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「セクマイってひと言でいうけど…」"中性"漫画家が描く、性のグラデーションを生きる人生

「僕も性別のことを人に聞かれるたびに、なんらかのファンタジー的なものに例えられた経験があります」

近年、テレビなどで「LGBT」という言葉が頻繁に使われるようになりました。

「セクシュアルマイノリティ(性的少数派)」の同義語として使われることも多いこの言葉ですが、厳密には、L:レズビアン、G:ゲイ、B:バイセクシュアル、T:トランスジェンダー以外のセクシュアルマイノリティも存在します。

例えば「インターセックス(性分化疾患)」は、先天的な要因により、男性・女性の判断がつきにくい特徴を持つことをいいます。

漫画家、新井祥さんもインターセックス当事者の一人。人気作品の『性別が、ない!』シリーズでは、自分と周囲のセクシュアルマイノリティ事情を赤裸々に、コミカルに描いています。

性別は「中性」、性的指向は「たぶんバイセクシュアル」と自認する新井さん。性のグラデーションの中を歩んできた人生とは?


ずっと女性だと思われていた自分は「中性」だった

――「インターセックス」や「性分化疾患」という言葉にあまり馴染みがないのですが、具体的にどういったものなのでしょうか。

「性同一性障害が『心と体の性別の不一致』なのに対し、インターセックスは『生殖器官や染色体のどこかが一般的な性別の人のつくりと違う』人。

産まれた瞬間から医師が見てわかるくらい明確な人もいれば、思春期以降の体の発達でだんだん気づいていく人もいます。

僕のようにネットの情報がない時代に青春期を過ごした年配者の中には、他人と違う所があっても気にしないよう過ごしてきて、なにかの折に病院で検査をして発覚したという人もいますね。

産まれた時の形が顕著じゃない限り、親も気づかないまま過ごすこともままあると思います」

――でも、新井さんは昔、女性として生活されていたんですよね。

「30歳の時に陰核が肥大化し、体毛など細かい部分の男性化が始まりました。簡単な言葉で言うとクリとスネ毛&ヒゲの変化です。

クリヒゲ問題は思春期にもなっていた状態なので、漫画では途方にくれた風に描いてますが実際はそこまで驚かなかったですね。むしろ『くるべき時がきたか…』という達観した気持ちになりました

一般女性だとしても、30代以降は女性ホルモン量が下がるというから、女性的な外見に戻る可能性は薄いだろう。今後は開き直って男性として生きようという考えで人生の再スタートをはかりました」

――「ずっと女性として生きてきたけど、これからは男性で生きよう」って、すごい変化ですね。
極端と言えば極端ですが、その時は『そうするのが最善』だという勘が働いたんですよね。

女性の外見にしがみついてその後の年月を過ごすと、なんだかわからないけどよくない事がおきそうな未来予想図がこう、モヤモヤと沸き上がってきたというか…。

当時、男性のパートナーと入籍はしていたのですが、彼には他にも女性の恋人(複数)がいたようですし、まあいっかという感じでとりあえず男性ホルモン治療から始めてみようと決意しました。

染色体検査で異常が発覚したのはホルモン治療を始めてからだったので、よく考えたらフライングですね(笑)

もしもそれで『検査の結果、染色体は普通の女性でした』という結果が出たらどういう人生になってたんだろうな…と、たまに考えることがあります」

「LGBT以外」のセクシュアルマイノリティとして生きるということ

――そもそもインターセックスは、ゲイやトランスジェンダーなどに比べ、あまり一般的に知られていない気がします。 新井さんの作品の中では、「半陰陽は『本当は存在しない想像上の生き物』」と考えられているともありましたが。

「いえ、今はそこまででもないと思いますよ!

『性別が、ない!』の連載が始まった2000年代初頭は今ほどネット検索が浸透していなかったこともあって、中性に限らず、不思議なものはすべて”漫画やゲームの中にしか存在しない”と考える人は、現代にくらべると多かったですね。

僕も性別のことを人に聞かれるたびに、なんらかのファンタジー的なものに例えられた経験があります。年配層だと萩尾望都の『11人いる!』、女の子だと天使や悪魔、男の子だと俗に言う”ふたなり”を例えてくることが多めでした…。

今はわからないことは即スマホで検索できる時代になったので、夢物語と考えてそれ以上は調べもしないという人はかなり減ったのではないでしょうか」

――少しずつ認知が広がっているということですね。

「正直言って、自分が生きている間に浸透しきることは難しいかもしれないなと考えてます。

なにせ長い年月をかけてきてその存在感を知らしめてきたゲイやMTFですらまだ浸透できてないんですから…。

その2種類ですらも、芸能人になった当事者自ら『オネエ』『ニューハーフ』『オカマ』など色々な名乗り言葉を使うので、テレビを見ている人達は『1つ覚えては1つ流行から去り…』という感じで混乱している状況です。

あと、インターセックスはあくまで体質的なものなので、それとは別に『LGBTのどれか』に属する場合が割とあるということ…。

インターセックスの友達でも、完全に男の外見でゲイ男性と付き合っている人はゲイのコミュニティーに、女の外見でビアン女性と付き合ってる人はレズビアンのコミュニティーで友達を増やしたり、そういう交流の仕方もできるんです」

――なるほど。でも、いわゆる「LGBT」以外のセクシュアルマイノリティとして、疎外感を感じることはないんですか。 排除されている感じというか...

