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「マンガで勉強する」って実は、欧米では普通じゃなかった…!日本の「学習マンガ」の文化をドイツで。込められた思い

日本では歴史などを学ぶ一つの方法である「学習マンガ」。ドイツで今、学習マンガを広めようとしている、日本人を取材しました。

日本で育った多くの人が、世界の伝記や日本の歴史について「学習マンガ」で学んだという経験を持っているのではないでしょうか?

今、その学習マンガが、日本から遠く離れたドイツで広がりを見せようとしています。

実は、「マンガで勉強をする」という習慣は、欧米諸国などでは主流ではありません。

ドイツで今、学習マンガを広めようとしている、日本人を取材しました。

この学習マンガをドイツで広めようとしているのは、東北新社とWhateverの共同出資により設立したクリエイティブ・プロデュース会社WTFC。

2020年9月から、マンガで学習するという選択肢を世界に広めるサービス「Aha!Comics」をスタートし、ドイツ・ベルリンに住む日本人デザイナーやイラストレーターと共に、この学習マンガを作っています。

この「Aha!Comics」の発起人であり、編集長の田中翔子さんは、こう語ります。

「ドイツではエンタメとしてのマンガは認知されていますが、教育関係のマンガは普及しておらず、いわゆる『学習マンガ』という分野は確立されていません。日本の図書館や本屋では普通にある、学習マンガコーナーもありません」

ドイツでは、マンガは子ども向けなどの物語が主流で、算数などの知識をマンガから学ぶという発想自体が、とても新しい感覚なのだといいます

「学習マンガ」がない国で

田中さんを始めとするAha!Comicsのプロジェクトメンバーも、日本では、学校や図書館、または家に置いてある学習マンガで、歴史や歴史上の人物、算数や理科などを学んできました。

5年前からドイツ・ベルリンに住む田中さんは、ドイツで学習マンガがないことに気づき、「マンガで学べたら勉強がもっと楽しくなるかも」「学習マンガの素晴らしさを知ってほしい」と思ったといいます。

マンガだから、楽しく学べる

Aha!Comicsの学習マンガの第一弾として発行されたのは、「かけ算」についての小学生向けのマンガ。

日本の算数の授業では、「九九」を覚えます。暗記してしまえば一桁のかけ算はそこまで難易度が高くありません。しかし、ドイツ語では数字の単語が長く、語呂が悪いことなどから、ドイツの一般的な小学校では、九九を暗記するということはないといいます。

「かけ算など算数の初歩でつまずいてしまう子どもも少なくありません」(田中さん)

「かけ算は、初等教育の算数の基礎でありながら、世界的につまづきやすい単元のひとつ」という考えから、イラストを使って、子どもが好きなマンガで説明するという手法をとったといいます。

まず、マンガで勉強をするという発想がないドイツで、「学習マンガ」というものについて知ってもらうために、現在、かけ算の学習マンガ3000部を小学校や図書館に無料配布中だといいます。

かけ算についてのマンガは、ウェブサイト上でも公開されています。

マンガを配った小学校や図書館からは、このような反応がありました。

「スーパーヒーローについてのストーリーではなく、かけ算とかそういうものを書く、というのはいいアイデアだと思った!」(小学3年生)

「知識をコミックという形で届けるというのは非常に素晴らしいプロジェクトだと思います。このような教材が学生時代にいくつかのテーマであれば、学びがすぐに2倍の楽しさになったことでしょう。私たちの図書館でも当時の私のように、このような教材を望む借り手がたくさんいると思います」(図書館職員)

また、小学校の教員は「コミックで、自宅でも、授業でも、かけ算を楽しく学ぶことができる」とし、コロナ禍で子どもたちがなかなか学校に行けない中でも学習マンガが家庭での学びに役立つと話しました。

田中さんの他に、イラストレーターの高田ゲンキさんなど、メンバー5人が、ドイツに居住していています。

チームには、ドイツで移民の研究をしていたり、ドイツ人の夫と共にドイツに20年以上住み、小学生の子どもがいたりするメンバーも。ドイツでの教育や文化を熟知していることも鍵となりました。

さらにドイツの初等教育や小学生向けの書籍について知るため、実際に小学校や図書館を訪れて、調査も行ったといいます。

登場キャラクターも、多様性に配慮

マンガに登場するのはサルやクマなどの動物ですが、登場するキャラクターの多様性にも配慮がされています。

田中さんは、その点についてこう語ります。

「ステレオタイプに描かないように気をつけました。お母さんとお父さんの服の色なども、性別の固定概念にとらわれない配色にしました」

「また、登場するお母さんも先生として働いていますが、髪の毛はピンク色。パンツスタイルです。登場キャラクターの服装も、『女の子だからスカート』いう古い固定概念にならないよう、ズボンスタイルの女の子も描きました」

このように、子どもが読むマンガだからこそ、性別から連想される色、仕事、服装など古い固定観念にとらわれない表現と、その確認作業を徹底したといいます。

肌の色も、ジェンダーも、生き方も多様な現代の世の中で、マンガによって「(誰かを)無意識に傷つけることがないよう気をつけた」と田中さんは話します。

移民の子たちの学びの助けにも

ドイツでは積極的に移民や難民を受け入れる政策をとっていて、国内にはドイツ語を母語としない人たちも多く住んでいます。

ドイツに保護者と移り住んできた子どもは、ドイツ語で勉強をしていくことになります。

学校では、移民の子ども向けの授業などもありますが、それぞれの語学力もバラバラで、母国での勉強に比べるとやはり難易度は高くなってきます。

移民の家族や子どもの視点からもフィードバックを得て、次の学習マンガの作成に生かすため、ドイツに住むアラブ系移民を支援する団体や、多国籍の人々が住む団地にも、学習マンガが届けられました。

Aha!Comicsの学習マンガは、ドイツで生まれ育った子どもだけでなく、ドイツ語に不慣れな子どもたちでも「知識をつけていけるように」という想いで作られています。

いずれは日本に住む子どもにも

プロジェクトに関わるメンバーがドイツに居住していることもあり、まずはドイツで、ドイツ語にて展開し、書店や学校への販売を目指します。

しかしドイツ語での学習マンガが充実した後には、ニーズに合わせて英語や日本語、他の言語でも展開していくことも計画しているといいます。

日本でも、日本語だけでなく多言語版を届けることで、海外にルーツを持つ子どもたちに、それぞれの母語で学習マンガを届けることができるかもしれません。

ドイツの図書館や本屋に、学習マンガのコーナーを

現在、Aha!Comicsはドイツの教育系の雑誌からも取材を受けるなど、注目が集まっているといいます。

書籍に「学習マンガ」という分野がない国で活動するにあたり、田中さんは、こう語ります。

「もし学校での学習が苦手でも、マンガで勉強できることで、勉強が好きになってくれたら」

「20、30年後に、ドイツでも学習マンガというコーナーが図書館や本屋にあるのが普通になって、手軽に手に取れるようになるといいなと思います」