「毎日、動物以下のように扱われました。ただ1人の人間として接してほしかった」ーー。
職場での暴言などパワハラに堪えかねてNPOに「保護」された2人のカンボジア人技能実習生は、繰り返しそう語った。
1年4カ月、関東の建設系企業で働き、パワハラに遭ったという。
BuzzFeed Newsは、30代の技能実習生Aさんと、20代のBさんに話を聞いた。

資材投げられ、罵倒される日々
2人は日常的に現場で上司から暴言を吐かれ、時には「資材を投げられたりした」という。
Aさんは職場でのパワハラの日々を振り返り、こう話した。
「あほ、ばか、殺す、くそ、帰れ、などと毎日のように罵倒されました。日本語はがんばって勉強していましたが、言っていることが分からない時にも怒鳴られました」
「夏場に水を飲もうとしたら罵倒されたり、『休憩するな』と怒鳴られたりしました。『技能実習生』という名の奴隷のように扱われた。職場というよりは、戦場だった」
Bさんも「私たちは動物ではなく人間。人として、接してほしかった」と語った。
暴言を受けた時は直接抗議をしたり、先輩に相談したりもしたが「証拠がない」と何もしてくれなかった。社外の相談先もわからずに、耐えていたという。
「悲しくて泣いたときもあります。けど会社の人とは仕事で毎日、関わらないといけません」
「時にはひどい言葉を言われ、国に帰りたいと思ったこともあったけど、日本に来るために多くの借金をして来ているので、お金を貯めるまでは帰れない。家族にも送金していたので、暴言なども我慢して働きました」(Aさん)
コロナ禍で仕事減り困窮。保護され実態浮き彫りに

この会社には他にも技能実習生がいたが、暴言や暴力を受けて既に3人が失踪していた。
AさんとBさんはパワハラに耐えながら働いていたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で建設現場が減り、仕事がない日々が続いた。
家族への仕送りで貯金はほとんどなく、生活は厳しかった。その上、雇用主から支払われるはずの休業補償も十分に支払われなかったために困窮。ついに外部に支援を求めた。
労働問題などに取り組むNPO法人「POSSE」が、コロナ禍で困窮する外国人労働者や技能実習生らを支援しているという情報を得て、連絡した。この団体に2020年12月上旬に保護された。
生活困窮者の支援を行う「つくろい東京ファンド」のサポートも得て、受け入れ企業の寮を出てからは、しばらく都内のシェルターで暮らした。
POSSEはパワハラについて労働基準監督署と外国人技能実習機構に報告した。実習生の受け入れと支援を行う監理団体にも相談したが、いずれもパワハラについては、対策に動いてくれなかったという。
「このような問題抱えているのは、僕たちだけではない」

2人は保護されてから約2カ月後、職を得て他の企業で働き始めた。
パワハラを受けていた企業とは話し合い、和解した。
Bさんは「このような問題を抱えているのは僕たちだけではありません」と話し、各地の技能実習生が直面する問題の調査や、救済が必要だと訴える。
ベトナム人をはじめとする多くの技能実習生らが、コロナ禍のなかで解雇されたり、劣悪な労働環境に堪え兼ねて失踪・保護されたりすることが多発している。
潜んでいた技能実習制度の問題点や矛盾点が、コロナ禍で浮き彫りになったといえる。
「希望を持って日本にやってきて技能実習生たちが納得できるような、法的な解決を求めたいです」
「実習生受け入れ企業が契約内容や実習生の人権をきちんと守るよう、日本政府は監視、指導をしてほしい」(Aさん)
2人は、技能実習生受け入れに関わる日本政府の各省庁や機構、団体に「誠実に対応してほしい」という。
2人が働いていた企業は、BuzzFeed Newsの取材に「円満に解決しました」とだけ回答した。
「日本で働いて経験を積み、貢献したいという気持ちだった」
2人は、実習生として来日することに、大きな期待をかけていたという。
Aさんは「日本に来た理由は、日本の技術を学びたかったから。技能実習制度は勉強しながら働ける制度だと聞き、家族へもお金が送れると思ってきました」と話す。
カンボジアには妻と幼稚園児の息子をおいて来日している。寂しい日々だが「将来のため」と仕事や日本語の勉強に励んだ。

Bさんはまだ20代前半。「先進国である日本で、技術を学びながら働ける機会があるのなら、自分の将来にもメリットがあると思って来ました」と話す。
「日本で学んだ技術を、将来自分の国で生かして働きたいと考えていました。働いて経験を積んで、日本にも貢献したいという気持ちでいました」
2人は来日前、日本語学校で語学に加えて日本の文化や習慣を学んだ。
「日本人は時間に正確で礼儀正しいと習いました。日本の文化が好きになりました」
「しかし、実際は仕事場では毎日怒鳴られ、まさか日本人にそんな人がいるとは思いませんでした。大きなショックを受けています」(Aさん)

2人ともそれぞれ、日本円にして40万、60万円相当の借金をして来日している。それぞれの年収に近い額で、カンボジアにいる限り、そう簡単に返済できるものではない。
技能実習生の多くは、この2人のように母国で送り出し機関に渡航費用や手数料などとして多額を支払い、日本にやってくる。そして、借金の返済と家族への仕送りを続けながら働くのだ。
2人も自分たちの手元では賄えず、銀行や親戚に借りて出したという。いまも返済中のため、新しく働き出した企業で稼ぎ、節約しながら返していく予定だ。
「明らかな人権侵害」
2人を保護した「POSSE」の佐藤学さんは、受け入れ企業によるパワハラなどは「明らかな人権侵害」と語る。
「監理団体に相談した際には『我慢できないなら帰国を」と言われただけでした。本来なら、何か問題があれば監理団体が保護するべきであり、困窮させてはいけません」
監理団体のずさんな現状や、技能実習生が守られていない点を指摘し、法整備が急務だとした。
「困っている労働者助けたい」「家族に楽を」

2人は、3年間の実習期間は日本で働き、新しい技術や日本語能力を身に付けたいと考えている。
実習期間終了後の目標を尋ねると、2人とも夢を語ってくれた。
Aさんは「このまま日本語をがんばって勉強し、将来はできれば日本で、カンボジア人労働者のためのクメール語通訳になりたい」と話した。
今回、POSSEが保護した際には、ボランティアとして活動するクメール語通訳の存在があったため、コミュニケーションがスムーズにとれた。
「私たちを助けてくれた通訳さんのように、私も将来、困っている労働者を助けたいと思います」
Bさんは実習期間を終えたらカンボジアに帰り「仕事のない人に職を作れるような取り組みをしたい」という。
また、はにかんだ笑顔で「お金を貯めて帰国したらたくさん牛を買い、家族に少しでも楽をさせてあげたいです」と話した。
