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親切心からの「迷信」「誤った助言」、どう向き合う? ママ婦人科医と小児科医が対談

必要なのは「感性」ではなく、正確な「知識」。

親切心からの「迷信」「誤った助言」

「若い女性や初めての子育てをしている人には、何か言いたい人が寄ってくるんですよね」

「寄ってきますね。やれ(子どもに)靴下は履かせるな。(お母さんに)サンダルは履くなと、こうした根拠に乏しい“アドバイス”は枚挙にいとまがない。そういう人たちのお眼鏡にかなうと『いいお母さんね』なんて言われるけれど、そもそもなんであなたに評価されなきゃいけないの、って話じゃないですか」

4月1日に開催された、産婦人科医の宋美玄さんと、小児科医の森戸やすみさんの対談イベント。会場には子連れのお母さんの姿も目立つ中、このやり取りで会場は沸きました(前者は森戸さん、後者は宋さんの発言)。それだけ、根拠に乏しいアドバイスに悩まされているお母さん、お父さんが多いことがうかがえます。

会場では、宋さん、森戸さんへ参加者から妊娠・出産についてのリアルな悩みも寄せられました。

専門家として、日々このような悩みに向き合う二人は、よくある相談を著書『妊娠・出産パーフェクトBOOK』(宋さん)、『「育児の不安」解決BOOK』(森戸さん)、『らくちん授乳BOOK』(宋さん・森戸さん共著)(いずれも内外出版)にまとめています。

妊娠・出産、子育てという大きなライフイベントにまつわる、迷信や誤った助言には、どんなものがあるのでしょうか。その一部を紹介します。

Q. 安産のためにできることってある? A.安産になる方法というのはありませんから、もしもそうでなくても自分を責めないで(宋さん)

そもそも「安産」の医学的な定義はありません、と宋さん。しかし、巷には安産のための情報が溢れかえっています。例えば「足を冷やすと陣痛が弱くなる」は迷信。他に、「毎日オイルをつけて会陰マッサージをすると、会陰が伸びやすくなり、切開しないですむ」という指導も、あまり根拠がないそう。

「正直なところ『何をしたから安産になる』ということはありません。やはり、出産をコントロールすることなどできないのです」(宋さん)

「妊娠力アップ」という言葉も、雑誌やテレビなどのメディアによってキャッチーに仕立てられたもの。惑わされてはいけないそう。

だから、万が一、スムーズな出産でなくても「『努力が足りなかった』などと自分を責めたりはしないでくださいね」「もちろん、まわりの人に『〇〇をしなかったからだ』などと言われてもスルーしちゃいましょう」と宋さんはメッセージを送ります。

Q. 授乳中の嗜好品はダメ? A. ケーキやお菓子は適量、コーヒーとアルコールは少量ならOK。たばこはやめる努力を!(森戸さん)

授乳中、乳腺炎を心配し、脂肪分の多いケーキやお菓子は「食べてはいけない」と思っているお母さんも多い、と森戸さん。

しかし、乳腺炎の原因として明らかになっているのは「授乳間隔が空きすぎた」「赤ちゃんが母乳をうまく飲めていない」「服やおんぶ紐による圧迫」などの原因によって「おっぱいに母乳が溜まることだけ」。動物性脂肪の摂取が原因になるとは、医学的には考えられていないそうです。

カフェインやアルコールは母乳を介して子どもに影響するため、母乳育児をしているお母さんは「少量」に。飲まない方がリスクは低くなりますが、授乳期間は長く続くので「気分転換にちょっとだけ」を意識するならOKとのこと。

目安として、カフェインについてはコーヒーなら1日5杯までなら影響がなかったとする研究結果があり、アルコールについては1日に日本酒1合、ウィスキーダブル1杯、ビール中瓶1本、7%のサワー類1缶(350ml)、ワイン1〜2杯(200ml)くらいまでと勧告されていることを、森戸さんは紹介しています(*)。

*慢性的に飲酒しているお母さんに母乳で育てられる子どもは「意外と高濃度のアルコールにさらされている危険性がある」(森戸さん)ため、母乳育児の場合はやはり、お酒はたまに、ほどほどに。また、飲酒直後の授乳は避け、2〜2.5時間(アメリカ国立衛生研究所の示す目安)は空けるようにしましょう。

ただし、たばこは母乳の影響、子どもへの受動喫煙という両方の観点からNG。できることなら妊娠を希望した時点で、お母さんも家族も禁煙をする努力を。

妊娠・出産や子育ての正しい情報を得るには?

対談中、話題に上がったのが「芸能人ブログ」。妊娠中の著名人の記事には、コメント欄に親切心から、迷信や誤った助言が書き込まれることも。それに対して、著名人が「コメント欄、勉強になりました!」などと返信することで、誰も悪気はないものの、正しくない情報が拡散していきます。

「この10年くらいで急激にみなさんの情報源がネットになってきていると感じます。正しくない情報の広がりも速いです」(宋さん)

「正しくない情報は、子育て中の方の不安や心配につけ込むことが多く、モノを売りつけようとする場合もあるので、注意が必要です。たとえば飲めば母乳が出るようになるハーブティー、子どもの背が伸びたり頭がよくなったりするサプリメントは、ありませんから」(森戸さん)

では、どうすればこういう情報に惑わされずに済むのでしょうか。森戸さんは、正しくない情報を信じ込むお母さんやお父さんたちの中に「自分の頭で考えたい」「自分の感性に合ったものを選びたい」という傾向があることを指摘します。

このようなお母さんの意見には理解を示しつつも、やはり危険がひそんでいるといいます。

「子育て中の方がこのような考えを持った結果、定期接種のワクチンも一切、打っていないお子さんが来院することもあります。これでは、防げる病気も防げないだけでなく、お子さんが感染源になることで他のお子さんの身も危険に晒してしまうことになるのです」(森戸さん)

また、ネットは自分の好みの情報をクリックしてしまう傾向があるため、基礎知識がないと情報が正しいかを判断できない、と宋さん。

「だから、私は医学についての基礎知識を身につけるのが最強だと思っています。例えば生物や化学を学べば、生理用ナプキンや紙おむつではなく“綿(布)のものを当てただけで症状が軽くなる”といったことは、人の体のメカニズムや、物質が及ぼす影響を考えれば、迷信だとわかるでしょう」(宋さん)

そこで、先に紹介した自著以外に二人がおすすめするのが「医学生や看護学生向けの教科書」。最近のものは図説やイラストが豊富で、『病気が見えるシリーズ』(メディックメディア)などの産婦人科や小児科の教科書は、一般の保護者であっても割とわかりやすい、と宋さん、森戸さんはいいます。

妊娠・出産や育児についての正しくない情報によって被害を受けるのは、当然、お母さんお父さんたちだけではありません。

迷信や誤った助言を信じ込まないことは、小さな命を守ることにもつながります。それが親切心に由来するものだとしても、まずはその情報を疑ってみることーー情報が増えた今、これが新しい保護者の心得の一つになるのではないでしょうか。