ロシア人と結婚した祖母へ「今起きていることは知らない方がいい」ウクライナ侵攻で12人が綴った手紙

    ロシアのウクライナ侵攻を受けて、綴られた12通の手紙と12人のポートレート。日本人写真家の思いを聞きました。

    「ウクライナで何が起こっているかは知らない方がいい」「私たちのために祈って」

    ウクライナとロシアにルーツを持つ女性は、そう手紙に綴った。

    日本人写真家・デュポン洸子さんは、ロシアのウクライナ侵攻を受け、12人のポートレート写真と、それぞれが書いた12通の直筆の手紙を組み合わせた作品を発表した。

    それぞれの手紙は、ウクライナに思いを馳せた時に、「伝えたい思い」がある人に宛てられている。

    デュポンさんに、作品に込めた思いを聞いた。

    デュポンさんは、ウクライナでの戦争をめぐり、話を聞いた12人のインタビューの内容とそれぞれの写真、直筆の手紙をウェブサイトなど公開している。

    デュポンさんはアメリカ在住の写真家で、これまでイギリス、フィリピン、ミャンマーなどで撮影をしてきた。

    今回の撮影はデュポンさんが5年間暮らし、写真家として活動したイギリス・ロンドンで行った。

    企画を始めたのは、ロシアが2月にウクライナへの攻撃を開始した直後のこと。

    ヨーロッパでは特に、「第三次世界大戦が始まってしまうかもしれない」という危機感が人々の間でも高まっていた。

    デュポンさんは「人々の思いや、この状況を記録しなければ」と強く感じたという。

    知り合いのつながりやSNSを通して、作品に参加してくれる人を募集した。

    「目には涙が溢れ、心は血を流しています」

    作品の中で人々は、ウクライナへの思い、平和への願いを綴っている。

    ロシアとウクライナ両国にルーツがある、イギリス在住のアリオナさんは、10年前に他界した祖母マリアさんに宛てた手紙を書いた。

    祖母はウクライナ出身。ニュースでは日々、祖母の故郷がロシアによって攻撃される様子が伝わる中、手紙で祖母に思いを吐露した。

    《私の目には涙が溢れ、心は血を流しています。おばあちゃんは10年前にこの世を去ったから、私たちの故郷ウクライナに今起きていることの目撃者にならずに済んでよかった》

    《どうか安らかに眠っていてください。今、何が起こっているかは知らない方がいい。でも私たちはここにいる。どうか私たちのために祈っていて》

    戦争をする両国にルーツを持つアリオナさんは、複雑な思いを抱いていた。

    アリオナさんの祖母はウクライナ、祖父はロシア出身で、2人は第二次世界大戦中に出会い、結婚。戦後、貧困や飢餓とも闘いながら、その後の人生をかけてゼロから生活を立て直した。

    当時、ウクライナとロシアはソビエト連邦という同じ国家に属していた。

    アリオナさんは「そのようなことが起こったのに、また戦争が起こっていることが信じられない」と、デュポンさんのインタビューに対し語っている。

    身につけたウクライナのショール。母国への思い

    ウクライナから7年前にイギリスに移住したというマリーナさんは、撮影の日、ウクライナから持ってきていたショールを頭に巻いた。

    ウクライナの曽祖母から、祖父、母と代々受け継いだ大切なショールだった。

    ウクライナにはマリーナさんの親戚や友人が今も多く暮らしている。国外に避難した人もいれば、避難の機会を待つ人、または国に留まると決めた人もいるという。

    マリーナさんは「ロシアに住む親戚の中には、ウクライナが悪いと考える人もいる」と話し、一方で「戦争に反対しているロシア人の親友もいる」とした。

    手紙は、このプロジェクトを目にする世界の人々に宛てられ、マリーナさんは「ウクライナを助ける方法はたくさんある。あなたなりの方法を見つけて行動に移して」と呼びかけた。

    故郷を逃れた両親と重なったウクライナ避難民の姿

    この作品を企画した時は、第三次世界大戦が勃発する可能性への危機感も高まっており、デュポンさんは撮影などへの参加に国籍などは限定しなかった。

    理由は「ロシアとウクライナの問題だけではなく、全ての人に関わる問題」「誰にとっても他人事ではない」と感じたからだ。

    ロシアとウクライナにルーツがある人も多く参加したが、他の国籍で、両親や祖父母が戦争をきっかけに避難してきたという難民や移民も参加した。

    ミャンマーにルーツがある、イギリス国籍のピーターさんもその一人だ。

    ピーターさんの両親は第二次世界大戦中、混乱の中、故郷を離れることを余儀なくされた。

    ピーターさんには、両親の経験と現在のウクライナの人々の姿が重なったという。

    直筆の手紙にこだわったのには理由があった。デュポンさんは、こう語る。

    「小学校の頃、東京のどこかの戦争に関する資料館で、日本の兵隊の直筆の手紙を読んだことが強く記憶に残っています」

    「その頃の私にとって、戦争は『違う世界の話』のように感じていましたが、若い兵士たちが書いた手紙を読んで、『自分と年がそう離れていない若者が戦争に行った』ということが現実味を帯び、ショックを受けました。直筆の手紙は、思いを伝えるのにパワーがある重要な手段だと感じました」

    デュポンさんによると、撮影やインタビューを行った人は、実際に写真などを公開している人数より多くおり、ロシア人の参加希望者もいた。

    しかし、ロシアに住む家族への影響を心配して、辞退を申し出る人が相次いだ。最終的には、ロシア人の写真や手紙は一人も発表できなかった。

    撮影の企画を進め、いろいろな人に声を掛けていた時には、「日本人は関係ないのでひっこんでいろ」と言われたことも。

    一方で、「日本人は平和を大切にする人たちだと聞いた」と参加を決めてくれた人もいたという。

    ウクライナやロシアに親族がいる人たちは、涙を流しながらインタビューに応じた。

    「感じた思い、行動につなげて」

    ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、5ヶ月以上が経過した。

    現在も日々、攻撃は続いており、兵士だけでなく、子どもや高齢者など市民の犠牲も出ている。

    デュポンさんは、この作品の写真や手紙などを目にした人たちにこう呼びかける。

    「ウクライナで起こっていることを他人事だと思わないでほしい。世の中で何が起きているか、一度立ち止まって振り返るきっかけになれば」

    「手紙を読み、写真を見た時に感じた思いを忘れず、なんらかの行動につなげてほしいと思います」