「命や人権を守るという意識が欠如」路上生活者の支援団体が台東区役所に要望書

    台風19号の襲来時に台東区役所が路上生活者の自主避難所利用を拒否した問題で、支援団体が区に要望書を申し入れました。

    台風19号の襲来時に、台東区役所が路上生活者の自主避難所利用を拒否した問題について、路上生活者を支援する一般社団法人あじいる(東京都荒川区)が10月21日、台東区に5項目からなる要望書を提出した。

    避難所にきた路上生活者を追い返すということを、区が決定していたことは「行政が人の命に優劣をつけ、切り捨てていくという絶対許されない行為」と強く批判。再発防止に向けて、対策を講じることなどを求めた。

    この日、区役所に要望書を提出したのは、台風が襲来する直前の10月12日午後に、台東区内の上野駅や上野公園などで、路上生活者に物資の配布や呼びかけをした、あじいるのメンバーら。

    区役所では、服部征夫・台東区長宛ての要望書を区長室と災害対策課の職員に手渡し、文面を読み上げた。

    要望書では、家がない状態の路上生活者は、災害で「もっとも弱い存在」であるとした上で、災害対策基本法などにも基づき、行政は全ての人を災害時に援助すべきであると指摘した。

    区への要望書には、関西など他地域の路上生活者支援団体の他、大学教授など100以上の団体・個人が賛同し、連名で提出された。

    区の広報課は台風直後、報道機関の取材などに対し、区内に住所がない路上生活者が避難所を利用できないという判断は、「区の決定」で「災害対策本部の事務局が判断した」と説明していた。

    要望書はそれに対し、「区の決定は、ホームレスの人々に対する差別、排除に基づく決定である」として、平時から区職員への人権研修などを行うよう求めた。

    12日に上野で路上生活者に呼びかけをしていた、あじいるのメンバー・斎藤有子さんはBuzzFeed Newsに対し、「避難所に行った路上生活の方が(利用は)ダメと言われた時には愕然としました。実際に避難所に行った人を追い返すなんてありえないです」と区に対する失望の思いを語る。

    路上生活者の避難所受け入れに関しては、インターネット上でさまざまな意見が出ている。しかし斎藤さんは「路上生活者は税金を払っていないから行政サービスを受けられないという意見を見ましたが、その場にいた人を救うのが行政の仕事です」と指摘した。

    今回、あじいると一緒に要望書を提出した、一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事の稲葉剛さんは、災害対策課長に対し、「普段から、ホームレスの方への配慮が欠如していたのではないかと疑わざるをえない状況です」と話した。

    また、台東区の担当者が報道機関からの取材に対して「住所不定者の方は来ることを想定してなかった。来るという観点がなかった」と説明していたことについて、このように指摘した。

    「台東区は他の区と比べて、ホームレスの方が多くいる自治体です。そのような状況があるにも関わらず、そのような人たちの命をどうやって守るかということを、災害対策本部の中で考えてこなかったということは、本当に深刻な問題だと考えています」

    「なぜ、このような決定がなされたのかということをきちんと、全庁的に検証をするよう努めてもらえればと思っています」

    「すべての避難者を受け入れるのが望ましい」

    避難所利用に関する問題に関しては、10月15日の参議院予算委員会で、国民民主党の森ゆうこ議員(新潟選挙区)が「今回のホームレス受け入れ拒否の問題をどう思うか」と質問し、安倍晋三首相が答弁。

    「避難所は、災害発生時に身体生命を保護するために設置される。すべての避難者を受け入れるのが望ましい」と語っていた。

    区長が決算特別委員会で謝罪

    服部区長は10月21日に行われた決算特別委員会で、委員会冒頭に発言し、自主避難所利用を断った件について、以下のように謝罪の言葉を述べた

    「台風19号の際に、避難所での路上生活者の方に対する対応が不十分であり、避難できず、不安な夜を過ごされた方がおられたことにつきましては、大変申し訳ありませんでした」

