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路上生活をする子連れの妊婦さん、生活苦で自殺未遂の男性…。医師や支援者が見た「魂の殺人」。改定案提出に反対する理由

政府が再提出予定の「入管法改正案」に対し、全国で生活困窮者らの支援をする89団体が、反対声明を発表しました。支援者は、難民申請中の仮放免者らが置かれる厳しい状況についても語りました。


政府が入管難民法の改正案を国会に再提出する構えを見せていることに対し、市民から「困窮する難民をさらに追い込むことになる」と、反対の声があがっている。

入管法改正案は日本の難民受け入れや入管施設への収容に大きな影響を与える可能性があるとして市民の強い反発を受け、2021年に廃案となっていた。

全国89の市民団体が共同で1月26日、反対声明を発表。会見を開いて難民申請中の外国人らをサポートする支援者や医師が、難民申請者が置かれている厳しい状況について語った。

入管法改正案の提出に反対する共同声明を発表したのは、一般社団法人「反貧困ネットワーク」や「つくろい東京ファンド」、NPO法人「北関東医療相談会」など89団体。送還忌避罪の新設や複数回申請者の強制送還などに反対した。

2021年に廃案になった前回の法案では、国に帰れない理由があったとしても強制送還を拒むと刑事罰の対象となりうる、いわゆる「送還忌避罪」(退去強制拒否罪)の新設や、難民申請の回数に上限を設け、3回目以降は強制送還の対象にするなどの内容が含まれていた。

再提出される法案の内容は明らかになっていないが、前回提出された法案の修正案と似た内容になる見通しだ。

反貧困ネットワーク事務局長の瀬戸大作さんは「当事者の人たちは、国に帰ったら迫害され、殺されるかもしれないという状況で日本に逃れてきている」「色々な事情を抱えている人たちを無理やり返すのか。日常的に向き合っている支援団体としてはそれは絶対に許せない」と話した。

同ネットワークの生活困窮者用のシェルターでは、仮放免の状態にある12世帯が居住しており、他にも食料支援や医療支援などを通して、難民申請中の外国人らをサポートしている。

「仮放免」とは、難民申請中などで在留資格がない外国人を、入管が発行する仮放免許可書のもと、一時的に入管施設での収容を解いた状態のことを言う。

仮放免では住民票が作れず国民健康保険への加入もできず、就労や登録した居住地以外への移動は禁止され、多くの人が生活困窮に陥っている。

子連れの妊婦さんが駅で生活。仮放免中の生活苦で自殺未遂の男性も

会見では支援者らが、仮放免の人たちが置かれる厳しい状況について説明した。

つくろい東京ファンドや北関東医療相談会で支援をする大澤優真さんは「今、本当に大変な状況になっています」とし、こう語った。

「政治的な理由で難民となり、小さなお子さんと日本へ逃れてきたアフリカ出身の女性は、母子家庭の妊婦さんです。命からがら逃げてきたけど着いたら誰もサポートしてくれず、駅で路上生活をしていたところを、現在ホテルで保護しています。まもなく出産ですが病院も決まっていません。この後もその方の支援に駆けつける予定です」

「政治的な理由で中東から日本へ逃れ、難民申請をしている男性は、生活に困窮し、電気・ガス・水道が止まりました。生活苦で両手首と首の後ろを切り、気を失って倒れて玄関から血がでているのを近所の人が発見して緊急搬送されました」

「この男性は仮放免で保険もないので医療費が15万円かかりました。ほとんど傷が癒えないまま退院し、路上生活となりました。たまたま私たちの団体につながって、今はシェルターで生活をしています」

「本来であれば法律や運用で、難民や仮放免の方々の生活や医療の補償をしっかりとしないといけない。そういった仕組みが必要です。今回の入管法改正案で難民仮放免者の命や生活が補償されるかというと、そうは思えません。誰のための改訂案なのか、誰のための法律なのかということを考えなければならない」

すがる思いで日本に逃れてきた人の尊厳を奪う入管。医師がみた仮放免

北関東医療相談会などで、ボランティアとして仮放免の外国人らを診療している医師も、診察を通して感じた憤りを語った。

医師の越智祥太さんは、「『魂の殺人』とはこういうことなのだと、診療をしていて感じた」とし、こう話した。

「出身国で追い詰められ、すがるような思いで日本に希望を持って逃れてきた外国人の方々も、私が診療でお会いする時には、絶望の果てにいらっしゃいます。制度がこんなにも人を追い詰めてしまうのだなと感じます」

「難民として苦労してきても、(日本政府から)難民だと認められないだけで犯罪者扱いとなります。仮放免になると再収容されるかもしれない。不安や緊張がものすごい状況で、体調を崩される方も多くいます」

「仮放免で保険がなく医療にもかかれず、1日1食しか食べていない状況の方が多くいます。無料定額診療という制度もありますが、もうどの病院もいっぱいいっぱいで断られています」

「入管は収容者に難病が見つかると、入管の中で死なれると困るので仮放免にするが、保険がない状態では3倍の医療費を払って治療することはできない。死になさいと言っているようなものです。就労も許可されるべきです。こんなにも人の尊厳を奪うようなことはありません」

各団体が反対声明を発表。「一昨年と同様の法案提出、民意までないがしろにするもの」

入管法改正案の再提出をめぐっては、外国人支援や難民支援に関わる他の各団体も、反対声明を発表している。

公益社団法人「アムネスティ・インターナショナル日本」やNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」、「全国難民弁護団連絡会議」などの7団体は、1月17日に反対声明を発表。

声明では「人道に反し、一昨年廃案になった入管法改定案の再提出・採決に反対します」「一昨年と同様の法案を提出することは、民意までないがしろにするものです」と批判した。

難民条約には、保護を求めてきた人を、正式な難民認定を受けたかどうかを問わず、危害が加えられることが想定される出身国に送り返すことを禁じる「ノン・ルフールマンの原則」がある。

日本もこの条約の締結国だ。しかし、難民申請中でも強制送還したり、送還を拒むことを罰したりする規定を加えることで、この条約に反することになる可能性が指摘されている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も懸念を示している。

入管は複数回にわたり難民申請をする人を「濫用者」だと捉え、強制送還の対象にしようとしているが、日本の難民認定率は例年1%以下などで、諸外国と比べて著しく低い。

そのような状況下で、国に帰れば殺されたり、迫害の危険性があったりする人等に複数回申請のチャンスを与えず、強制送還するという方針には、大きな批判が集まっている。