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「コンビニでは接客してもらうけど、非常時には"いない存在"になるの?」多言語での発信を始めた思い

コロナ禍での補償や支援など、外国語での政府の発信が十分でないという問題が。そこで東京外国語大学の卒業生たちが立ち上がりました。

新型コロナウイルスの感染拡大やその後の生活について、補償や多言語相談窓口などの情報を、16言語で発信しているウェブサイトがある。

COVID-19 多言語情報ポータル」では、4月から約3カ月にわたり、ウェブサイトやSNSで、日本に住む外国人のために様々な情報を届けてきた。

情報の発信に携わってきたのは、東京外国語大学の卒業生や在学生を中心とした80人以上のボランティアだ。

なぜこのようなウェブサイトを運営することになったのか、話を聞いた。

ウェブサイトで発信している情報は、厚生労働省や法務省などの省庁や各自治体が発表する情報を元に作られている。現在、情報発信している言語は以下だ。

中国語(簡体・繁体)、韓国語、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イベリアポルトガル語、ブラジルポルトガル語、アラビア語、ウルドゥー語、ベトナム語、タガログ語、インドネシア語、ネパール語、やさしい日本語

プロジェクトには、東京外大の卒業生や在学生を中心に、日本や海外に住む外国籍の社会人や、ネイティブレベルの外国語力を持つ日本人のボランティアらが加わっている。

外国人の参加は約20人で、各言語に最低1人は、その言語を母語にする人などネイティブレベルの人を配置、確認作業も複数回して、誤訳や情報に間違いなどがないよう徹底しているという。

東京外大卒業生の石井暢さん(24)が、コロナ禍での生活や補償に関する情報を多言語でも届けるため、 「何かできることをやらないか」と呼びかけ、今春、東京外大の卒業生5人でプロジェクトが発足したという。

きっかけは、身近な留学生の間で「保持しているビザの効力がなくなるらしい。今すぐ自分の国に帰らないといけないのか」という不安が広まっていたことだ。実際は在留資格の期限までは滞在が可能だが、すぐ帰国しなければならないという情報が出回っていた。

石井さんのもとに、東京外大に留学に来ているイギリス人学生からメッセージが届き、「外国人に正しい情報が届いていない」と感じたのだという。

行政の多言語情報、バラバラで探しにくく

近年は、省庁・自治体による情報の多言語化や、初歩レベルの日本語学習者にも理解しやすい「やさしい日本語」での情報発信も進んでいる。コロナ禍でも、行政からの補償や感染状況に関する情報なども、一部は多言語発信などがされていた。

しかし、言語数があまり多くなかったり、そもそも多言語情報が日本語のウェブサイトの中の、とても分かりにくい場所に掲載されていたりして、外国人にとって情報に行き着くことが、とても難しいのだ。

日本語が分からない人のための情報であるのに、難しい漢字が並ぶ日本語のページを、何クリックもして進んでいかないと、多言語での情報にたどり着けないという状況が各所で発生している。

石井さんたちがプロジェクトを始めた根底には、本来、情報発信をすべき行政が十分にその役割を果たしきれていないという現状があった。

また多言語情報があっても、各省庁がバラバラに別のウェブサイトに掲載していては、見つけることも難しい。

「そこで、コロナに関連した情報を一元的に集め、多言語に翻訳して情報カテゴリーごとに見やすく掲載するウェブサイトを作り、その更新情報をSNS上で配信することにしました」(石井さん)

「本来は、政府が専門人材を雇って行うべき」

石井さんは、行政による多言語発信のあるべき姿についてこう語る。

「毎年災害に見舞われるこの国に住む人々が、言語の壁を超えて安心して過ごせるよう、本来はこうした多言語情報発信は政府・自治体が専門人材を雇って行うべきです」

本来なら行政が担うべき多言語発信だが、予算や業務の多さなどが原因で、そこまで行き届いていないのが現状だ。

民間企業でもコロナ禍での生活情報を多言語発信している企業も出て来ていたが、言語数や情報量はそこまで充実しているものではなかった。

現実、多くの外国人が日本で住み、働き、社会の一員として暮らしている。感染症の世界的流行という未曾有の事態だからこそ、情報がとても大切だ。石井さんはこう指摘した。

「日本では、建設業や農業、漁業、サービス業、医療、介護といった国の基幹となる産業で多くの人々が働いています。そして一人ひとりが夢を追いかけたり、養うべき家族がいたり、それぞれの生活を懸命に生きています」

「外国人の方々がいなければ日本経済は成り立たない、という国の利益に着目した考え方もありますが、外国人の方々は共に日本という国を形作る存在であるという発想に転換しなければならない時がきています。それを踏まえて、それぞれに必要な支援がなされるよう、社会の制度や仕組みを整えていく必要があると思います」

石井さんはこのような行政の仕組みや現状について指摘する一方で、ボランティアがこのような発信をすることを悲観しているわけではない。社会の一員として「支え合う」ということに対しては、このように思いを述べた。

