主人公は顔に「あざ」がある女子高生。同じ症状を持つ漫画家が伝えたかったこと

    太田母斑といって、顔にあざがある女子高生が主人公の漫画「青に、ふれる。」。同じ症状を持つ漫画家の鈴木望さんにお話を聞きました。

    生まれつき、顔に青いあざがある高校生、瑠璃子を主人公とする漫画「青に、ふれる。」が話題を集めている。

    学校生活の中で、教師や友人、そして自分と向き合い、恋や友情を通して成長する瑠璃子の姿を描く作品だ。

    作者の鈴木望さんも、瑠璃子と同じように、生まれつき顔に青あざがある。

    自身と同じ症状を持った主人公の漫画を描く理由、そして漫画を通して伝えたいことを、鈴木さんに聞いた。

    瑠璃子が持つ青いあざの症状は、「太田母斑(おおたぼはん)」というものだ。

    通常、目のまわりや頬など顔の片側に青あざが生じるという。

    「あざを持った女の子が主人公の漫画は、ずっと描きたいと思っていたテーマでした」

    鈴木さんは語る。

    あざをもつ高校生の瑠璃子を等身大で描いていくなかで、鈴木さん自身が幼い頃から抱えてきた、あざへのコンプレックス、それを他人からからかわれた経験など、自身の経験と重なる部分も多いという。

    太田母斑や見た目に人と違いがある症状について「こんな症状があるんだよ、と知ってもらいたい」と鈴木さんは話す。

    「そして、生まれつきの見た目に関する症状など、自分の力ではどうにもならないことが原因で人に何か言われたり、嫌な思いをしたら、その気持ちと向き合って、ちゃんと『癒して』と伝えたいです」

    「もし癒す場所がなければ、漫画がその『場所』になればと思います」

    鈴木さん自身が10、20代の頃、あざの症状で悩んでも、人に相談したりできずに「自分の気持ちに蓋をして生きていた」経験からくる思いだ。

    「誰にも相談できず、考えないようにしていた」

    鈴木さんは子どもの頃など、あざに関して病院で診断を受けたことがなかったため、高校まで「太田母斑」という言葉すら知らなかったという。

    太田母斑は思春期の頃に発症したり、あざが濃くなったり広がったりする。

    鈴木さんの場合は、生まれつき目の周りにあったあざが、中学生になってから広がり始めたという。化粧にも興味が出始め、見た目も気になる頃だった。

    「でも誰にも相談できなくて。考えても仕方ないと思って、あまり考えないようにしてました」

    「高校生の時にコンタクトレンズを作りに行った時に『太田母斑あるね。緑内障に気をつけてね』と眼科医に言われ、初めて太田母斑について知りました。他にも(同じ症状の人が)いるんだ、と思いました」

    漫画を描き始め、初めて人に話した「思い」

    10、20代の頃、ずっとあざについて「話せなかった」という鈴木さんだが「やっと最近になって周りにも話せるようになった」という。

    あざやコンプレックス、それと向き合うことについて初めて深く話したのは、「青に、ふれる。」の編集者だったという。

    この作品を連載する前も、他の出版社で、あざのある女の子を主人公にした作品を提案したことがあった。

    しかしその際は、「あざがある女の子は読者に受け入れられない」「可哀想な女の子の話で『感動モノ』のストーリー」という様に、編集者の中で固定観念やイメージが作り上げられており、描くには至らなかったという。

    しかし「青に、ふれる。」では、鈴木さんが描きたかった、ありのままの女子高生の姿を描くことになり、作品を描き進める中で、信頼できる編集者にキャラクターの瑠璃子だけでなく、鈴木さん自身のあざに対する思いについても話すことができた。

    「自分が受けていた嫌なことや過去について、私の場合は30歳を過ぎるまで、向き合うことができず、心のケアも出来ずにいました。本当はもっと若い頃から、傷ついたその時からケアしてあげることが大切だと思います」 

    「ずっと誰にも話すことができなかった私のような若い世代の子たちが、いっぱいいるのではと思いました。どうしたら言えるようになるのか、周りに抱えている子がいたらどういう風に寄り添えるのか、ということも描きたいと思っています」

    漫画では、高校生の瑠璃子は「相貌失認」という、人の顔を判別できない症状を患う教師と出会う。教師が抱えるコンプレックスなども知り、葛藤に苦しみながらも、過去の辛い経験などとも向き合っていく。

