「いまYouTubeでバズっている動画は?」と聞かれて答える人も少なくないだろう。
そう、生放送の気象情報番組『ウェザーニュースLiVE』のことだ。
日替わりで天気を伝えるキャスターのフリートークは、有志の手によって“切り抜き”が行われ、多いもので2800万再生を超える。その数字を叩き出したのが、4年目になる檜山沙耶さん。
凛とした雰囲気を持ちながらも、「天然」「コスプレ趣味」といったギャップで、加速度的にファンを増やし、今年に入りエッセイ本『ブルーモーメント』も上梓するなど、番組の枠に収まらない人気を集めている。
こうした現状をどう捉えているのか、率直な思いを聞かせてもらった。
(取材:ヒガシダ シュンスケ、撮影:黒羽政士)
――以前、別媒体でも檜山さんを取材させていただきましたが、ものすごく大きな反響がありました。いかにウェザーニュースやYouTubeの切り抜き動画が浸透しているのか、改めて実感しました。
え、ほんとですか。大変嬉しいお言葉です。それを聞いてこれからも頑張れそうです。
――ひとつの切り抜き動画が、優に何百万回も再生されていますが、ご自身でどう感じていますか。戸惑いとかはないですか?
私のような者の動画を見ていただいて、「いいね」をつけていただいて……
――そんなに恐縮しないでください(笑)
あ、はい(笑) やっぱり3時間の生放送なので、どうしてもネジが外れてしまうタイミングがあるんですよね。
そこをすかさずキャッチしていると思うんですけど、切り抜きをする方も、悪意のない愛のある動画編集をしてくれているので、すごくありがたいです。
番組のことを知っていただくきっかけにもなりますし、私自身もいろいろな恩恵がありまして。
コスプレグラビアにも挑戦
――先日は『週刊少年マガジン』で連載されている『シャングリラ・フロンティア』に登場するキャラクターの、コスプレグラビアにも挑戦していましたね。
そうなんです。大変幸せな時間でした。まさか、趣味がお仕事になるとは思っても見なかったので。見た友人からは「ひときわ表情がイキイキしてるね」って(笑)
あと、地元の茨城に住んでいる祖母がなにより喜んでくれていて、母が掲載誌を持っていったら、涙を流して「良かったねえ」と言っていたみたいです。
遠く離れた場所から頑張ってることを伝えられたのは、このお仕事をしてきて良かった瞬間ですね。
フリートークが苦手だった
――お天気キャスターを目指したのは、東日本大震災がきっかけだったんですよね?
ちょうど、高校の体育祭の時に被災しました。楽しかった時間が突如一変して、みんな怖がりながら避難して……その時、当たり前の日常が毎日来るわけじゃないんだなって、すごく痛感しまして。「将来防災に役立つことをしよう」という思いが強く湧いてきたんです。
ただ、大学卒業後は会計事務所で、バックオフィスの仕事をしていました。引っ込み思案な性格ということもあって、踏ん切りがつかなかったのも理由だと思います。
そんな中でも、声優養成所には通っていて、「人前で話す練習」を少しずつ始めていましたね。社会人2年目になった年に、ウェザーニュースのキャスターオーディションがありまして、ご縁があったという感じです。
棋士の言葉づかいを参考に
――失礼ながら、初期の回を見ると、喋りのたどたどしさといい、声のうわずり具合といい、初々しい様子が全開だったなと。
とにかくフリートークが最初は苦手で、「こんなに言葉って出てこないものなんだ」と何回思ったことか。先輩方の放送を真似しながら、ようやくここまできた感じはしますね。
あとは、女流棋士の方は言い回し、言葉の使い方がすごく綺麗なので、山口恵梨子さんや香川愛生さんの喋り方は参考にしています。
――ちなみに、これまで覚えている中で、「一番失敗したな」と思う放送中の出来事はなんですか。
ありすぎて、パッと思いつかないですね。言い間違いだったり、クロマキーと同化してしまったり、カフの上げ下げを忘れてしまって、無音で喋り続けたり……。
あと、笑いのツボに入ってしまうと、抜け出せなくなってしまうことに困っています。「笑っちゃダメ、笑っちゃダメ」って思うほど逆効果で。
そんなときは、小難しいことを考えるようにしています。「熱力学第一法則」のことなど(笑)
キャスターとしての核
――そんなエピソードはありつつも、真剣に伝えるべき時は伝える。「切り替え」が上手な印象を受けます。
キャスターとしての「核」は壊さないぞ、とは常に思っていますね。やはり自分1人じゃなく、皆さんで作っている番組なので、引きずってしまうとご迷惑がかかりますので。
――プライベートでも同様ですか?