「一方で、とり逃されてしまったニーズをそのままにして嘆くのではなく、市民自らがそれぞれ得意なことを活かしてすくい上げることもできるはずです。このような思いで多言語情報を発信し、外国人の方々が安心して安全に日本での生活を続けられるようにすることを目指しています」

ウェブサイトで情報発信を見た外国人らからは、このような声が寄せられたという。

「このパンデミックの中、ストレスで一人取り残されたように感じていたが、ウェブサイトのことを聞いて、本当に本当に心が落ち着いた」

「何カ月も自分で情報を探そうとしてきたが、外国人を助けようとしている人がいると知って安心した」

「やさしい日本語があるおかげで、COVID-19のことを知りたい日本語学習者にとっては大きな助けになる」

「情報と翻訳の正確性を何よりも優先」

石井さんたちは4月、まず、やさしい日本語と英語での情報発信を始め、4月21日にウェブサイトを公開。その後、各言語の翻訳ボランティアらを募り、現在はやさしい日本語を含むと16の言語で発信をしている。

公開から約3カ月間の間に、約1万3千人の人々がウェブサイトを利用したという。

訪問者の端末での使用言語の統計から推測すると、うち約半数が外国人だ。使用言語は順に、英語、スペイン語、アラビア語、ベトナム語などが多かったという。

自治体が充実できていないことが多い、アラビア語やスペイン語などの需要があることもわかってきている。困っている外国人に情報を届けるために、TwitterやFacebookを利用した、各言語での記事の情報発信も活発にしている。

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@covid19_jp_info

アラビア語での補償に関する記事のツイート

情報発信をする上で、大切にしているのが「情報と翻訳の正確性」だ。石井さんは「正確性を何よりも優先している」と話す。

まずは、どの情報を記事化するかを精査し、行政の発表などを元に日本語での原稿を作成する。メディア報道などの二次ソースも確認して参考にし、その後、「外国人の立場から見て、『まず何をすればいいのか』などが分かりやすく整理されているか」などをチェックするという。

日本語の原稿を各言語の翻訳チームが訳し、日本語に堪能なネイティブのスタッフや、ネイティブレベルの語学力を持った日本人スタッフらが複数回チェックを繰り返す。

石井さんは「記事がウェブサイトに投稿されるまで時間はかかりますが、災害時には、間違った情報に基づく行動が自分や周りの人々の命をも脅かすことに繋がるという意識から、正確性を何よりも優先しています」とした。

皆が、日中は仕事などをしており、仕事後や週末の時間を使ってボランティアで運営しているため、業務が過多になりすぎないよう調節もしているという。

CSR活動として参加してくれる企業も

活動は、これまでに大手メディアでも報道され、CSR活動の一環として参加してくれる企業も出てきた。

翻訳やWeb制作、人材派遣などを手がけているアークコミュニケーションズ(東京都港区)と協力関係を結び、同社がネパール語翻訳を無償で提供しているという。7月から、ネパール語での発信が加わった。

他にも、日本で働く外国人のサポートをする企業とも協力関係を築いており、今後はさらにどのような情報が必要とされているのかなどをより深く精査して発信をしていくという。

現在活動しているメンバーでの活動は7月末で一旦終了し、引き継ぎ作業などをして、9月からは新たな運営体制になる。4月から「夏まで」という目標でボランティアで活動してきたため、今後も活動を続けられる人は継続し、新たなボランティアも迎えて、また情報発信をしていく。

日本社会の、一人ひとりに考えてほしいこと

日本に住む外国人を対象に情報発信しているウェブサイトだが、プロジェクトを運営するにあたり、日本社会にも問題提起をするという目的もあるという。

石井さんたちは、ウェブサイトが「多言語発信の重要性やそのあり方について議論を深めるきっかけ」になることを望んでいる。

行政など公的機関で情報発信に携わる人たちだけでなく、日本社会に住む一人ひとりに考えてほしいことだという。

石井さんはこう話す。

「日本語での情報取得が難しい人がいるけれど、そういうことは行政や専門家の仕事で、自分たちは考えなくてもいいと考えている人もいるかもしれません。一方で、普段コンビニやレストランではよく外国人の店員さんに接客してもらう」

「彼らは風景の一部で、危機においては、存在をなかったことにしてしまう…果たして、そのような都合の良い無関心と無責任な態度で、私たちはこれからも一人ひとりの尊厳を保った社会を運営していけるでしょうか」

また、外国語ができなくても「やさしい日本語を使って、周りの外国人に情報を伝えることもできる」とした。

広報を担当する板場匡史さんもこう指摘した。

「誰がどういった痛みや困難を抱えているのか、自分にどういったことができるのか。考えられる世の中になればと思います。学生、企業など主体の区別なく、協力していければ」

石井さんは問いかける。

「日本語だけでは情報を得られない人たちが、実際に社会の中にいる状況で『災害が起こったら、そのような人たちにはどう分かりやすく情報を伝えられる?』『どんなことを伝えたら安心してもらえる?』ということを自ら問いかけてほしいです」


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