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「誰もそのことを疑問に思わなかった」勝間和代が指摘する、受験や社会に潜む“無意識の差別”とは?

共学の私立中学校には、受験の際に男女で募集人数や合格最低点が違う学校が多くあります。私立共学校の受験経験者でもある勝間和代さんに話を聞きました。

共学の私立中学校は、女子の募集人数が少なかったり、男子に比べ合格最低点が高かったりと、女子受験生が不利な状況に置かれている学校が少なくない。

学校側は「成績順だと女子の方が圧倒的に多くなってしまう」「女子の進学先の定員が、男子と比べて少ない」などと説明する。

2018年には、女子や多浪生を差別する医学部の不正入試問題が発覚。最近でも、東京都立高校の入試で、女子の合格ラインが高く設定されていることに批判が集まった。

私立共学校の受験経験者で、経済評論家の勝間和代さんは「無意識の差別」と指摘する。

男女同数で募集をしている共学の私立中学では、都立高と同様、往々にして女子の合格ラインが男子より高くなる。男女の合格者数をそろえるために、純粋な成績順ではなくなってしまうのだ。

男子に比べ女子の募集人数が大幅に少ない学校もあり、この場合も女子の倍率が高くなるケースが大半だ。

勝間さんは「『無意識の差別』という表現をしているんですけど。基本的に不公平だと思いますし、典型的な男女差別だと思います」と語る。

「誰もそのことを疑問に思わなかった」

勝間さんの母校である慶應義塾中等部の場合、今年の入試の募集人数、男子が約140人、女子は約50人。

四谷大塚の集計によると、男子は受験者891人、合格者158人で、女子は受験者395人、合格者62人。実質倍率は男子の5.6倍に対し、女子は6.4倍の「狭き門」となっている。

BuzzFeed Newsの取材に対し、慶應義塾広報は募集人数の差について「中等部を卒業した女子の進学先の定員が、男子と比べて少ない」ことを理由に挙げた。

勝間さんは言う。

「もともと中等部で男性と女性の人数が違うのは、男女で成長速度の進度が違うので、同じ人数にすると男子が女子に圧倒されてしまうから、と言われていました」

「当時から、中等部でも大学でも女子の方が優秀というのは定番でしたので、特に中等部においては、誰もそのことを疑問に思わなかったんです」

勝間さんは「私が通っていた当時は本当に女性が少なかった」と振り返りつつ、男女比について生徒の間では「全然話題にならなかった」とも話した。

「気付いてはいても、入ってしまった人は考えないのかもしれません。損をしているのは、入れる成績だったのに入れなかった女子受験生たち。私も受かっていなければ、問題視したのかもしれません」

女子の進学先となる高校の定員が少ない、という学校側の主張は、勝間さんには「完全に言い訳」と映る。

女子生徒にも公平な受験にするには、「同数クオータにするか、成績順にするかどちらか」と提案する。

クオータ制とは、男女平等な社会参画を実現するため、議員や閣僚、一般企業の役員などの一定数を女性とすることを義務づける制度のことだ。

共学の私立中学の大半は、ウェブサイトで男女別の合格最低点や倍率などを公表している。慶應中等部は、男女別の合格最低点を公開していない数少ない学校だと言える。

勝間さんは「(男女間で)相当な差があるのだと思います」と推測する。

「無意識の差別、議論を」

私立共学校の中学受験をめぐっては、ネット上でも様々な意見が出ている。

「女子が不利になる状況は早急に解消すべき」という批判もあれば、「私立なのでそれぞれの方針では」「数字は公表されている」と理解を示す人もいる。

2018年に発覚した医学部の不正入試問題との最大の違いは、中学受験ではほとんどの数字が事前に公開されていることだ。

男女別で募集人数が違うことも、女子の合格最低点を高くして男女の人数調整をしていることも、学校側がウェブサイトで明らかにしている(※合格最低点に関しては、慶應義塾中等部など一部非公開の学校もある)。

勝間さんは「表向きに出ている珍しい例」と述べ、こうした「無意識の差別」が日本社会に広がっていることを問題視する。

「今回のテーマも含めて、様々な『無意識の差別』を意識的に皆さんの土俵に乗せて議論すべきです。公平な競争をどうつくるか。話し合い、段階的に取り組んでいくべきだと思います」

きっかけは医学部不正入試問題。男女比の「おかしさ」に気づいた

ウォール・ストリート・ジャーナルの「世界の最も注目すべき女性50人」選出され、史上最年少で「エイボン女性大賞」を受賞した勝間さん。

女性リーダーの旗手として活躍してきた勝間さんだが、日本社会の「男女比」に違和感を抱き始めたのは、ここ数年のことだという。

「男女比がおかしいのではと思い出したのは、ここ5年くらいです。医学部の不正入試問題の影響も大きかった。もともと女性が不利になっているらしいとは聞いていましたけど、本当だったのか…と」

医学部の不正入試問題では、東京医科大をはじめ、順天堂大、昭和大、聖マリアンナ医科大などが、女性受験生や多浪生が不利になるよう大幅に得点を操作。合格人数を不正に抑えていた。

問題が発覚した際、大学側は「医療の現場は女性には厳しすぎて向かない」「特に医師になりたての若い時期の女性は出産や育児の時期と重なり、長時間・過密労働に従事することが難しい」などと説明していた。

勝間さんは「女性は辞めるから…と女性を少なくするのではなく、辞めるような環境を直さないといけない。辞める女性を制限する、というのは本末転倒です」と批判する。

男女間の「差」や差別をなくすには…

中高の受験に大学受験、入社試験。結婚、家事・育児、昇進……。日本社会では、ライフステージの節目節目で、男女間の「差」があらわになる。

勝間さんは、その弊害を以下のように語る。

「日本は女性差別が著しい国のひとつです。結果として何が起きているかというと、国内総生産(GDP)の伸びが悪く、1人当たりのGDPが下がっている」

「理由は簡単です。ほかの国では『両肺飛行』しているのに、日本は『片肺飛行』。それは墜落しますよね」

国内でも、少しずつ男女間の差の是正や、女性のエンパワーメントが進みつつある。今後、日本が「両肺飛行」で羽ばたくために、重要なことは何か?

勝間さんは「女性が競争に参加しても、損をしない仕組みをつくらないといけない」と言う。

「そうしないと、女性が競争に参加しない。一方で、男性が競争から降りたことを責められない仕組みも大切。どちらも必要なんです。『多様性』と一言で言いますが、女性はこうあるべき、男性はこうあるべきというステレオタイプを緩めないと、そこが苦しい」

「(これまでの仕組みは)女性側は女性側でメリットがあって、余計な競争に参加しなくて済んだ。ある意味それが『共依存』になってしまっているんですね。女性との競争を避けたい男性と、余計な競争に参加したくない女性、という構造なんです」

「なのでそれを一回全部取っ払って、女性も男性もガチな競争をしなければいけない、という認識を持てるかどうかだと思います」