日本人が全編ニューヨークで制作。異色のドラマで伝えたかったこと

    メディアやステレオタイプの問題に疑問を投げかけるドラマ「報道バズ」が公開された。ニューヨークを拠点に活動する日本人の映像チーム「Derrrrruq!(デルック)」に制作の背景を聞いた。

    ニューヨーク発の日本のドラマ

    ニューヨーク在住の日本人による映像制作チーム「Derrrrruq!!!(デルック)」が制作するドラマシリーズ「報道バズ」の配信が2月5日に始まった。

    「報道バズ」はニューヨークを舞台に、日本人女性の奮闘を描いたオリジナルドラマだ。コメディとサスペンス要素を散りばめた全6話のドラマシリーズで、撮影は全てニューヨークで行われた。制作にあたりクラウドファンディングで3万ドル以上を集め、大きな期待を集めていた作品だ。

    制作陣にはDerrrrruq!!!のメンバー3人の他、脚本監修には『攻殻機動隊 _S_A_C_』や『エウレカセブン』の佐藤大氏、エグゼクティブ・プロデューサーには『この世界の片隅に』製作代表の桝山寛氏なども参加した。

    日本の大手テレビ局のアナウンサーとしてバラエティ番組を担当していた主人公・和田明日佳。報道に関わるという夢を叶えるため、米ニューヨークのニュースアプリ会社で新たな挑戦をする。しかし、意気込む明日佳のスクープ報道は、度々炎上の火種に。やがて自らが犯罪に巻き込まれてしまう。

    背景にあるのは、偏見やステレオタイプ

    本作の舞台となる架空のメディア会社「報道バズ」は「日本の外にいるからこそ見えてくるニュース」をモットーに、日本のメディアでタブー視されている様々な問題に切り込もうとする。

    彼らの前には、誤報やSNS上の嫌がらせなどのトラブルが立ちはだかるが、その背景にいつも付きまとうのが、特定の人々に対する偏見やステレオタイプの問題だ。

    報道バズには個性豊かなメンバーが揃っている。有名人の子供というだけで注目されてしまう人、英語ができるという「ハーフ」のステレオタイプと違う自分に劣等感をもつ青年。そして、ゲイの男性。もちろん、「女子アナ」というレッテルに苦しむ明日佳も例外ではない。

    こうした葛藤をリアルに描ける背景には、Derrrrruq!!!のメンバーの実体験がある。主役の明日佳を演じた本田真穂さんは渡米まもない頃、急に自宅を訪れた恋人に「すっぴんでごめんね」と自虐的なジョークのつもりで伝えたが、「なぜそんな事を言うのか」と真剣に心配されてしまった。

    「明日佳の『女子アナ』にも関係しますが、当時の私は女性が人前に出る時には化粧をすべきというステレオタイプを持っていて、『女子力のない』自分を自虐ネタで守るのが癖になっていました。今はもう、他人の価値観にあわせるために自分に無理を課すのはやめました」(本田さん)

    日本人、女性、ハーフなど、私達は日常的に「属性」とそれに伴うステレオタイプを身にまとって生きている。他人からそうしたフィルターを通して見られることで悔しい思いをしたり、時には得をしたりすることもある。そしてなにより、他人をステレオタイプにはめ込んで「理解する」のは楽だ。

    そんなステレオタイプの殻を破ろうとしているのが、明日佳をはじめとする「報道バズ」の登場人物だ。

    「わかったつもり」の危険を描く

    ステレオタイプの問題点は、必ずしもネガティブなステレオタイプに限ったことではないと、脚本を担当した近藤司さんは指摘する。

    「例えば、当事者ではない人がゲイのキャラクターを描いた時、差別的と批判される心配もあって、描き方が過剰にポジティブになってしまうこともあります。もちろん、現実には『ゲイだから』良い人・悪い人ということはないですよね」

    他者を理解し寄り添っていたはずが、実は相手の属性に基づくステレオタイプの枠に押し込んで「わかったたつもり」になっていただけだった、ということはよくある。「報道バズ」でもそんな危うさが描かれており、観るものをハッとさせる。

    生きづらさを超えるヒントに

    SNSの発達により、偏見やステレオタイプに対して声を挙げることは簡単になった。近藤さんはDerrrrruq!!!が前作「二アベ」を公開してからの社会の変化を振り返る。

    「6年前に公開した「二アベ」では、『普通の』ゲイの日本人男性をドラマの主人公の一人にすること自体が特徴の一つでしたが、それも今となっては目新しいことではなくなってきてました。

    SNSを通じた個人の意見発信の影響力もあってか、社会は大きく前進しましたが、一方で可視化されたヘイトも増えているように感じます。SNSやネットニュースのコメントを覗くと、差別的言動の多さに圧倒されます」

    生きづらさを告白すると、それを煙たがる人も出てくる。「特別扱いされようとするな」「辛いのは皆同じで、我慢している」。そんなふうに他人を枠の中に押し込もうとするほど、自身を締め付ける力も強くなる。表裏一体の生きづらさが、加速していく。

    社会を前進させる議論のために、監督の川出真理さんは「報道バズ」が、人を個々にみる目をもつきっかけになると嬉しいと話す。

    「簡単ではありませんが、人と人を比べないことが大事だと思います。『報道バズ』のキャラクター達も、自分と似た境遇の人と自分を比べてしまうことでつらい思いをしています。そういった競争をどうすれば止められるのか、作品の中にもヒントがあると思うので、ぜひ見つけていただきたいです」

    報道バズはAmazonプライムビデオ、Google Play、YouTube、RakutenTVほかにて有料配信中。(詳しくは配信先一覧をご確認ください)

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