MOROHAのライブに行ったらフルボッコになった話

    MOROHAのライブは恐ろしい。疲れ果てて、泣いて帰るはめになる...。

    頑張りだけじゃ足りないとしたって

    頑張ることしか出来ない同志達へ

    自分を客観視なんてすんな 俺達の目はここに付いてる

    (三文銭)

    そんな熱い歌詞を歌いきった後、フロアは静まり返った。

    「こんなに拍手の少ないライブってのはなかなか無いんじゃないでしょうか」

    アフロがそう言うと、緊張感が解け、笑いが漏れた。そりゃそうだよ。仕方ないよね。そんな笑いだ。

    言葉を受け止めるのに必死で、拍手をする余裕なんて無いのだから。


    小雨の降った日曜日、ラップグループMOROHAの単独ライブを観に、Zepp Tokyoに来た。

    MOROHAはファーストアルバムから聴いてきたが、これまでライブに来られなかった。自分の醜い部分をついてくる歌詞に、ボコボコにされるのが怖かったのだ。

    「ぬるい感情は今すぐ捨ててくれ」

    真っ暗な会場にスポットライトが二つ灯った。かろうじて、アフロ(ラップ)とUK(ギター)、二人の表情が見える。

    まず演奏したのは「二文銭」「奮い立つCDショップにて」。ファースト・アルバムに収録された2曲だ。

    ようやく口を開いたのは、3曲目「一文銭」を歌い終えた後。

    「もしも、この時点で感動してるやつがいるとしたら、そのぬるい感情を捨ててくれ。今すぐ捨ててくれ」

    そして、代表曲の一つ「俺のがヤバイ」につなげた。続けて「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」「三文銭」「ハダ色の日々」......

    優しい毛布のような曲と拳で殴るような曲を、絶妙なバランスで畳み掛けていく。

    手拍子のかわりに涙がある、異様なライブ

    「四文銭」でUKのギターが止まると、会場は10秒以上の無音に包まれて、やがて大きな拍手が沸き起こった。

    するとアフロは、続く「tomorrow」のイントロに乗せて静かに応える。

    「それが本当の拍手か、それが本当の歓声か。ずっと、ずーっと疑ってる。金払って、期待して、愛してくれるお客がくれるものでさえも、ずっとずーっと疑ってる。

    なんでか。俺が、俺のことを信じてないからだ」

    絞り出すようなアフロの言葉に、涙を流す観客もいた。

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    会場を見渡すと気付く。このライブは異様だ。音楽にのせて体を揺らす人も、手拍子もない。そして常に誰かが涙を流してる。

    アフロは言う。

    「『せっかくのZepp Tokyoなんだから、バンドサウンドにしたほうが見栄えがいいんじゃないですか?』なんて言ってくるやつがいたよ。

    黙っとけバカが!

    青春パンク、メロコア、ハードコア、パンクロック、ヒップホップ、全部かき分けてここまで来たのがMOROHAだ」

    筆者が初めてMOROHAを聴いた時のことを思い出した。大学の先輩が「ギターと自称ラッパーのヤバいやつら」がいると、「涙(かわ)」を聴かせてくれた。

    ポエトリーリーディングのような怒涛の言葉と、洗練されたアコースティックギターの優しい音。正直、ふざけてるか本気なのかもよくわからなかった。

    それほど新鮮で異質なアーティストのライブが普通でないのは、ある意味当然だ。

    そんなMOROHAはグループ結成10年目の今年、ユニバーサル・ミュージックからメジャーデビューを果たした。

    アフロは更に語気を強めて続ける。

    「いい加減、この国も馬鹿ばっかりじゃないから、そろそろ気づき始めてる。

    何の感情もない拍手や、周りに合わせてする生ぬるい手拍子。そんなことばっかりしてきた手のひらで、お前らさ、一体何掴むつもりなんだよ?」

    大説教だ。でも観客は静かに次の言葉を待つ。もっと、もっと言葉で殴ってくれと。

    「手に汗握る。その汗が鍵だ。不安や緊張、それだけが次の扉のドアノブだ。

    さあ、出かけようぜ行こうよ、行こう、もういいだろう?行こうよ、行こうぜ!胸をはってさ!」

    アフロがそう叫ぶと、観客から歓声が上がる。フィナーレは、新曲の「五文銭」だ。

    食っていく為にやる音楽はやめた

    世界を変える 音楽にきめた

    俺の言葉は 俺よりも偉い

    (五文銭)

    「Zepp Tokyoも武道館も通過点」

    メジャーデビューを果たし、単独ライブを開催。来年7月には、日比谷公園の野外大音楽堂での単独ライブも決まった。絶好調の彼らは、これからどこを目指すのか。

    「五文銭」のアウトロに乗せて、アフロが声が叫ぶように話す。

    「Zepp Tokyoが埋まったから、次は武道館だ。そのあとはアリーナだ」

    歓声が上がったが、続きがあった。

    「そんなことを一瞬でも考えてしまった自分に吐き気がするよ。馬鹿野郎って思うよ。

    Liquid Roomも通過点だった、Zepp Tokyoも通過点だ。武道館だって、アリーナだって通過点だ。俺とUKが何も持ってなかった、二十歳のころの俺とUKが『MOROHAやろうぜ』ってそう誓いあって目指した場所は、そんなちっぽけな場所じゃなかったはずだ。

    俺たちが目指すのは、あなたの、お前の、君の、心だ!」

    MOROHAじゃなかったら、聞いていて恥ずかしくなるかもしれない、あまりに素直な言葉だ。

    ライブ前半MCの途中、UKが冗談で、感受性豊かなアフロを「メンヘラ」だと笑っていた。

    「でも良かったホントに。こんなふうに言ってることがずっと心の中にあったらエラいことになってるよね。だからマイクがあってよかった」

    アンコールは「ありません」

    曲が終わると、アフロは約20秒間頭を下げ続け、ステージを後にした。

    鳴り止まない拍手は普通アンコールに繋がるが、少しして出てきたアフロは「アンコールはありません」と、きっぱり言った。

    「それを誇らしく思います。全部出しきりました。もう何も残っていません。みなさんが集中して見てくださったおかげで、全部出し切ることができました」


    わかってはいたけど、やっぱりこてんぱんにやられた。

    帰り道、良くないと思いながらも、もう一度「四文銭」を聴いてしまった。ライブでは歌われなかった歌詞があったからだ。

    スピーカー、イヤホン、ヘッドホンの向こう側で

    「チャンスがねぇ」なんて嘆いてるお前へ

    チャンスを掴むためのチャンスを最後に手渡すぜ。

    今すぐプレーヤーの停止ボタンを押して、

    お前はお前のやるべき事をやるんだ。

    (四文銭)

    イヤホン越しに、最後のパンチを食らった。本当に疲れた。また来よう。

    《セットリスト》

    二文銭

    奮い立つCDショップにて

    一文銭

    俺のがヤバイ

    勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ

    三文銭

    ハダ色の日々

    スペシャル

    革命

    四文銭

    tomorrow

    バラ色の日々

    恩学

    ストロンガー

    五文銭