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「見えない」格差、気づいてますか? 10万人以上がアクセスできなかった「重大情報」

「国民としてカウントされていないのかと感じる」と視覚障害者の男性。

「ネットなくして生活が成り立たないのは、私たちも同じなんです」筆者にそう話すのは、瀬戸洋平さん。現在36歳の男性で、視覚障害がある。

“両眼の視力の和が0.01以下”が基準の視覚障害1級を持つ人は、全国に10万人以上いるとされる。目が全く見えないか、見えてもごくわずかであるこの人たちもまた、インターネットを介して情報を得ている。

2012年に発表された総務省の調査結果によれば、視覚障害者のインターネット利用率は91.7%だ。自分の生活にどれほどネットが浸透しているか考えてみれば、当たり前とも思える。しかし、どうやって?

視覚障害のある人たちは、その多くが合成音声による画面読み上げソフトを使っている。読み上げソフトは、ウェブサイト上で利用者がカーソルを合わせたところのテキストを読み上げる。リンクがあれば「リンク」と読む。

ソフトにもよるが、例えばBuzzFeedのトップページで左上からカーソルを合わせて読み上げていくとすれば、「バズフィード リンク ニュース リンク 記事タイトルA リンク 記事タイトルB リンク……」となる。

パソコンを操作していて、突然、画面が真っ暗になったときのことを思い出してほしい。仕事中ならお手上げだが、視覚障害がある人にとっては、この状態がずっと続くのだ。瀬戸さんは言う。

「私たちは読み上げの音声だけを頼りに、自分がサイト上のどこにいるのかを把握します。だから、いろいろな画像や広告があるサイトだと、迷子になりやすいのです」

電気が点いていない家の中で、つまづいたり、何かを踏んだりしてしまうように、サイト上で「迷子」になる。それだけでも筆者にとっては新しい気づきだったが、「練習すれば大体のサイトは閲覧できるようになる」(瀬戸さん)

しかし、それでも視覚障害者がアクセスできない形式の情報がある。そして、その形式が多用されているのが「選挙公報」だ。

読み上げソフトも万能ではない。なぜなら「画像化されたPDFファイル」は読み上げできないからだ。画像化されていないPDFファイルは今もネット上で見かけるが、画像化されたものはどこにあるのか。

実は、PDFファイルの画像化は、選挙公報において義務づけられている。選挙公報とは、選挙に立候補したすべての候補者や政党の政見などを記載した文書で、公費で有権者に配布されるもの。

この内容が改ざんされることを防ぐため、総務省は5年前に「ネット上にはPDFファイルで“そのまま”掲載すること」などを、全国の自治体に求めた。画像化はそれを受けて行われている。

重要な選挙の情報に、障害が原因でアクセスできない現状がある。そこで、ヤフー株式会社は6月22日に、読み上げサイトが使える視覚障害者向けの選挙情報サイト『Yahoo! JAPAN 聞こえる選挙』の提供を開始した。

同日に行われた記者会見で、同サイトの企画を担当したヤフーの鈴木宏一さんは、「障害による情報格差がある現実を知ってほしい」と訴えた。

鈴木さんによれば、同社の独自調査で、視覚障害者から「立候補者の情報や投票会場がわからなかったことがある」「選挙立候補者の情報がないので、投票意欲がわかない」などの声が上がったという。

また、同サイトの監修を務めた視覚障害者支援団体『ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン』のメンバーで、自身も視覚障害を持つ桧山晃さんも、この記者会見に出席。

視覚障害者が選挙に参加するハードルが高い現状に「国民としてカウントされていないのではないかと感じる」と胸中を明かした。

「余計なストレスがなく、使いやすい」と当事者。しかし、デモンストレーションでは小さなアクシデントも。

記者会見後、筆者も『聞こえる選挙』を体験してみた。黒字に白文字のデザインは、弱視の人にもはっきり文字が見られるようにするためだという。

同サイトには日本最大級の選挙情報サイト『選挙ドットコム』がマニフェスト比較やアンケートコンテンツなどのニュースコンテンツを、『早稲田大学マニフェスト研究所』が各党のマニフェストに関する情報を提供している。

前出の瀬戸さんもダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンのメンバーだ。記者会見後の会場で、同サイトのデモンストレーションを担当していた。瀬戸さんはサイトの感想を、次のように話す。

「テキストだけで構成されているので、シンプル。余計なストレスがなく、使いやすいです」

一方で、小さなアクシデントもあった。瀬戸さんがデモンストレーション中に、意図せず『聞こえる選挙』のサイト上のリンクを踏み、Yahoo! JAPANのトップページに飛んでしまったのだ。

やはりと言うべきか、瀬戸さんはなかなか『聞こえる選挙』に戻ってこれなかった。見守る記者の間にも、手助けをするべきか、戸惑いが走る。結局、数分後に瀬戸さんは自力で、再度『聞こえる選挙』にアクセスすることができた。

筆者がYahoo! JAPANの使い勝手を尋ねると、瀬戸さんも「使いにくい部分もある」と苦笑いで答えた。「とはいえ、検索エンジンを使わないわけにもいきませんから、慣れるようにして」いるそうだ。

技術の発展に伴い、ウェブサイトは情報量やデザイン、アニメーションなどが、どんどんリッチになっていく。健常者であればそれを使いこなし、楽しむこともできるだろう。しかし、その裏側には、苦労している人がいるのかもしれない。

筆者が会場で取材したヤフーの担当者によれば、要素が多いという指摘はよく受けるという。

視覚障害者への対応について、同担当者は、「検索結果については、リストの項目だけを読み上げるように、5〜6年前から対応している。トップページのアクセシビリティ(使い勝手)については、今後、順次対応していく」とした。

「サイトを作る人には、できるだけシンプルで、統一されたサイトを作ってほしいです」(瀬戸さん)

道路や建物など、実体があるものだけではない。ネットにも「バリアフリー」が必要だ。