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「外国人でも投票できるようにすべき?」当事者の思いは。“都構想”きっかけに再燃した議論と今後

大阪で住民投票が行われた都構想をきっかけに、「外国人でも投票できるようにすべき?」などの質問を外国人市民に問う、アンケート調査が行われました。

大阪市で11月1日に実施された「大阪市廃止・特別区設置」いわゆる「都構想」をめぐる住民投票。

公職選挙法に準じ、大阪市民でも外国籍の住民は投票できませんでした。

住民投票などでは「外国人でも投票できるようにすべき?」

あなたなら、この問いにどう答えるでしょうか。

都構想の住民投票をめぐっては、市民グループ「みんじゅう(みんなで住民投票!)」が、外国人住民も参加できるようにと約1年半にわたり活動を続けてきました。

結果的には11月の住民投票でも、外国人住民の投票参加は実現しませんでした。

住民投票では賛成派と反対派が拮抗しましたが、約1万7千票差で否決されました。

大阪市という市の将来を問う重要な投票でしたが、「投票」という形で意見を表明できなかった外国人住民の声を「可視化」しようと、みんじゅうはアンケート調査を行いました。

「見える化」された外国籍の大阪市民の声

アンケート調査は、住民投票が実施される前月から1カ月間、紙に書いて答える形で行われました。

日本語、やさしい日本語、英語、中国語、ベトナム語、ハングルの5言語で行い、40の国・地域出身の大阪市在住外国人住民873人が回答しました。

商店街や日本語教室、各国の料理店や食材店などを訪問し、回答を集めたといいます。

みんじゅうは調査結果を11月9日、会見で発表しました。

「反対」の次に多かった「わからない」

アンケート調査では、都構想への賛否や、「住民投票があることを知っているか?」という質問が聞かれました。

都構想の賛否については16.38%が「賛成」、45.70%が「反対」、37.57%が「わからない」と答えました。

みんじゅうは、多言語で都構想の内容について説明されてこなかったことから、「わからない」と答えた人が多かったのではないかと予測しています。

住民投票については75.26%が存在を知っていましたが、言語の壁などが理由で24.51%は知りませんでした。

市は、都構想や住民投票についての多言語発信に力を入れていませんでした。

90%「投票できるようにすべき」

外国人住民の住民投票参加については、90.03%が「投票できるようにすべき」と回答。

その理由としては「生活に直結する問題に参加したい」「納税の義務を果たしている」「住民としての当然の権利」といったものがありました。

アンケートの自由記述欄では「この町に70年住んでいるのに、投票できません」「大阪人やのに」という声も寄せられました。

みんじゅうのメンバーとして活動してきた本村綾さんは取材に対し、アンケート調査についてこう語ります。

「(投票する)権利がない人たちの権利を作りたかったのですが、それができなかったので、その人たちの意見を『見える化』しました」

「有権者の人たちは、投票に行って意見を表明することができます。意見を言いたくても言えない外国籍の人たちの『意見を聞く』ということがアンケートの目的でした」

みんじゅうの活動は、住民投票が実施される見通しが明らかになった2019年春以降にスタートし、9月にはFacebookやTwitter、ウェブサイトなどを立ち上げて発信を開始しました。

大都市法・大都市令の改正を求めて署名を集めたり、大阪市に陳情書・署名を提出したりしてきました。また、国会議員にも働きかけて賛同を得て、請願を衆参両議院に提出。総務委員会にて審議されました。

一方で、松井市長は2月の会見で記者の質問に対し、外国人住民が投票したい場合は「国籍を取得して参加してもらいたい」と答えています。

みんじゅうは、外国人の地方参政権の問題は「みなで考えるべき問題」としています。本村さんは、こう話します。

「住民投票の『住民』の部分が、本来『あるべき姿』になっていないのではと思い、改善するべきだと声をあげました」

「今回、アンケートでその意見や声を『見える化』したことで、みなさんにも一緒に考えてもらえたらと思います」

アンケート調査結果に関しては、「人権教育の資料として使いたい」との問い合わせもあり、教育関係者から「全校集会で話しました」という声も寄せられました。

本村さんは「今後、(話し合いなどが)どう広がっていくかということも大切だと思っています」と語ります。

「これからの日本、誰と一緒に作っていく?」

外国人住民の地方参政権は、長年にわたり議論されてきました。

法務省の発表(2019年12月現在)によると、日本の在留外国人は約293万人で、年々、増えています。

みんじゅうの呼びかけ人の一人で、特定非営利活動法人コリアNGOセンター代表理事の郭辰雄さんは、投票による外国人の社会参加について、こう語ります。

「30年前は在日コリアンが(地方参政権権利獲得の運動の)中心となっていましたが、今は色んな国から300万人弱の外国人が来て、地域に根ざして暮らしています」

「少子高齢化も進む中で、日本に多くの外国人が移住してきています。地域を誰と一緒に作っていかなあかんの?という問いを考えるべきです。日本の人たちにとっても課題で、何らかの取り組みが必要となってきます」

今回は、大阪市の行方を決める住民投票でした。

これまでも、自治体合併や産業廃棄物処分場の設置、原発誘致や公共事業など、地域のあり方を巡る、さまざまな住民投票が、日本各地で行われてきました。

郭さんは、外国人住民に投票権がないことで、意思決定の場での発言権が与えられないことを危惧します。

郭さんはこう語ります。

「外国人に社会・政治的な発言ができる場を与えていないと、本当の意味で外国人にとって住みやすい社会にはなりません。問題も改善されていきません」

「この問題は地域社会を作っていく中で、外国人を主体者として、地域でどう受け入れていけるかということだと思います」