• womenjp badge

平等って....?ある動画の裏で、制作者はこんなことを考えていた。

「ジェンダー平等」って、結局何なんだろう?

「ジェンダー?分からない」「知らない。性教育かと思った」

ーーーこの国のジェンダーって、何だかモヤっとしてる。

そんなメッセージから始まる動画がある。

これは、東海テレビが電通中部支社とタッグを組んで制作した公共キャンペーンCMだ。

作品のタイトルは『ジェンダー不平等国で生きていく。』で、「ジェンダー」がテーマだ。

愛知県議会の女性議長、3年で転職した女性、30代の匿名フェミニスト、共働きの夫婦、サラリーマンの男性たち、高齢者や学生たち…。

異なる性別・世代・立場の人たちへのインタビューで構成され、ジェンダーの問題についてそれぞれの立場の「モヤっとした気持ち」が映し出される。

5分間の映像で、ジェンダー平等に向けた思いを表現している。

作品は東海テレビ上で放送され、YouTubeでも公開された。『2021年日本民間放送連盟賞』テレビCM部門で最優秀を受賞した。

どんな思いで制作したのか。BuzzFeed Newsは東海テレビの制作者に話を聞いた。

「ジェンダー」をテーマに...

プロデューサーの繁澤かおるさんは言う。

「CM作りに携わったのは、2020年から1年取得していた育休から復帰したときでした。上司から4年ぶりにCMを作ってみないかと声をかけてもらったのがきっかけです。その際、『女性を扱うのはどうだろう』とアドバイスをもらいました」

制作のパートナーは、以前から女性問題などに関心のあったというプロデューサー補佐の神谷美紀さん。

今回のCMで取材を担当したといい、「2人がこれまでの社会人生活を通して感じた生きづらさや、やりにくさに向き合える作品にしたいと話し合いました」と振り返る。

「女性なのに」「女性だから」

近年、男女間での雇用格差や、「家事・育児は女性が行うべき」といった性別役割分業的な考え方は少しずつではあるものの解消されつつある。

とはいえ、普段は報道部の記者として日々のニュースと向き合う2人は、これまで女性であるが故に感じてきた生きづらさがあった。繁澤さんは「ロールモデルがいなかったので心細かった」と話す。

「11年前に入社して報道部の記者として配属されたのですが、その時に女性の先輩が1人もいなかったんです。何十人といる部員の中で、記者として働いているのは男性ばかりでした」

「記者職の女性として入り、心細かったですね。どのようにキャリアを積んだら良いのか、結婚・出産といったライフイベントに巡り合った後、どのようにその後のキャリアを歩めば良いのか...。女性として共有したい悩みを話せる人がいなかったのです」

繁澤さんは結婚し、1年間の育休取得後、「子を持つ親」として時短勤務を選択した。社内の対応に「モヤっとした気持ち」を抱きもするようだ。

「上司はこの勤務形式を認めてくれましたが、仕事の振り方が変わったとは言い難い部分もあります。さらに、ジェンダーフリーという考え方も増えているけれど、まだまだ育児は女性がしないといけなかったり、仕事との両立を考えたりしないといけないことは多くあります」

神谷さんが入社した時には、繁澤さんをはじめ女性記者は増えていた。それでも、神谷さんもやりにくさを感じる場面はたびたびあったという。

「私が新人で入った時、ありがたいことにすでに(繁澤さんのような)女性の先輩方がいらしたので、それほど違和感を感じることなく仕事ができました」

「しかし、社外で政治・経済の取材をするようになると、自分はただの記者ではなく"女性記者”なんだと自覚することが増えていきました」

取材相手から「女性なのに政治の取材をするんだ」「経済記者で女性なんですね」と声をかけられることも多かった。

「『女性目線で議会を取材してほしい』と言われたり、スクープを取れても『女性だから』『男の人が気を良くして話した』と言われたり。どうしても冠に"女性”記者という名前が付くように感じます」

「相手に悪意がある・ないは別として、取材対象である年上の男性から、ハラスメントに近い言葉をかけられることもありました。これが男性記者だったら、違ったのかなと思いもしました」

そんなモヤモヤを抱えながらも、どこか荒波を立てないように、穏便に済ませようとしてきた。自分が我慢することで、物事をスムーズに進められる。無意識のうちに、そう感じていたのかもしれないという。

ジェンダー“不”平等国?

ジェンダー平等を訴える多くのメディアでも、「ジェンダー不平等ではない」とは言えない。

東海テレビの従業員数は2021年4月の時点で「男性260名、女性91名」。圧倒的に男性が多い。

そうした環境で働き、これまでなかなか「声をあげられなかった」2人が、公共キャンペーンCMを通して自身のモヤモヤを可視化させる機会を得た。

一緒にCMの制作に取り組んだチームでも男性の割合が多かったものの、それぞれが思い描く「ジェンダー平等」について、腹を割って意見を共有できたという。

ただ、皆で共通する“平等”のイメージがなかなか出なかった。

そんな時、電通中部支社のCMプランナーから提案されたのが「ジェンダー不平等国」という表現だった。

最終的に『ジェンダー不平等国で生きていく。』と決めたタイトルには「日本の今の姿を等身大で伝える」との思いを込めた。

どうして「生きていく」としたのか。繁澤さんはその理由を話す。

「今回のタイトルって、結構ショッキングな表現ですよね。怒りの気持ちだけを伝えたかったわけではなく、明るい雰囲気にもしたかったので、このマイナスな言葉を使うことについては最後まで議論しました」

「しかし、『生きていく』という言葉を足したことで、伝えたかったありのままの姿を描けたのではないかなと思います」

未来を担う世代へ

完成した作品を観た視聴者からは「さりげなく、ジェンダー問題を考えてもらえる良い企画だった」「押し付けではなく、見やすかった」などの声が寄せられたという。

神谷さんは「CMという手法だったからこそ、さまざまな立場や年代の人が等身大で感じた小さな違和感や素直な思いを伝えることができました」と話す。

最後に、CMの制作を通じてジェンダーについて改めて考えた2人に、若い世代に伝えたいことを聞いた。

繁澤さん「10年前に比べて、ジェンダーに対する考え方がもっと自由になっている世代だと。私は、こういった変化っていいなと思います。今回の動画を観て、議論のきっかけにしてほしいですね。その時感じた気持ちをシェアしてもらって、私たちのところに届いたら嬉しいです」

神谷さん「声をあげるってすごいことのように聞こえますよね。でも、自分の意見として声をあげられなくても、例えば『この動画いいよね』と話題にしてみたり、SNSでリツイートや『いいね』をしたりするとか。モヤっとした時に、何か1つ行動できると、その積み重ねで変わることもあるんじゃないかなって思います」

作品『ジェンダー不平等国で生きていく。』は「無関係な人はいない。誰もが、当事者だ。」とメッセージを送る。

YouTubeでこの動画を見る

youtube.com