赤い帽子をかぶり、路上で雑誌を売っている人のこと、知っていますか?

    ホームレス状態の人が路上で雑誌を売り、自立へと繋げる「BIG ISSUE」(ビッグイシュー)。コロナ禍では、その販売者らも影響を受けました。

    路上で、赤い帽子やジャケットを身につけ、雑誌を売っている人を見かけたことはありますか?

    駅前や交差点などで見かけたことはあるけど、内容はよく分からない…そんな人も多いかもしれません。

    外国人の俳優やイラストが表紙で、アルファベットの題字。これは、「BIG ISSUE(ビッグイシュー)」という雑誌です。

    どんな雑誌?道で売っている人はどんな人?ーー。

    ビッグイシュー日本の販売者や職員に話を聞きました。

    ビッグイシューは、ホームレス状態の人たちに仕事を提供し、自立を応援する事業です。

    雑誌を道で売っている「販売者」は、現在路上で生活している人や安定した住まいを持たない、ホームレス状態の人たち。

    雑誌『ビッグイシュー日本版』の定価450円のうち、230円が販売者の収入になります。

    販売者の中には、路上生活をしながら雑誌を販売し、資金を貯めてアパートに入居する人もいます。

    「弱者目線」「世界で前向きに活動する人たちを取材」

    雑誌は1日と15日、月2回発行されていて、ホームレスの人々が直面する貧困の問題を筆頭に、あらゆる分野のマイノリティや弱い立場に置かれる人たちを取材し、その人たちを支援する活動などを紹介しています。

    また、海外のビッグイシューや、同様の仕組みで世界各国でホームレス状態の人を支援する雑誌・新聞とも提携。ビッグイシュー日本・東京事務所の佐野未来さんは「日本だけでなく世界の『路上目線』の記事が読める」ことが魅力だと語ります。

    「海外のセレブリティのインタビューも載っていれば、販売者であるホームレスの人たちの『人生相談』のコーナーもある、そんな雑誌です。人生相談のコーナーでは、販売者の人たちが『俺なんかが答えていいんかな』といいながら、一生懸命、送られてくる相談に答えてくれています」

    コロナ禍、売り上げが10分の1になった販売者も

    現在、東京や大阪など都市部を中心に、北海道から熊本県まで、100箇所以上で雑誌が売られています。

    2月1日発売号で400号となるビッグイシューですが、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大で、大きな打撃を受けました。

    「路上で販売する」というスタイルのため、「ステイホーム」が呼びかけられたコロナ禍では、感染拡大が始まった春ごろから、雑誌の売り上げが激減したのです。

    特に4〜5月に発令された1度目の緊急事態宣言時には、新宿など繁華街で売っていた販売者の売り上げはコロナ以前の10分の1にまで落ちてしまいました。

    それでも多くの販売者にとっては、雑誌販売が命をつなぐ大切な収入源。リモートワークや外出自粛で人通りが激減しても、感染対策をしながら街頭に立ちました。

    東京都内で雑誌を売る田中さん(仮名)は「売り上げが半減した」と、取材に対しこう話しました。

    「周りに会社も立ち並ぶ私の売り場では、お昼休みはかきいれ時です。(コロナ以前は)1時間で10冊ほど売れていた時もありましたが、1冊か2冊になり、0というときもありました」

    「売り場の近くには、会社員の人たちが昼食に利用するような飲食店も多くあったのですが、その飲食店も閉店してしまいました。そのため、朝と夕方のラッシュ時しかなかなか売れなくなりました」

    「ステイホームできない」路上生活の販売者。通信販売で持ち直し

    1度目の緊急事態宣言では、しきりに「ステイホーム」「不要不急の外出自粛」が呼びかけられましたが、ビッグイシューの販売者の多くはホームレス状態で「ステイ」する家がありません。

    そのような中で売り上げが激減し、窮地に立たされました。

    そこでビッグイシューが4月に始めたのが、3カ月分の雑誌6冊を郵送で届ける「コロナ緊急3ヵ月通信販売」の制度でした。

    4月に募集を開始した第1次の通信販売には約9千人から申し込みがあり、人通りがなく雑誌が売れない中でも、販売者それぞれに毎月末、各5万円の分配金を渡すことができたそうです。

    その後も、やはりリモートワークなどで街中の人通りは減っているため、第2次、第3次と3ヶ月ごとに通信販売をしてきました。

    田中さんは「通信販売があったから、今まで繋いでこれました。本当に助かりました」と話します。

    佐野さんも「販売者の方も、売れなくても、通信販売があったおかげで安心することができました」と語ります。

    販売していたら「通行人に相談される」。困窮する人々

    また、田中さんは、コロナ禍では雑誌販売をしている最中に、生活について相談されることも増えたと話します。

    「売り場で作業をしていると、後ろから近づいてきて話しかけられることも。ビッグイシューの販売をするという段階までは行かないようですが、『どうしたらいいのか』と(生活について)相談されました」

    「1度目の緊急事態宣言の時は、そのような人が結構いました。路上生活状態になっていたり、なってしまうかもという不安があったりしても、(周りの人に)相談できない人が多いのではと思います」

    田中さんはそんな時、ビッグイシューが作っている「路上脱出・生活SOSガイド」を手渡しています。

    このガイドは、路上生活に陥ってしまった人や生活に不安がある人に向けた小冊子で、支援団体や炊き出し、相談窓口などの情報が載っています。

    感染拡大が始まってから約1年が経過し、失業する人も増える中、田中さんは「これからそういう状況に陥る人も増えるのではないか」と懸念を抱いています。

    真冬の中で、2度目の緊急事態宣言

    いわゆる感染の「第2波」が終わり、少し落ち着いて来た頃に寒さが本格的に。しばらくは売り上げも少しずつ以前の調子を取り戻していましたが、「第3波」で感染者数が急増。真冬の厳しい季節に、再び緊急事態宣言が出されました。

    東京事務所の佐野さんによると、1月前半の売り上げは前年度比で20%減。「また通行人が減ったという声が各地(の販売者)から聞こえている」ということです。

    感染予防対策としては良いことですが、通行人の減少が路上での売り上げに直結することも事実です。

    現在は、第4次・コロナ緊急3ヵ月通信販売で、1〜3月発売の6冊分を売っています。

    佐野さんは、販売者の中では「幸いにも感染が疑われる人は今のところいません」とし、こう語りました。

    「緊急通販の配布金などがあることもあり、販売者の皆さんはいまのところ、比較的落ち着いているように感じます」

    「寒さが厳しくなる中ですので、引き続き感染予防を呼び掛けながら、コロナ緊急3ヶ月通信販売の収入を使って、寒さを乗り越えるための販売応援グッズや販売継続協力金の配布などサポートを続けています」

    「弱者目線」の雑誌。こんな時期だからこそ

    田中さんに「販売者として、ビッグイシューってどんな雑誌だと思いますか?」と尋ねると、「ためになる雑誌」「弱者目線で書かれている記事が多いです」と答えました。

    路上生活や貧困に直面する人々を取材することも多いビッグイシュー。

    田中さんは「今はコロナで、お客さん自身も『弱者』になってしまうことがあるかもしれない時」と話し、そんな時期だからこそ「ぜひ読んでほしい」と語りました。

    「消毒やマスクもしているので、普通のお店のような感じで、まずは気軽に足をとめてください」


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