NASA(アメリカ航空宇宙局)は8月8日、火星探査機「インサイト」のデータを分析した結果、火星の自転が加速していることを突き止めたと発表しました。
NASAによると、わずか数分の一ミリ秒(1ミリ秒=1/1000秒)程度ではありますが、火星の1日は年々短くなっていることが確認されたとのこと。
一体火星で何が起こっているのでしょうか……? 今回はこの話題について解説します。
火星の自転がわずかですが加速しているそうです......
実は惑星の自転速度は「常に一定」というわけではありません。加速したり、減速したりします。
例えば地球は、氷河などの影響で微妙に加速することはありましたが、月などの影響により概ね徐々に減速してきました。46億年前に誕生したとき、地球の1日は5時間ほどでしたが、現在、1日は24時間になっています。
そして今回、研究チームによれば、火星の自転がわずかですが加速していることがわかりました。
では、研究チームはどのようにして火星の自転が加速していることを突き止めたのでしょうか?
2022年12月に運用を終了したNASAの火星探査機インサイトは、火星の地表に固定して運用されていました。火星は自転していますから、地球から見ると、インサイトは火星の地表と一緒に回転していたことになります。
このように移動している送信源から電波が送られてくると、ドップラー効果(※下記動画参照)により周波数が変化します。どれくらい変化するかは、送信源の速度によります。
そのため逆に、移動する送信源から送られてきた電波の「ドップラー効果による周波数の変化」がどれくらいかを測定すれば、「送信源の速度」を逆算することができるというわけです。
そこで研究チームは、インサイトが運用を開始してから900火星日間に、インサイトから送られてきた電波のドップラー効果による周波数の変化を調べ、火星の自転が毎年わずかですが加速していることを突き止めたというわけです。ちなみに火星の1日は地球の1日とほぼ同じ長さです。
その加速の程度は、毎年火星の1日が数分の一ミリ秒短くなる程度、角度で表すと4ミリ秒角ほどだそうです(※1秒角は3600分の1度)。
それにしてもこれほどの精度で火星の自転速度が測定されたのはこれが初めてになります。
今回の研究成果について、NASAのジェット推進研究所から研究に参加したブルース・バナートさんは「私は、長い間、火星にインサイトのような地球物理学的な拠点を築くことに努力してきましたが、今回の研究成果は(とても素晴らしく)その数十年の苦労に見合うものです」と述べています。今回の研究成果は、インサイトに搭載されたRISEと呼ばれる実験装置からNASAが探査機との通信などのために運用しているディープスペースネットワークに送られてきた電波を詳しく調べることで実現されました。
なぜ火星の自転は加速しているのでしょうか?
では、なぜ火星の自転は加速しているのでしょうか?
実は、研究チームによれば、その原因は全くわからないそうです。
ただ、いくつか仮説はあります。
例えば、火星の南極や北極の氷が増加したり、あるいは、南極や北極の氷が溶けて軽くなったことで地殻がマントルに押し上げられたりしたことで、火星内部の質量分布が変わり、自転に影響を与えた可能性があるといいます。
それは、アイススケートで伸ばした腕を引き寄せると、スケーターの回転が速くなるのにちょっと似ているそうです。
なぜ火星の自転は早くなっているのか……?
研究チームは、これからさらに研究を進め、火星の秘密を解き明かしていきたいとしています。