Posted on 2016年11月10日

    「トランプ支持者は理解できない」で終わり? メディアが見誤った彼らの感情

    相手の視点でみるということ。

    トランプ支持の理由を掴めないメディア

    Andrew Kelly / Reuters

    「なぜ、トランプ氏が支持されるのか。メディアがわかっていなかった。それ自体が、アメリカの『分断』です」。東京大学教授で、アメリカ研究を教える矢口祐人さんはこう指摘する。

    2016年11月8日(現地時間)。次々と入ってきた開票速報に、主要メディアのキャスター、記者たちは明らかに困惑していた。事前の世論調査でも、出口調査でも優勢が伝えられたヒラリー・クリントン氏ではなく、アメリカの主要メディアがこぞって批判したトランプ氏が票を獲得していく。

    混乱や戸惑いはメディアに、市場に、ネット空間に広がっていく。矢口さんはこう話す。

    「トランプ氏が分断を広げたんじゃない。元からあったのに目を向けなかった。メディアはどうせ、こんな人物が大統領になるわけはないと過激な発言をセンセーショナルに取り上げてきたではないですか」

    高学歴のインテリと非インテリ、人種、科学と信仰、大金持ちと貧困層、保守とリベラル……。アメリカに分断自体は、ずっとあったと矢口さんは考えている。例えば進化論。

    「アメリカはノーベル賞級の科学者が大量に生まれる一方で、進化論を否定する人もかなり多くいます。聖書の創造論を科学的に正しいとする、創造科学の信奉者たちですね。政治家にも信奉者がいます」

    「トランプ支持者」の視点からみることができなかった

    Alex Wroblewski / Reuters

    構図はやや極端だが、今回の大統領選と根底では通じている。問題は分断があることではなく、その中で対話が存在しないことにある、と矢口さんはみる。

    「トランプ支持者の中心にいるのは、都市に住まない、白人労働者で学歴はそれほど高くない層です。今回、主要メディアの報道をみても、彼らの目から現在のアメリカがどう見えているのか。こうした報道はほとんどなかった」

    「つまり、都市に住んでいるインテリは彼らを理解しようとせず、自分たちがトランプを批判すれば、支持は落ちると思っていた。結果が示しているように、実際は違ったわけです」

    進化論と創造科学と同じように「なぜそれが間違っているのか?」は、それぞれの立場からみれば自明、しかし相手が何を考えているのかわからない。

    メディアはその架け橋になるべきだったのに、インテリ層、都市に住むホワイトカラー層など特定の層にしか響かない言葉で、トランプ氏を批判しただけだったのではないか。

    彼らのリアリティ「自分たちは虐げられている」

    では、トランプ支持者からはどういうアメリカが見えているのか。矢口さんとともに、例えば、こんなストーリーを想像してみる。


    白人しかいなかったある地方の街。そこで生まれ育った白人男性は、10年間まじめに働いたのに、一向に給料はあがらないし、周囲も含めて自分たちの生活がよくなったという感覚はないーーもっとも、彼らの収入はけっして低くはないのだが……ーー。それなのに、この間ヒスパニック系などのマイノリティは明らかに増えて、近くにも住むようになった。

    都市部は潤っていて国の経済も好調だというのに、自分たちの街の産業は撤退し、恩恵からどこか取り残されている。それなのに、連邦政府はマイノリティのケアばかりを優先しているようにみえる。何かおかしくないか。政府はどうして彼らを優遇するのか……。

    そこにトランプ氏の言葉が聞こえてくる。「メキシコからの移民は強姦犯で、アメリカ国民から仕事を奪っている」「アメリカを再び偉大にしよう」


    「彼らの根底にあるのは、自分たちの生活を良くしてほしいという当たり前の感情です。自分たちの生活を大事にしている。ある意味では普通の市民だと思います」

    「大事なのは、彼らの世界から見ると、移民やマイノリティは優遇されているのに、どこか自分たちは産業がなくなり取り残されている、という理屈が成り立つということです」

    「インテリからすれば、 街の人口構成の変化と、産業の衰退は関係ないというでしょう。しかし、彼らは体感的に理解しているため、被害者意識が強くなる」

    トランプ氏の移民排斥発言を本当に支持しているのだろうか。矢口さんは、彼らの多くは移民すべてに反対するわけではなく、連邦政府が不法移民に甘過ぎると感じている、と指摘する。

