バズれば内容はどうでも良い? ネット炎上を描いた映画にみる「メディアの危機」

    「問題があるほど、露出が増え、広告が売れる。いま、メディアはそういう問題や対立に頼っているのではないでしょうか」

    炎上狙いの広告、フェイクニュースの拡散...。現代のネットの闇を描いた最高のブラックユーモア映画

    SNSを眺めていると、感情を煽るようなコンテンツを毎日のように目にする。つい反論したり、誰かにシェアしたくなるものも多い。そしていわゆる「ネット炎上」がおこる。

    でも、もしかしたらその内容は嘘かもしれない。あるいは、炎上を意図的に利用した広告かもしれない。

    © 2017 Plattform Prodtion AB / Société Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

    「ザ・スクエア」は、そんなネット社会の闇を描いた映画だ。

    物語の主人公クリスティアンは、現代美術館のキュレーター。思いやりをテーマにした新たなアート作品「ザ・スクエア」の展示を計画していた。

    © 2017 Plattform Prodtion AB / Société Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

    しかし展示のプロモーションとしてPR会社が提案したのは、過激な動画をネットで炎上させ、情報の拡散を狙うというものだった。

    結果的にクリスティアンの予想をはるかに超える批判が集まり、彼は窮地に立たされる。

    © 2017 Plattform Prodtion AB / Société Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

    映画を観終わると、観客は少し気まずい思いをするかもしれない。 SNSでの情報の拡散に全く関わった事がないかと聞かれれば、誰だって自信がない。

    その生々しいブラックユーモアで話題となった「ザ・スクエア」は、昨年のカンヌ国際映画際で最高賞・パルムドール賞を受賞した。

    「注目ファースト。内容は二の次」というトレンド

    リューベン・オストルンド監督に今回このテーマを扱った背景を尋ねると、実際に起きた「炎上マーケティング」に心当たりがあると話した。

    Shunsuke Mori / BuzzFeed

    「物議を醸すために行ったPRの事例を覚えています。2016年のカンヌ国際映画祭の時でした」

    事件の舞台となったのは、カンヌ滞在中のセレブ俳優も泊まる、高級ホテル近くの海岸。顔を隠し、黒い戦闘服に身を包んだ男たちが、黒い旗を掲げたスピードボートに乗って現れたのだ。

    しかし、宿泊客を恐怖に陥れた彼らはテロリストではなく、フランスのインターネット会社によるPRスタントだとわかり、批判が集まった。(主催企業は後に、本来テロリストに見せる意図はなかったと弁明している)

    Valery Hache / AFP=時事

    事件の約3週間前にカンヌで行われた、テロ対策の訓練の様子。

    同年の映画祭では、直前に起きたパリとブリュッセルのテロを受け、厳戒態勢を敷いていた。あまりに不謹慎なPRキャンペーンは、なぜ作られてしまったのだろうか。

    「広告の内容は二の次で、とにかく注目を集めることが何より重要なんです。10年前なら、このように関係のないもを使って論争を巻き起こすような広告には、かなり抵抗があったと思います。今は状況が変わってしまいました」

    日本でも昨年、過激な性的描写が問題視されたプロモーション動画が炎上した例がある。担当した広告会社がBuzzFeed Japanの取材に対し「炎上を狙うことがある」と明かし、さらなる批判を集めた。

    メディアは憎しみの「経済」に頼っている?

    オストルンド監督は広告だけでなく、ネットの「ニュースメディア」が生み出すいびつな経済についても語った。

    「今回私の作品でメディアの問題を扱った理由の一つが、ヨーロッパで起っているテロの問題です。例えば、テロ活動に参加する若者が注目を集めようと自殺テロを行うのですが、メディアでは顔写真や本名をそのまま載せてしまうんです。これは結果的に、テロ組織のプロモーションにもなっていると思うんです」

    Shunsuke Mori / BuzzFeed

    「ニュースメディアは報道によって悪いことがなくなると思っているのかもしれませんが、実は再生産している側面もあるのです」

    また、フランス・バタクラン劇場でテロが起きた時の事例についても言及した。

    「スウェーデンのタブロイドがライブストリーミングを配信した際、再生前に広告を見なければいけなかったんです。

    問題があればあるほど、露出が増え、広告が売れる。いま、メディアはそういう問題や対立に頼っているのではないでしょうか」

    「私たちが普通に生活してる分には、世界はそこそこ平和に見えます。でも、メディアを通して見ると、とても悲惨で、混沌としています。対立を取り上げることで、ある種の経済を生み出しているように思えます」

    人間は、私たちが思うほど理性的な動物じゃない

    近年のメディア・広告がとにかく人々の感情を掻き立てることを重視しているという監督の指摘は、過激な内容のニュースの量産で荒稼ぎする「フェイクニュース」問題を思い起こさせる。

    2016年のアメリカ大統領選が作品に影響を与えたのか、聞いてみた。

    「トランプもそうですが、スウェーデンでも似たような事例がありました」

    スウェーデンでは、移民排斥を訴え、極右政党として知られるスウェーデン民主党が2014年の総選挙で第三政党に躍進した。移民に寛容な北欧社会では異例なことだ。監督は「彼らの過激な発言を批判する記事が量産された結果、露出が増えた」ことが、躍進の理由の一つだと分析する。

    Jonathan Nackstrand / AFP / Getty Images

    スウェーデン民主党の選挙ポスター(2014年)

    「悪いことを書いたとしても関係なく、露出の量は大きな影響力となります。メディアにとって、論争を起こす彼らの発言は注目されて、クリックを稼げるわけです。

    このようなクリック・エコノミーにおいては、スウェーデン民主党は非常に上手くやったと思います」

    さらに監督は、こう付け加えた。

    「そういえばトランプは自身で『フェイクニュース』という言葉を使って、特定の報道を批判していましたが、そういった記事が結局は彼を当選させたというのは興味深い事実です。

    人間は思ったより理性的な動物ではなく、見たものを模倣してしまう動物なのかもしれません」

    Shunsuke Mori / BuzzFeed

    彼は台本を書く時、観客が「私ならどうするだろう」と自身に問いかける状況を作るように心がけているという。溢れるメディアや広告と、自分はどう付き合っていくか。これは私たちの毎日の問題だ。

    「現在、メディアは大きな危機にあるんじゃないかと感じていますが、100%メディア不信になるのも、また怖いことです」

    リューベン・オストルンド監督の映画「ザ・スクエア」は4月28日(土)より、国内で上映中だ。