• borderlessjp badge

「生まれながら存在を否定され…」「極度の貧困を生きている」在留資格がない高校生も学べるように。奨学金が作られた理由

難民申請中などの理由で、仮放免の状態にある高校生を対象とした奨学金制度ができました。支援団体が主催し、奨学金は寄付を財源としています。

国外にルーツがあり、難民申請をしているなどの理由で「仮放免」の状態にある高校生を対象にした、民間の給付型の奨学金制度ができました。

外国人や生活困窮者の支援団体が連携して主催し、奨学金は一般からの寄付を財源としています。

「仮放免」とは、難民申請中などで在留資格がない外国人を、入管が発行する仮放免許可書のもと、一時的に入管施設での収容を解いた状態のことをいいます。

親と一緒に幼少期に難民として日本に逃れてきた子どもや、その後、日本で生まれた子どもたちなどは、家族が困窮して勉強する機会も奪われている状況にあります。

そのような子どもたちが勉強を続けられるようにするのが、奨学金の目的です。

「私たちはあなたを見捨てない」というメッセージに

奨学金は、一般社団法人「反貧困ネットワーク」と、NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」が連携して主催。都内で12月12日、会見を開いて奨学金について説明しました。

奨学金の支給期間は15カ月で、月1万円(合計15万円)。1万円は公立学校の高校の授業料 1カ月分に相当します。

対象は、仮放免者が多く住む一都六県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、群馬県、栃木県、茨城県)の在住者が対象で、今年は約15人を目安に募集します。

移住連理事で東京大学准教授の高谷幸さんは、奨学金は仮放免の高校生への経済的サポートのほか、「私たちは、あなたを見捨てないんだと伝えることが目的」として、こう語りました。

「仮放免の状態に置かれた子どもたちは、親が働くことを禁止されていて、極度の貧困状態の中を生きています。義務教育期間中は就学支援を受けられますが、高校からは就学支援金の対象にはなりません。日本国籍でないために多くの奨学金が受けられないこともあります」

「制度からの排除ということも大きな問題ですが、生まれながら仮放免だったり、ビザがなかったりする状態の子どもたちは、『この社会には生きていてはいけない存在なんだ』と感じてしまっています」

「自分たちの責任でないところで、生まれながら存在を否定されている状態は、彼ら彼女たちの『生きる力』を本当に奪っています。見捨てられた絶望感や、自分の存在価値を否定され無力感を感じている子どもたちを支えたいという思いです」

迫害などから逃れ日本へ。しかし就労もできず困窮

仮放免の状態では就労許可がありません。そのため、仮放免の家族は、親が働くことができず、出身国や国外にいる親戚からの援助や、日本国内の支援に頼って生活している状態です。

また、仮放免では住民票が作れず国民健康保険への加入もできず、登録した居住地以外への移動や就労は禁止されています。

難民申請中の家族の多くは、故郷で紛争の影響を受けたり、人種や宗教を理由に迫害や差別に遭い、命からがら日本へ逃れてきました。

出身国には帰ることもできない一方で、日本でも長年、在留許可が降りずに厳しい状況に置かれています。

今回の奨学金でも、埼玉県川口市・蕨市などに住むクルドの高校生などからの応募が予想されています。

日本の難民認定率は例年1%に満たず、国際的に見ても極端に低い数字となっていいます。

そのような状況の中、自分の責任ではない理由で先が見えない生活困窮に苦しむ高校生へのサポートが必要だとし、奨学金が設立されました。

大学生がチューターで伴走。食料支援などへの橋渡しも

奨学生には、大学生がチューターという形でつき、勉強や学校生活、将来など、日常的な相談にのる予定です。

この日の会見には、チューターになる大学生4人も参加。

上智大学の国本万葉さんは「仮放免の高校生に、前向きな思いで希望を見出してもらえるよう、『支援』『アドバイス』というような形ではなく、一緒に前に進んでいくような気持ちで取り組んでいきたい」と話しました。

チューターは2ヶ月に1回程度、奨学生と会い、家庭の状況などを把握。必要であれば、反貧困ネットワークや地域のフードバンクなどが行う、生活支援や食糧支援にもつなげます。

奨学生には、奨学金のほかにも、必要であれば学用品や制服などの購入も支援する予定といいます。

移住連によると、入管は2019年6月時点での10歳以上20歳未満の仮放免者数は170人であるとしており、高校生は50人ほどと推定しています。

奨学金の募集締め切りは2023年1月6日。

主催団体は、一般からの奨学金への寄付も募っています。応募や寄付に関する詳細は、団体ウェブサイトから。

「仮放免でも自分の夢を追いかけられる日本に」元仮放免高校生の声

今回の奨学金のスタートにあたり、元仮放免高校生や仮放免高校生が、以下のようなメッセージを寄せました。

《私が仮放免だった時は、自分が将来やりたいことがあるのに、そのスタートラインにも立つことができませんでした》

《人は働かなければお金はもらえません。しかし、仮放免だと働くことすらできません。ましてや子どもとなると、まず他の子と同じようには生活はできません》

《在留資格を持つことができないのは高校生たちのせいではありません。日本人やビザを持っている子どもたちと同様、彼らにも将来の夢があると思います》

《私はこれからの日本が、仮放免でもいろんなことに挑戦することができて、しっかり自分の夢を追いかけることができるようになってほしいなと思っています》