日常で悲しいことがあった時は、空を眺めるようにしています。晴れていたり、曇っていたり、色んな表情が楽しくて心が洗われるんですよね。
意外に頑固な一面も
――言葉遣いや佇まいなどから、柔和な方なのかなと思ったんですが、「結構頑固な一面がある」と、ご自身のエッセイでは書かれていましたね。
特にゲームで出てしまうのですが、以前友人と『マリオカート』をプレイしていて、私が1位を取るまで長い時間続けさせていました(笑)
UFOキャッチャーでも、取れるまでずっと張り付いていたところ、見ていた店員さんがしびれを切らして、取りやすい位置に置いてくれたことがありました。好きなものに関しては貪欲なんだと思います。
――では、いま檜山さん自身が熱くなっているコンテンツはありますか。
『SPY×FAMILY』は長らく好きですね。あとは『呪術廻戦』も好きで、すでに映画館で7回は見ています。
そういえば最近、ようやくNintendo Switch版の『スマブラ(大乱闘スマッシュブラザーズ)』を買ったんですが、これもまた勝てるまでずっとプレイしています(笑)
――『SPY×FAMILY』のキャラ、ヨル・フォージャーのコスプレも大きな話題になりました。1500枚もの写真を撮影したという熱の入れようといい、やはりアニメや漫画からの影響は大きいですか。
そうですね。作品の中で躍動するキャラクターを見ていると、どんなことがあっても頑張れるといいますか。
たとえば、フィギュアスケートを題材にした『ユーリ!!! on ICE』の「ユリオ」なんか、まだ10代なのに精神的にタフで体も強靭。憧れの存在として、私の心の中に住まわせています。
「雨垂れ石を穿つ」が信条
――キャラクターへの思いも内に秘めつつ、どんなことを心がけて天気を伝えていきたいですか?
たくさんの人に見ていただいているので、「寄り添う」ことを大事にしていきたいですね。
全国的に晴れていても、局地的に曇っていたり、雨が降っていたりすることがあります。
誰かを傷つけないようなフレーズを使うことはもちろん、テンションの上げ方も考えないといけません。
「雨垂れ石を穿つ」をモットーに頑張っていきたいと思います。
※雨粒が長年かけて石に穴を開けるように、たとえ小さなことでも根気よく続けていけば、いつかは大きなことを成し遂げられるという意味の言葉
――ご趣味のコスプレでの活躍も期待しています!
ちょうどいま『呪術廻戦』の狗巻くんのコスプレをしたくて……。いつか披露したいと思っているんです。
ただ、そのためには「コスプレ休暇」が必要ですね。ウィッグや衣装を調整したり、スタジオを選んだり、漫画の世界観をおさらいしたり……少なくとも3日くらいはほしいですね(笑)
檜山沙耶(ひやま・さや) 1993年茨城県生まれ。2018年から『ウェザーニュースLiVE』にお天気キャスターとして出演。視聴者のコメントを元にした軽快なフリートークが人気で、切り抜き動画は軒並み100万再生を突破。今年1月には、自身初のエッセイ『ブルーモーメント』(ワニブックス)が発売された。愛称は「さやっち」。