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厚労省がまたやった!進撃の巨人コラボで「駆逐」狙う「咳エチケットの誤解」

あなたの鼻と口にもウォール・マリアを。

これまで『マジンガーZ』や『機動戦士ガンダム』と「ダジャレ」でコラボしてきた厚生労働省が、新しいキャンペーンを発表。

暮れも押し詰まる12月22日、厚生労働省から発表されたのは、単行本の発行部数累計7,100万部を突破する人気マンガ作品『進撃の巨人』とのコラボだった。

このポスター(とリーフレット)では、主人公であるエレン、人気キャラクターのミカサ、アルミン、リヴァイ、そして主人公らと戦う「巨人」(その中でも特に大きな「超大型巨人」)を起用。

「進撃の咳エチケット」として、「袖で口・鼻を覆う」「ティッシュ・ハンカチで口・鼻を覆う」「マスクを付ける(口・鼻を覆う)」の3つの中から「好きなものを選べ」として紹介している。

厚労省の公式Twitterアカウントでは、投稿直後からツイートが拡散。『進撃の巨人』ファンからの好意的なコメントがついた。

#厚生労働省 が #咳エチケット の啓発に『#進撃の巨人』を起用 「進撃の咳エチケット せき・くしゃみをするとき、好きなものを選べ」 ポスター・リーフレット作成やSNSなどを通じた情報発信を行います。… https://t.co/gVLiEzUAPt

@MHLWitter ポスター、リーフレット( ゚д゚)ホスィ…

しかし、なぜ『進撃の巨人』で「咳エチケット」を啓発しようと思ったのか。一連のキャンペーンを手がける厚労省結核感染症課の成瀬浩史さんに話を聞いた。

リヴァイなら「強めに言われても」

――Twitterのコメントでは、ファンの間で人気の高いリヴァイの「お掃除姿」のマスクに注目する人もいました。ひょっとして、成瀬さんは『進撃の巨人』がお好きなのでは?

@MHLWitter リヴァイ兵長は掃除の時に使ってたものを使うのですね!

好きか嫌いかで言ったら、それは、好きです。

――あ、やっぱり。

ただし、趣味で仕事をしているわけではありません(苦笑)。好きだからできる仕事ではあると思いますが。

――もちろんです。では、なぜ『進撃の巨人』で「咳エチケット」だったのですか?

これまでも、厚生労働省ではインフルエンザ予防啓発キャラクター「マメゾウくん」を通じて、啓発活動に取り組んでいました。しかし、これらのキャラクターでは、どうしても認知度の面で不十分でした。

インフルエンザに限らず、咳やくしゃみで広がる感染症は、電車や学校、職場など、人が集まる場所での感染拡大を防ぐことが重要です。そこで、学生の方や社会人の方にも人気の『進撃の巨人』とのコラボを企画した、という経緯です。

――これまでのコラボでは「麻しんがゼロ」を『マジンガーZ』と、「AMR(薬剤耐性菌)」を「アムロ(ガンダムのパイロット)」とかけるなど、「ダジャレ」が企画のメインにありましたが、今回はダジャレではありませんよね。

はい、今回はダジャレではありません。リヴァイの台詞は原作にちなんでいますが。

――これ、気になったのですが、原作は「好きな方を選べ」では……?

そうなんです……。実は、ちょっとした事情がありまして。

――えっ、どんな事情ですか?

「好きな方を選べ」だと、二択になってしまうんです。日本語として不正確になってしまうので、議論はありましたが、3つ以上のものを指す「好きなものを選べ」に落ち着きました。

――日本語としての正確性を取った結果だったとは……。ご苦労が偲ばれます。人選についてはいかがでしょう。なぜ、この5人(?)だったのか。

まず、咳エチケットを実践しない、悪い例としての巨人に登場してもらって。逆に、咳エチケットを実践する良い例としての主人公たち3人、そして、その3人を指導する立場に、きれい好きでもあるリヴァイ、という流れです。

――そこはやはり、リヴァイなのですね。

はい。女性に人気のあるキャラクターというのも理由ですが、リヴァイならその性格上「(ポスターを見る人が)強めに言われてもOKなのでは」という狙いもありました。

咳エチケットの「誤解」

――この時期のキャンペーンになった理由は?

年末年始の長期休暇には、帰省や旅行、催事などで人の移動や集まる機会が増加します。例年、この長期休暇後にインフルエンザの流行がピークを迎えることから、長期休暇前に、咳エチケットを積極的に周知することにしました。

というのも、咳エチケットには今も誤解されている部分があって。

――誤解とは、どのようなものでしょうか。

「マスクやティッシュがないと(咳エチケットが実践)できない」というものです。

そうすると、「マスクやティッシュがないときはなにもしない」となってしまうこともあるでしょう。また、手で押さえることは、感染拡大の防止にはつながりません。

一方、WHO(世界保健機関)は、咳エチケットについて「マスクやティッシュ・ハンカチ、袖(そで)で口・鼻を覆うこと」を推奨しています。

――とっさのときは袖でもいいのですね!

だから、「好きなものを選べ」という。

――よくわかりました。こうやって咳エチケットの誤解を「駆逐」していくわけですね。

ただし、強調しておきたいのですが、これは咳をしている「人」を責めるようなポスター・リーフレットではありません。あくまでも、予防は自分だけではできないので、みんなで協力しよう、という意味です。

――作品中では、巨人にも悲しい過去があったりしますもんね……。

(笑)。ちなみに、このポスターの中で誰が体調が悪いかって、わかりますか? 超大型巨人だけではなくて、実はここにいる全員、体調が悪いんです。

――えっ、どういうことですか?

咳エチケットは、自分が咳やくしゃみをしているときに、他の人に病気をうつさないようにするためのものです。

このポスターでも、巨人から病気をうつされないようにマスクをしているのではなくて、みんなそれぞれ、自分の病気をうつさないようにマスクをしているんです。

――このポスター、奥が深い。見た人に伝えたいことは?

ぜひ、行動を起こしてほしいです。そういう力をくれるような作品だと思いますので。

このポスターでは、他にも、アルミンのマスクにちょっとした工夫があるので、見かけた方はぜひ、探してみてください。