「LGBTは『世間の人達よ、まずはビアン・ゲイ・バイ・トランスから知ってくれ。この四種がセクマイ知識のビギナーのための”入門編四天王”だ』ということだと思うので、排除と考える必要はないですね」

「全部いっぺんに詰め込んで理解してもらえるほど『浸透』ってイージーなことではないので、四天王に属してない種類の当事者は『排除された』と嘆くのではなく、むしろビギナーたちのために入門用のゲートを開いて四天王より先へ進む手助けをしてあげた方がいいと思います。

何事もはじめの一歩から、です。いきなり大豪院邪鬼と対面しようと思ってもそうはいかないのです」

――「四天王」ってすごい表現ですね。 なかなか理解されない難しさもあるようですが、インターセックスで良かったと思うことはありますか。

女性とも男性ともLGBTなどのセクマイの人達とも、親身になって話ができることですね。セクマイのみなさんも比較的心を割って話してくれます。

比較的、というのは『同胞よりはシンクロできないけど、一般の人達に比べたらわかりあえる』って程度のシンクロ率だということなので…どのセクマイ派閥にも100%溶け込む事はできないのが弱点ではあります。

単純に『年齢、性別の枠を越えて友達をつくる』点だけで考えると、やりようによってはかなりメリットになると思います。若い女の子と友情を結ぶのなんて、おじさんになればなるほど簡単にはできないですからね!…いや、下心的な話じゃなくて、友達の幅が拡がるという意味合いで…。

それでも、性別のことを明かさないでいると『おじさん』だというだけで警戒されてしまいますね。そういう瞬間、『自分もJKの頃は警戒する側だったんだけどなあ…』という思いがよぎり、遠い目になります…」

――インターセックスは外見ではわかりにくいケースも多いとのことでした。自覚のない当事者もいるそうですが。

「友達の女の子が僕につられてお試し感覚で染色体検査をしてみたらなんと男性の染色体。

精密検査をしてみたら精巣があり、人生観がガラッと変わってしまったそうですが、外見はどこからどう見ても色白で巨乳の”女の子”でした」

――やっぱり、気になったら検査をしてみたほうが良いのでしょうか。

「どちらかわからない…怪しい所がある…など検査を受けるべきか不安な状態の人もいるとは思います。

でも、僕は『気にならないならそのままでいい、でも長いことくよくよするくらいなら診断を受けてその先の生き方を考えよ』という風に考えています」

「女の子がおじさんになっていっちゃう人生」を漫画で伝える意味

――自身のセクシュアリティについて漫画で発信しようと思ったきっかけは何ですか。

まだ性別変化が始まったばかりの頃、今も連載をさせていただいているぶんか社さんの『本当にあった笑える話』の編集者さんとたまたま関わりあう機会がありました。

その時『あれ?カワイイ女の子(自称)なのにおじさんになっていっちゃう人生だなんてそれこそ"本当にあった笑える話"なんじゃね...?』とピンときたので、連載の話をこちらから持ちかけたのがスタートでした。

――セクシュアルマイノリティってシリアスな文脈で語られがちですが、新井さんの漫画はコミカルで、とても前向きなメッセージが伝わってきます。

まだまだ日本では認知度が低いセクマイ業界ですが、自分の存在を知ることで少しでも浸透率が良くなるといいな、と考えて今日も草の根活動を頑張っています。

――5月には漫画の新刊が出るほか、ドキュメンタリー映画が公開されるそうですね。

「夏の公開を予定しています。僕の三次元の姿を見ると気が萎えるという人は見ないように気を付けてください。

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それと、いまは電子書籍で何年前の本でも最新刊のように読めますが、各単行本の出版された”時代の風潮”というものがあります。その年ごとの伝わりやすい表現やことばの選び方をしていますので、過去の本に過激な表現が出てきてもめげずに最新刊を読んでみてくださいね。

いやむしろ、一番新しい単行本から買って読んで、だんだん遡っていく事をおすすめします。まずは1巻から…とかしないで大丈夫なのがエッセイコミックですので」


新井祥さんの活動に密着し、様々なセクシュアルマイノリティの行き方を追ったドキュメンタリー映画『性別が、ない! インターセックス漫画家のクィアな日々』が、7月28日に公開されます。

また、東京レインボーウィークに合わせ、4月30日に特別先行上映会・トークショーを開催予定です。上映の詳細については、映画公式サイトをご覧ください。

さらにBuzzFeed Japanでは4月28日〜5月6日、ほぼ1日1作品のペースで、新井祥さんら4人の人気漫画家の作品を順次、公開していきます。


BuzzFeed Japanは2018年4月28日から、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「LGBTウィーク」をはじめます。

記事や動画コンテンツのほか、5月1日にはLGBT当事者が本音を語るトークショーをTwitterライブで配信します。

また、5〜6日に代々木公園で開催される東京レインボープライドでは今年もブースを出展。人気デザイナーのステレオテニスさんのオリジナルフォトブースなどをご用意しています!

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