    なにより大事なのは彼らの感情は、自分たちの生活向上にあり、自分たちが虐げられている体制を打破してほしいという思いにあるのだ、と。

    それはサンダース現象と共通している

    Carlo Allegri / Reuters

    自分たちは被害者であり、既得権益を破壊して欲しい。トランプは愚かな面があるかもしれないが、プロの政治家で、既得権益の中にいるヒラリー・クリントンよりマシではないか。そして、彼女よりずっと信頼できるのではないか。

    そんな、自分たちの思いを都市に住む人たち、メディアやインテリは誰もわかっていない。

    こうした感情を持っているのは、果たしてトランプ支持層だけだろうか。具体的な主張も、政治的立場も真逆だが、バーニー・サンダース氏の躍進ともつながっているとみる。

    「表面的な主張は真逆ですが、サンダース氏も反グローバル化、反エリート、反エスタブリッシュメント(既存体制)。既存体制を打破しようというところは、共通しています」

    今回の大統領選は、彼らの不満をうまくすくい取る言葉をどれだけ繰り出せるかが、勝負の鍵を握っていたという。

    一流紙より突き刺さったSNS

    「トランプ氏のSNSはフォロワーも多く、シンプルなワンフレーズ——象徴的なのが『アメリカを再び偉大にしよう』——で語りかける」

    「どこまで意識的にやっていたかはわかりませんが、トランプ支持者にとっては、インテリが読むニューヨーク・タイムズの何ページにもわたる検証記事より、彼のSNSでの発信のほうが圧倒的に読まれている。そして、強く突き刺さり、シェアもされていく」

    それを補強したのが、センセーショナルに取り上げたメディアだ。

    「彼らは、当初、面白おかしくトランプ発言を紹介していました。(メディアを通じて、発言を知った)アメリカ社会の現状に不満を持つ人は、トランプの過激な言葉を直接聞きたくてSNSをフォローする」

    「トランプ陣営は反トランプで一致したメディアを介さず、直接SNSで言葉を発信し、支持層に語っていました。SNSの持つ力をヒラリー陣営より、はるかに熟知していたと思います」

    トランプは反知性主義?

    Carlo Allegri / Reuters

    反エリート、反既得権益。想起するのはアメリカに流れる「反知性主義」という価値観だ。それを簡単にまとめるとこうなる。


    立派な勉強を積んだ人が偉いのではない。彼らエリートは、時として、普通の人たちの、上からお説教を垂れる。エリートは、ろくに知りもしないのに、普通の人たちの考えを十分に尊重しない。普通の人たちだって、知恵はあるし、日々の生活で培った知恵はエリートの座学に勝る。エリートに支配されるくらいなら、普通の人が関わったほうがいいではないか。


    トランプ氏はアメリカに流れる「反知性」の流れに乗ったのか。

    「クリントン=プロの政治家、トランプ=政治の素人という構図を描き、反知性主義の最良の部分を装った、とはいえるでしょう」

    「彼自身、2世実業家で本当に、既得権益のアウトサイダーなのかは甚だ怪しいですが、結果的にポジションをうまく作った。戦略的に作り出したとしたら、恐ろしいほどうまくいったといえます」

    「アメリカ終わった」は単純すぎる

    Carlo Allegri / Reuters

    「アメリカは終わった」。そんな声も上がるトランプ政権の誕生で、分断はより顕在化されるのか。

    「分断はいつでもこの国にあった。オバマ大統領が誕生した8年前だってあった。アメリカは終わった、という見方はやや単純だと思います」と矢口さん。

    ここでも、真逆の立場からみることの重要性を語る。問いはこうだ。熱心な共和党支持者、保守派の目から、オバマ大統領誕生はどう見えていたのか。

    「黒人で筋金入りのリベラル、オバマ大統領の誕生で『アメリカは終わった』と思ったでしょう。インテリが多いメディアも知識人も、オバマ大統領を賞賛していましたからね。彼らの存在が見えていなかったと思います」

    「極端な二極化がいろいろなところにあって、その間を揺れる振り子がある。それがアメリカです。今回トランプ氏が勝っても、4年後、8年後には真逆に位置するすごくリベラルな候補が勝ってしまうかもしれない」

    「反既得権益」という熱狂に促された、アメリカはこの先どこに向かうのだろうか。

    バズフィード・ジャパン ニュース記者

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