    「気持ち分かり過ぎる」同じ症状の読者からの声

    漫画の編集者に話したことを契機に、あざやコンプレックスについても人に話すことができるようになった鈴木さんは、あざや見た目に症状を持つ人たちを、漫画を通して勇気づけている。

    漫画は、月刊アクションで連載され、電子コミックの配信サービスで読むこともできる。

    配信サービスのレビュー欄には読者から多くの感想が寄せられている。自身も顔にあざがあるという読者や、子どもに太田母斑の症状があるという読者もいる。

    レーザー治療であざを治したという読者は「ヒロインの気持ちが分かりすぎるくらい。ホロリとするシーンもあった。他の人のコンプレックスと比べてよくへこんだりしていた」という声を寄せている。

    鈴木さんは寄せられる様々なレビューや近年の報道での「見た目問題」についての取り上げられ方を見て、こう話す。

    「『まだこんな見方をする人もいるのか』という人と『こんな見方をしてくれる』という人、半々ぐらいですが、見た目に症状を持っている人に対する、社会の見方や考え方が変わってきているとは思います」

    あざはレーザー治療をすることもできるが、鈴木さんの場合は、眼球にも症状があるため、失明の危険性などがあったために、レーザー治療はしていないという。

    鈴木さんは、見た目に影響する症状がある人たちが抱える問題について取り組むNPO法人マイフェイス・マイスタイルの活動にも参加し、見た目に症状を持つ人と話す機会も増えた。

    「気持ちを吐き出して、寄り添ってもらって、とことんまで傷と向き合ったら、もう上がるしかない。(見た目に症状がある)当事者とか、社会全体に向けて発信していきたいと思いました」

    最後にトーンであざを「貼る」作業

    連載を始めてから、鈴木さんは何カットもの「瑠璃子」を描いてきた。

    しかしそれでも、顔にあざがある主人公を描くのを「辛い」と感じることがあるという。

    漫画を描く工程として、ストーリーのもとになる「プロット」の後に、こまをわって絵を描き始める「ネーム」、「下書き」「ペン入れ」「消しゴム」「トーン」という段階がある。

    「作業工程として瑠璃子は最初、あざがないんです。消しゴムをかけて最後にトーンをのせる時にあざをのせます」

    「瑠璃子が可愛い!と思って描いているのに、わざわざトーンを貼るとなんとも言えない気分になるんです。見た目に症状を持っている親御さんの気持ちってこんな感じなのかな?とも思うようになりました」

    また、瑠璃子が漫画の中で、あざのことで他人にひどい事を言われたりするシーンも自身の過去を思い出してしまうという。

    「昔されて嫌だったこと、言われて傷ついたこと、またはその時どんな状況で相手はどんな表情をしていたかを思い出してしまいます。プロットからトーンをのせる全ての工程で、毎回それを思い出すことになるんです」

    鈴木さんは「心を『整える』作業の反対側を行っているという感じです」と苦笑する。しかしそれでも、自身の経験を含め、あざの症状を持った主人公のストーリーを固い決意で描き進めている。

    描きたかった「生きづらさ」と「青に、ふれる。」

    中学生の頃から漫画を描き始め、大学を卒業し24歳でデビューしてからも、漫画一本で生活していけるようになるまで、会社員やバイトをしながら描き続けていたという。

    「ずっと漫画が好きでした。でも、好きかどうかを考える間も無く描いていました。家庭環境などから来る『生きづらさ』について描きたかったんです」

    「生きづらさをどう抱えながら生きていくか。そもそも生きづらさって解消できるものなのか私自身も分からなかったし、分からないからこそ皆『生きづらい』って言っているんだろうなと思います」

    いま、瑠璃子を通し「生きづらさ」や辛い過去の経験、コンプレックスと向き合うことについて考え、そして漫画でメッセージを伝えている。

    「青に、ふれる。」を通して「伝えること」を決意したら「協力してくれる方がいっぱいいた」と鈴木さんは話す。

    「応援してくれる人がたくさんいて。だから、何としても『青に、ふれる。』っっていう作品を描くんだ、って思えます」

    「青に、ふれる。」は、コミックス第1巻が2019年7月に発売され、2月12日には第2巻が出る。

    鈴木さんは、笑顔を見せながら、こう話した。

    「この作品を一人でも多くの人に読んでもらえれば、世の中よくなるでしょ、っていう思いで描いています」

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