「女だから」「男のくせに」、「〇〇らしく」って、正直つらくない?

    英語ができないハーフは自虐しなきゃダメ? みんなのもやもやを代弁

    脚本から編集まで、日本人がニューヨークで製作する少し変わったドラマがあります。

    ニューヨークが舞台ですが、「セックス・アンド・ザ・シティ」のようなキラキラのセレブ生活を描いたドラマではありません。

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    ドラマシリーズ「報道バズ」で描かれるのは、セクハラやメディアのやらせ報道などの社会問題。そして、ジャーナリズムの現場で奮闘する一人の女性の成長です。

    物語の主人公・和田明日香は、日本のテレビ局のアナウンサーとしてバラエティ番組を担当していました。

    しかし、報道に携わるという夢を叶えるため、ニューヨークにあるニュースアプリ会社「報道バズ」に転職を決意します。

    アメリカで心機一転、報道レポーターとしての挑戦に期待を抱いていた明日香でしたが、すぐに様々な困難に直面することに。

    バラエティ出身というだけで職場で信用されず、ネット上では「ブサイク」「見た目だけが売りのくせに」と誹謗中傷を受けてしまいます。自分の殻を破るため、彼女の本当の挑戦がはじまって......。

    報道の現場で奮闘しながら、「女らしさ」「日本人らしさ」など、社会に求められる「◯◯らしさ」と「自分らしさ」の間で悩み、成長していく登場人物の姿を描きます。

    そんなユニークな内容のドラマ「報道バズ」ですが、実はまだ製作中。完成に向けてクラウドファンディングを行っています。

    製作するのは、ニューヨークに拠点を置く日本人クリエイター・チームDerrrrruq!!!(デルック)です。

    「​日本の外にいるからこそ見える、日本の物語を届けたい」と、独自の視点で映像作品を作ってきました。

    Derrrrruq!!!の3人は全員日本人で、大人になってからニューヨークに移住しました。自身が肌で感じた文化の違いや、距離を置くことで見える日本社会の姿が、作品に反映されています。

    視聴者から「これはわたしの話だ」

    2014年、Derrrrruq!!!は全6話のドラマシリーズ「2ndアベニュー(通称『二アベ』)」をYouTubeに公開しました。

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    「2ndアベニュー」は、ゲイの大学院生タイチと、女優を目指して渡米してきたマリコが、ニューヨークを舞台に繰り広げるコメディードラマです。

    作中では、二人がビザや偽装結婚、LGBTに対する偏見など、様々な問題に直面します。

    二人が奮闘するコミカルながらもリアルな姿に、移民やLGBTの視聴者から共感の声が寄せられたといいます。

    しかし、この物語に共感したのは、LGBTや移民の当事者だけではありませんでした。

    演出を担当した川出さんは「私の周りにいる、結婚しない人や子供を産めない女性の方が二アベを観て『これはわたしの話だ』と言ってくれたんです」と振り返ります。

    また、脚本・タイチ役を務めた近藤さんも、幅広い層の共感を得られた手応えを感じていました。

    「ドラマに共感するのに、必ずしも(登場人物がそうであるように)ゲイだったり女性である必要はないんだと、寄せられた反応を見て思いました。

    日本社会で求められる『〇〇らしさ』と、それに適応できない自分との葛藤に苦しんでいる人は多いのかなと感じます」

    「キャラ」や「レッテル張り」に、みんな疲れてない?

    3人が前作であぶり出した普遍的な葛藤は「報道バズ」にも引き継がれています。

    脚本家として日本社会を描く面白さの一つとして、近藤さんは「レッテル張り」をあげました。

    「自分自身に貼られたレッテルに違和感を感じたり、不満を抱くのって、普遍的な体験としてあると思うんです。

    でも、社会で生きていくためにはそのレッテルを上手く使わないといけないこともあって。

    例えばハーフだったら英語を話さなければいけないとか、話せないなら今度はそれを自虐ネタにしなければいけないとか。あと、女性だったらイジられても耐えなきゃいけなかったり......」

    確かに「報道バズ」の主人公・明日香も、「女子アナ」というレッテルに苦しみます。でも、実はもやもやを感じているのは明日香だけではありません。

    明日香の同僚にはゲイの男性や英語が苦手な「残念ハーフ」、なかなか日本人扱いしてもらえない「欧米ハーフ」など、個性的なメンバーがそれぞれの葛藤を抱いています。

    レッテルを貼られた経験がある人も、無意識に貼ってしまっていた人も、つい共感してしまいます。そういうもやもや、あるよね......。

    「カメラの後ろ」に多様性がある強み

    明日香を演じるプロデューサーの本田さんは「Derrrrruq!!!の3人は日本で育ってニューヨークにやってきたっていう経験をしていて、この街からインスピレーションを受けることは多いです」と言います。

    ニューヨークが持つ「多様性」もその一つ。

    近藤さんは、Derrrrruq!!!の価値観について、次のように話します。

    「Derrrrruq!!!には、他人と違ってもいい。『普通』じゃなくていいし、『普通』の人なんていないっていうのが、共有の価値観としてあります。

    ニューヨークにいると気付きやすい価値観だと思うし、今回の作品にもそれがよく現れていると思います」

    「二アベ」「報道バズ」にも、ハーフやLGBT、女性など、社会的マイノリティのキャラクターが多く登場します。

    しかし、映画やドラマにおいて、マイノリティはステレオタイプ的な描き方をされることも多く、アメリカでは大きな議論となっています。

    そんな中、Derrrrruq!!!が大切にしているのが「カメラの後ろ」つまり制作サイドに多様性を持つこと。自らゲイであることを公言している近藤さんは言います。

    「例えば、当事者ではない人がゲイのキャラクターを描いた時、差別的と批判される心配もあって、描き方が過剰にポジティブになってしまうこともあります。

    もちろん現実には、『ゲイだから』良い人・悪い人ということはないのですが。

    私の場合、(当事者として)差別も良いことも経験してるので、わりと攻めた書き方ができるという強みはあると感じます。

    また、監督・プロデューサーとして女性二人がプロダクションの初期から関わっているのも強みですね」

    日本のジャーナリズムのありかた、みんなの「らしさ」を問う新感覚ドラマ

    「報道バズ」では前作で扱ったトピックに加え、セクハラや女性の生き方、ジャーナリズムが抱える問題など、社会問題が多く登場します。

    本田さんは「モノローグ(独り語り)というよりはダイアローグ(対話)。ドラマを見た後に、議論が広がっていけばいいなと願いながら、いろんなテーマを盛り込んでいます」と話しました。

    「報道バズ」は、すでに撮影を完了し、編集作業に取り掛かっているとのこと。全6話のシリーズを2019年春に公開する予定です(配信方法は未定)。

    現在、作品を完成させるための支援を、クラウドファンディングで募集しています。