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アメリカでは当たり前!? 注目集まる「ミッドレベル医療従事者」とは

海外で人気の資格についての議論が、日本でも始まっている。

病院に行けば、当然のように他人に注射針を刺される。手術などでメスを入れられることもあるだろう。しかし、これらは本来、正当な理由がなければ暴行罪や傷害罪に当たる可能性のある行為だ。

このような行為を医療目的として特別に「許可」されているのが、主に医師という資格を持つ人たち、ということになる。そして今、この「許可」の範囲を巡り、国内で議論が始まっている。

アメリカなどでは一般的な医療資格「PA」が、日本でも医師の「働き方改革」で注目されるように。

きっかけは、厚生労働省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会(ビジョン検討会)」が4月6日に発表した報告書だった。

この報告書では、医師の「働きすぎ」が問題視され、医療従事者の業務の生産性向上、業務の分担と最適化のために、医師の仕事の一部を他職種と分担する「タスク・シフティング」「タスク・シェアリング」の重要性が強調されている。

そのための施策の具体例として挙げられたのが、「診療看護師(仮称)」の養成や「フィジシャン・アシスタント(PA)」という新資格の創設だった。

現行の日本の法律の下でも、看護師は医師の指示があれば一定の医療行為をすることができる。2015年には、看護師の「特定行為研修制度」が創設・開始された。

研修修了後は、あらかじめ医師(または歯科医師)が作成した手順書に基づき、インスリンの投与量の調整など、38項目の高度な医療行為(特定行為)が可能であることが明示されている。

先述の「診療看護師(仮称)」は民間資格で、これらの特定行為に加え、気管挿管や腹腔穿刺などについても教育を行い、看護師に可能な医療行為の範囲を拡大するものだ。

また、PAはアメリカなど海外で人気の資格。ベトナム戦争から帰還した衛生兵を再教育したことが発祥で、医師の監督下で診察や薬の処方、手術の補助など、医師が行う医療行為の相当程度をカバーする。

ビジョン検討会の報告書に対して、業界団体の反応は早かった。日本医師会は報告書の発表と同日に、会長の横倉義武氏名義のプレスリリースで次のように述べている。

「診療看護師(仮称)やフィジシャン・アシスタントの活用を含むタスク・シフティング、タスク・シェアリングについては、医療安全や医療の質の向上の視点に立ち十分かつ慎重に議論することが必要と考えます」

一方、日本看護協会は翌日7日、報告書について、プレスリリースで「新たな医療における看護師への期待として前向きに受け止め、その実現に向け積極的に活動していきます」と声明を発表。姿勢がはっきりと分かれた形だ。

一般にはあまり知られていないが、医師以外の職種でもできる医療行為の範囲は、看護師を中心に、これまでも拡大してきた経緯がある。海外の現状とあわせて、日本看護協会の専務理事である井伊久美子氏に話を聞いた。

新資格導入の真の意義は「代替となる労働力の確保」ではなく、「医療現場の効率化」。

そもそも、採血は医療行為。看護師が採血を担当できるのは、それが看護師の業務である(医師または歯科医師の)「診療の補助」や、「療養上の世話」に当たるとする解釈のためだ。

一方、アメリカなど諸外国にはナース・プラクティショナー(NP)という公的な資格があり、こちらは医師の指示がなくても一定レベルの診断や治療などを行うことができる。

先述のPAとNPを総称して「ミッドレベル(Mid-Level )・プロバイダー(医療従事者)」という。このような資格が海外の医師偏在・過重労働対策として成果をあげていることは、ビジョン検討会の報告書でも言及されている。

井伊氏によれば、日本でも過去に、NPについての議論がなされていたという。しかし、現行法上は、医師の指示なしに看護師が医療行為をすることはできない。そのため、医師の指示(手順書)の下に、より高度な医療行為を行う「特定行為研修制度」が生まれた。

この特定行為の範囲をさらに拡大した先述の診療看護師(仮称)をJNP(Japanese NP)とする場合もあるが、これは海外のNPとは異なり、あくまで現行法の範囲内、「診療の補助」の延長線上で医療行為をするものだ。

整理すると、医師の指示がなくても一部の医療行為ができるのは、海外のようなNP。ビジョン検討会の報告書にあった診療看護師(仮称)・PAはともに、医師の指示・監督を必要とする。

海外のようなNPについて、井伊氏は「医療現場に必要」と支持する。しかし、これを「医師の代替の労働力」と見る意見については、異を唱える。

「海外のNPのような医療従事者を導入した結果としてもたらされるのは、代替の労働力というより、医療現場の効率化です」

現状では、「医師でなくても可能な業務をするのに、都度、医師の許可を求めに行く」ようなロスも多い。そこで、海外のNPのように自律的な判断・行動ができる医療従事者がいれば、そのロスを防げる、というわけだ。

井伊氏は次のように(海外のような)NPの意義を強調する。「今後、日本の社会においては、病気を抱えながら生活する人が急増するでしょう。医療現場を効率化するためにも、看護の基盤を持ったNPが必要だと考えます」

だが、先述のように、現行法上ではこのような役割を果たすNPは成立しない。井伊氏は「この機会に現行法の見直しも必要」と話すも、日本医師会は「医療の安全」を理由に、NPについては過去の議論から一貫して慎重な姿勢だ。新資格創設の道のりは険しいことがわかる。

また、ひと口に「タスク・シフティング」「タスク・シェアリング」と言っても、タスクが重なり合う領域においては業務の調整が必須になる。実際、日本看護協会として「今回の声明はPAの創立を支持するものではない」(井伊氏)とし、医師に限らず医療業界内の他の職種との連携の難しさも垣間見えた。

ビジョン検討会は報告書において、「医療が医療従事者だけで完結する時代は終わりを告げ、患者や住民との協働が不可欠な時代に入った」としている。このような問題も、医療サービスを利用する者は誰であれ、無関係ではない。