴らしいという意味」だという。

それぞれが違っても、自分らしい色で輝き、それぞれが美しい。LGBTを肯定するような教えに、感銘を受けたと西村さんは話した。

西村さんは僧侶の父親、僧籍を持つ母親のもとに一人っ子として生まれた。親に僧侶になるように言われたりしたことはなかったというが、アメリカ留学中、メイクの仕事も始める中で、修行に出ることを決意した。

「修行は、親に行ってと言われたわけでもなく、長いきれいな髪の毛に憧れていたので、頭も剃りたくないと悩んでいました。けど、私ってなんだろう?と考えた時に、人に伝えられない。自分を知るためにも、毛嫌いしていたものにどっぷりつかってみようと修行にでる決意をしました」

修行中には、「メイクもするし、ハイヒールもはく、キラキラしたものも好きだけどお坊さんになっていいの?」とも悩み、先生に相談したこともあったという。

返ってきたのは「どんな人でも平等に救われるという教えが大切」という答え。

その教えには、LGBT当事者である西村さん自身も助けられてきたため、自分だから伝えられるメッセージを持った僧侶になろうと決意。そうして、「ハイヒールをはいたお坊さん」が誕生したのだという。

キリスト教やイスラム教などでは、同性愛やトランスジェンダーなどが否定されることもある。

アメリカ留学中にできた西村さんの友人にも、敬虔なキリスト教徒の家庭に生まれた友人は、親にカミングアウトできないなど、悩みを抱えていたという。

「宗教によってLGBTが拒絶されるという経験をしている人もいます。宗教は違ったとしても、仏教では寛容だと知ってほしい。実際に、ロサンゼルスに住むドラァグクイーンの友人にそのことを話した時は、少し安心したような表情をしていました」

「仏教は、人生のアドバイスだと思っています。信者を増やしたいとかそういうことではなく、皆が自由に、それぞれの色を鮮やかに自分らしい生き方をしてほしい。皆が平等だって思い出さないといけない時代もあると思うんです」

自分が好きな自分になれる、自分を「応援」してくれるメイク

「自分らしく、堂々と生きて」。そのメッセージを、西村さんはメイクを通しても伝えている。

ニューヨークの美術大学で学びながら、メイクの仕事を始め、ミス・ユニバースのメイクも担当してきた。

西村さんは、メイクは「自分に対する尊厳をアップする」ものだと話す。

実際に西村さんも、自分が嫌だと思っていた自分の顔のパーツも、好きになることができたという。

「自分の一重の目が嫌いだったんですけど、欧米の友人たちから『目が綺麗だね』と言われたことがあったんです。自分では信じられなかったけど、それ以降、自分の目の形をいかしたメイクを研究したりして、自分の目も好きになれました」

「アイプチで二重にして目を大きくするのではなく、切れ長の目の形を生かしたメイクを見つけました。全部のパーツを好きになるのは難しい。けど、良いところに焦点を持って行って、『自分が好きと思える自分』になるためのメイクもできるんです」

西村さんは「メイクすることによって個性を引き出し、メイクの力を借りることができる」と話す。

日本のビジネスマナーでは、「女性はマナーとして化粧をしないといけない」という古い考えもしばしば散見されるが、西村さんの考えはこうだ。

「メイクは、しなきゃいけないからするのではなく、自分を応援してくれるのがメイクです。大事なプレゼンをする時にも、自分に自信を持つためにメイクができる。私も、今日は取材があるからファンデーションを塗って、眉毛を描いて…とメイクをしたら自信がでます」

メイクの力も、西村さんが伝える仏教の教えも、生き方も、全て「自分らしく」という考えに行き着く。

西村さんの「宏堂」という名前の由来には「広い心を持って、堂々とした態度で生きてほしい」という両親の願いが込められているという。

西村さんは話す。

「名前にはそんな思いが込められていますが、学生の時の自分は、全然そんな風に自分を受け入れたり、堂々と生きることができていませんでした」

「でも今は、一重の目も含めたアジア人であるということ、LGBT、全て受け入れて、メイクをしハイヒールをはいたお坊さんとして堂々と生きています」

どんな自分であっても「正々堂々」、それこそが、西村さんが自分の生き方を通して伝えるメッセージだ。


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