オーストラリア・カーティン大学などの国際電波天文学研究センターは7月19日、「22分周期で強烈な電波を放射し続けている謎の天体」が発見されたと発表しました。
同チームによれば、この天体「GPM J1839-10」は33年前から観測されており、少なくとも33年間に渡ってこの「22分ごとの電波放射」を続けているとのこと。
一体その正体は何なのか? 今回の発見について、できるだけわかりやすく解説してみます。
「GPM J1839-10」の奇妙な性質とは?
GPM J1839-10は、地球から1万5000光年離れたところ、たて座のなかにあります。
研究チームによれば、まだ確定はしていないものの、“新しいタイプのマグネター”である可能性があるそうです。
マグネターとは、中性子星の中でも特に強い磁場を持つ天体のこと。マグネターの磁場は非常に強く、地球の磁場の数十兆倍以上(100億テスラ以上)にもなります。
しかし、どうやらGPM J1839-10はマグネターとしてもかなり特異な性質を持っているようです。
これまで知られているマグネターは全て数秒から数分の周期で強烈な電波を放射していましたが、マグネターが強い電波を放射するためには、ある程度以上の回転速度が必要だとされています。回転速度が落ちると、電波を発生させる磁場が弱まってしまうためです。
GPM J1839-10は、22分周期で、最長5分間の強烈な電波放射を、少なくとも33年間に渡って続けています。ところがその回転速度は非常に遅く、最低限必要とされる回転速度を下回っています。
つまり、これまでの理論によれば「GPM J1839-10」がそのような電波放射を行うことはありえないのです。
そのため、「GPM J1839-10」は、マグネターだとしても、「超長周期マグネター」と呼ばれる新しいタイプのマグネターではないかと考えられています。
研究チームを率いたハーレーウォーカー博士は「背後に隠れているメカニズムがどのようなものであれ、普通ではありません」と述べています。
今回の発見には面白い裏話があります
研究チームは今回、2022年7月から9月にかけてオーストラリアにあるマーチソン広視野電波望遠鏡を使って観測を行い、GPM J1839-10を発見しました。
そしてその後、オーストラリアのASKAP電波望遠鏡、南アフリカのMeerKAT電波望遠鏡などの世界中の電波望遠鏡が追加観測を行いました。GPM J1839-10の存在を確認し、その性質を詳しく調べるためです。
その間、同時に研究チームはアメリカの超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)などの観測アーカイブデータを確認しました。すると、なんと33年前には既に、これらの電波望遠鏡によってGPM J1839-10が観測されていたことがわかりました。
ハーレーウォーカー博士は「 超大型干渉電波望遠鏡群などによるGPM J1839-10の観測データは33年間もアーカイブデータのなかに埋もれていたことになります。このような天体が存在するとは考えてもいなかったために見落とされてしまったのでしょう」と述べています。
ゲーム『Outer Wilds』との奇妙な一致も話題に
ところで今回の発見は、ちょっとした”奇妙な一致”から、ゲーム『Outer Wilds』のファンコミュニティにも衝撃を与えました。
『Outer Wilds』は、ある理由で滅亡してしまう星系の「最後の22分間」を舞台にした宇宙探索ゲーム。
22分後には全てが死に絶えてしまう中、プレイヤーだけはなぜか「死んでも22分前に巻き戻る」という現象に巻き込まれてしまい、22分間の宇宙探索を無限に繰り返しながら、やがてループと滅亡の謎に迫っていく――という内容です。
もうお気付きかと思いますが、ここで気になるのが「22分」という数字。ゲーム中では22分間周期で滅亡とループを繰り返しており、GPM J1839-10の電波放射も22分おき……!
この奇妙な一致を受けて、ゲームの発売元であるAnnapurna interactiveもこのニュースに反応。
ゲームのファンからも、
「予言は本当だった」
「これは凄い」
「実話だったのか」
「ワオ!」
などさまざまなコメントが寄せられ、投稿は現在までに、8000を超えるいいねを集めています。
マグネターや中性子星の常識を覆す発見に?
話題を戻しますが、GPM J1839-10はこれまでの中性子星やマグネターに関する理解に変更を迫るものになるかもしれません。
研究チームでは今後、さらに観測を進め、GPM J1839-10の性質や振る舞いを詳しく調べるとともに、他にも同じような天体が存在しないか、探していきたいとしています。