    区長は、台風襲来時に区内に自主避難所を4カ所、東京都と連携し、外国人観光客ら向けの一時滞在施設を2カ所開設したことを説明

    その上で、「そこに地域以外や路上生活者など、さまざまな方が訪れることを想定できなかったという、課題が見つかりました」と話し、このように今後の方針を述べた。

    「区では今回の事例を真摯に受け止め、庁内で検討組織を立ち上げ、検討を開始いたしました。今後は関係機関とも連携し、災害時に全ての方を援助する具体的な方策について検討し、対応を図って参ります」

    区長は10月15日、「避難所での路上生活者の方に対する対応が不十分であり、避難できなかった方がおられた事につきましては、大変申し訳ありませんでした」と区のウェブページ上でコメントを発表し、謝罪していた。

    台東区への要望書全文

    台風19号が接近し、メディアではさかんに「命を守る行動を!」と呼び掛けている中、台東区災害対策本部は、ホームレスの人々(路上生活だけでなく、ネットカフェ生活など広い意味でホームレス状態にある人)を避難所には入れないという決定をしました。

    ホームレスの人々を、災害対策の対象から除外するということは、行政として命を守らないということを宣言したことになります。災害対策基本法は、その目的(第1条)として「国民の生命、身体及び財産を災害から保護する」と掲げ、基本理念(第2条の2)として、「人の生命及び身体を最も優先して保護すること」と定めていますが、この目的・理念を逸脱しています。

    家がないという状態が、災害に対して最も弱い存在になるということは、言うまでもありません。

    台東区は拒否をした理由として「事実として、住所不定者の方が来るという観点がなく、援助の対象から漏れてしまいました」と報道関係者に説明しています。

    台東区は、山谷を抱える地域であり、ホームレスの人々が多く住んでいる地域であるにもかかわらず、住所がない人たちの存在を想定していなかったというのは、日常の業務の中でも、その人たちの命や人権を守るという意識が欠如していたからではないでしょうか。

    私たちは、災害対策だけでなく、台東区が住所のない人たちへの日常的な対応を全庁的に検証し、改善することを求めます。

    今回の台東区の決定は、ホームレスの人々に対する差別、排除に基づく決定であり、行政が人の命に優劣をつけ、切り捨てていくという絶対許されない行為です。私たちは、今回の台東区の決定に、強く抗議するとともに、以下の要望をします。

    1.台東区は、避難所にホームレスの人々を入れないという今回の決定について、被害者に届くように、謝罪をしてください。10月15日付の台東区長の出した謝罪とコメントには「避難できなかった方がおられた事」とありますが、謝罪すべきはホームレスの人たちを拒否すると決定し、受け入れなかったことです。改めて謝罪することを求めます。

    2.台東区は、命にかかわる緊急時においては、災害対策基本法の基本理念「人の生命及び身体を最も優先して保護すること」に遺漏がないようその責任を果たしてください。

    3.これからの災害対策において、当事者並びに支援団体の声を聞いてください。災害大国日本と言われている中で、これまでにない事態に遭遇した時どう対処していくのか、これは今後の大きな課題です。特に都市部においては、多様な立場の人々がより多く存在していることを考えると、行政のみで対策を考えることには到底無理があります。ホームレス状態の人々のみではなく、社会的弱者と言われる人々の人権をしっかり守っていくためにも、当事者からの生の声を聞くことは不可欠です。

    4.ホームレスの人たちに関わる生活保護行政、教育行政(ホームレスの人たちへの襲撃事件をなくすための授業の実施を含む)、人権行政などの日常業務が適切であったかどうかを全庁的に検証し、改善策を講じてください。また、ホームレスの人たちの人権に関する職員研修を定期的に実施し、幹部職員の参加を義務付けてください。

    5.以上の点について、私たちとの話し合いの場を持つことを求めます。

    以上、2019年10月31日(木)までに文書での回答をお願いします。