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Googleアップデート後に流入2倍の国がん Yahoo!検索とも連携

インターネットでの正しい医療情報の入手、適切な治療選択へ。

光の当たる「正しい医療情報」

不正確な医療情報をインターネット上に掲載するメディアへの対策として、Googleが「医療や健康」に関する検索結果の改善を目的としたアップデートを実施したのが2017年12月6日。

Googleはこのアップデートにより「医療従事者や専門家、医療機関等から提供されるような、より信頼性が高く有益な情報が上位に表示されやすく」なったことを公表している。

これまで情報の信頼性が疑問視されてきたメディアや記事の多くは、検索結果の上位から姿を消した。一方、Googleに「より信頼性が高く有益な情報」と判定されたサイトには、どのような影響があったのか。

国立がん研究センターがん対策情報センター長の若尾文彦さんは、BuzzFeed Japan Medicalの取材に「12月6日から、アクセスがおよそ2倍」「過去最高レベルのアクセス数が継続されている」と明かす。

アップデート前は1日平均10万回ほどだったアクセス数は、アップデート後に1日平均18万回になった。12月のアクセス数は過去最高の470万回だったという。

国立がん研究センターは、2006年から10年以上「がん情報サービス」というサイトを運営。患者・医療関係者向けの情報提供を続けてきた。以前から医療関係者を中心に知られていたが、今回のアップデートでさらに光が当たった形だ。

同サイトの情報は、若尾さんらがん対策情報センターが提供。各分野の複数の専門家らによって、公開内容を評価される。国民が正しい情報に基づいて、適切な意思決定をできることを目的とした、非営利のサイトだ。

若尾さんは、検索エンジンによる医療情報の検索に、以前から問題意識があったという。

「検索エンジンを使う方が増える中、そこには広告や誤りを含む情報が多く、多くの方が適切ではない治療を選択してしまう。これを解決することが、喫緊の課題であると考えていました」

しかし、大きな資金による検索エンジン対策(SEO)や広告には「手の出しようがなかった」(若尾氏)。

そんな状況に変化の兆しがあったのは、2017年3月。検索サービスを提供するヤフーが、同センターに連携の提案をしてきたのだ。

「“肺がん 症状”など、がんに関するキーワードで検索した場合に、がん情報サービスのサイトへの入口を検索結果上位に設置する、という企画でした」

「もう一つの検索サービス」は

Googleアップデートのきっかけは、2016年後半から2017年にかけて「不正確な医療情報を非専門家が大量生産していたメディア」として問題になり、閉鎖された、DeNA運営の『WELQ』の問題だ。

WELQ閉鎖後も、WELQ同様の手法で運営するウェブメディアが乱立したため、そのいたちごっこにGoogleは強引に幕を引いたとも言える。

そんな中、専門家らの間で注目されていたのは、国内に多数の利用者を抱えるもう一つの検索サービスである「Yahoo!」だった。

Yahoo!ではWELQ閉鎖後も、Googleアップデート後も、「がん」などの検索ワードに対して、Yahoo!知恵袋やNAVERまとめなどのUGC(利用者が自由に作成したコンテンツ)を目を引く位置で表示する仕様だった。

実際に、2017年12月初旬に「がん」で検索した際には、1ページ目に以下のようにYahoo!知恵袋とNAVERまとめが表示された。

しかし、WELQで問題視されたのは「非専門家が作成した質の低い記事」が上位に表示されることだったはずだ。UGCを優先的に扱えば、同じことが繰り返されるのではーーそのような懸念が、専門家らの間で広がっていたのだ。

ヤフーの広報担当者は、このようなYahoo!知恵袋とNAVERまとめの扱いについて「UGCの品質や信頼性には課題もある」と認めた上で「中には利用者にとって、その特性ならではの有用な情報がある」と説明する。

「例えば、入院や看護のときの体験談をはじめ、患者・家族・第三者の目線による悩みや不安の共有、そのことによる共感など、医療従事者以外の目線による情報が、利用者を救うこともある、と考えています」

このような理由で、Yahoo!知恵袋は2009年1月から、NAVERまとめは2013年7月から、Yahoo!の検索結果に表示されてきた。しかし、この方針も、Googleのアップデート後に、転換されつつある。

「Yahoo!検索では、医療・健康領域における検索結果が与える影響を重く受け止め、さまざまな観点から改善に向けた検討や施策をおこなっています」

「Yahoo!知恵袋やNAVERまとめの表示においても、不適切な掲出を抑止するための検討や取り組みをしてきました」

特に、Yahoo!知恵袋では、医療・健康関連の検索ワード、例えば「病名」「治療」「症状」などについては、2017年12月から「Yahoo!知恵袋を検索結果に表示しない形になって」いるそうだ。

一方で、Yahoo!はWELQ問題直後のタイミングから、今回の国立がん研究センターとの連携を進めてもいた。

この取り組みにより、インターネットでの正しい医療情報の入手と、患者の適切な治療選択へとつなげていきたい、とする。

連携により、スマホ版「Yahoo!検索」の検索結果画面で、上部にがん情報センターの記事から、病気の概要や症状、原因などをまとめて表示するようになった。対象となる検索ワードは各種がんの病名など。

今回の取り組みでは、「検索する利用者が必ずしも正確・正式な病名で検索するとは限らない」という問題にも対応したという。

例えば「白血病」には関連する病名が多数あるが、利用者がそれらすべてをひとくくりにして「白血病」と検索することを予想。国立がん研究センター側で作成した「白血病の分類」のガイドページを表示するようになっている。

SEO専門家の辻正浩氏は、国立がん研究センターとヤフーの連携をこう評価する。

「Googleは数年前からアメリカで同様の表示をしていますが、日本では展開できていません。Yahoo!がそれを日本独自で、信頼できる機関と連携して実施したこと、表示が収益のある広告の上であることは、すばらしいと思います」

「願わくば現在、病名や病名×症状に限られている、記事を表示するキーワードの種類がもっと増えれば。今後に期待したいです」

ネットで完結しない情報提供を

国内最高レベルのがん研究機関として、豊富な知見のある同センター。風を受け、今後はどのような取り組みをしていくのか。

「今回はスマホ版のみですが、タブレット版、PC版にも展開するようにお願いしています。また、今回はがんの解説の“基本情報”の項目のみの表示ですが、“治療”などの項目にも展開されるのが望ましいと考えています」

しかし、正確な情報提供を重視する同サービスの情報には利用者から「難しい」との声も聞こえる。今後、訪問者が増えることが予想されるが、どのように対応していくのか。

「探しにくい、難しい、読みづらいというご意見もいただいています。従来から実施している患者・市民パネルの方々によるチェックを継続するともに、項目の簡略化の移行中であり、文章量を減らして読みやすくする変更も実施中です」

また、若尾さんは、医療情報についてわからないことがあったとき、情報収集をネットだけで完結させないことも提案しているそうだ。

「がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターに質問していただくようにご案内することもあります。がんについて電話で相談できるがん情報サービスサポートセンターを通して、相談支援センターについての情報提供を進めています」

WELQ問題、そして、Googleアップデートを受けて、ネットでは自浄作用が働きはじめている。これは、硬直化した業界では起こりにくい変化だ。

この機会に、健全化に大きく歩を進めることができるのか。それを後押しするのは、正しい医療情報を望む利用者の声だ。