「調べればわかるじゃん」と指摘も……選挙報道、匿名増える新聞のなぜ

    50年前から変わらない問題

    なんで匿名ばかりに?

    選挙期間に入ると、新聞記事にはなぜか匿名が増える。例えばこんな風に。

    6月30日の朝日新聞朝刊社会面「ネット選挙、まだ片思い 候補者らFBや動画活用…反応いまいち 参院選」という記事が掲載された。

    この中に登場するのは「東京選挙区の自民新顔」氏、党幹部として全国を回る「民進現職」氏、前回参院選の比例区落選候補で最多得票を集めた「無所属新顔」氏の3人だ。

    どうしても、読みにくい印象を受ける。調べれば、それぞれ朝日健太郎さん、蓮舫さん、三宅洋平さんであることはすぐわかるのだが……

    公職選挙法が原因

    これは、他の新聞でも同じだ。なぜ、わざわざ匿名に。理由は公職選挙法にある。

    この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ。)又は雑誌が、選挙に関し、報道及び評論を掲載するの自由を妨げるものではない。但し、虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。

    選挙期間中は、ただし書きにある「表現の自由を濫用して選挙の公正を害さない」ことを目的に、可能な限り平等に扱うことが求められるというのが、新聞各社の解釈だ。

    実際、私も新聞社で働いていたときは、そうしていた。

    6議席を31人で争う東京選挙区の場合、この3人だけを実名で取り上げると他の候補者から、「公正ではない」と指摘される可能性があると判断したのだろう。

    もちろん、すべての記事が匿名になるわけではない。選挙区に関する記事でも、例えば、主張も含めて「公正」に行数をそろえるなどして名前を報じることもある。

    例外は当選ラインに遠く及ばない、いわゆる「泡沫候補」などだ。

    「この時代、匿名にしても調べればわかるじゃん」と読者から指摘されることもしばしばだった。そんな経験をした新聞記者は多いと思う。

    50年前の新聞記者はこう考えた

    実は、50年前の新聞記者も同じように悩んでいたらしい。新聞協会のホームページに掲載されている見解に答えが載っている。

    それによると、50年前も選挙をめぐる新聞報道では「選挙の公正を確保する趣旨から、ややもすれば積極性を欠いた報道、評論を行ってきたとする批判があった」。

    見解の中では別に、公選法の趣旨をこう解釈すべきだと指摘する。かなり、積極的な言葉が並ぶ。

    これが見解だ

    いわば新聞は通常の報道、評論をやっている限り、選挙法上は無制限に近い自由が認められている。したがって、選挙に関する報道、評論で、どのような態度をとるかは、法律上の問題ではなく、新聞の編集政策の問題として決定されるべきものであろう。

    同条ただし書きにいう「......など表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない」との規定が、しばしば言論機関によって選挙の公正を害されたとする候補者側の法的根拠に利用されてきたためだと考えられる。しかし、このただし書きは(中略)一般的な報道、評論を制限するものでないことは自明であり、事実に立脚した自信のある報道、評論が期待されるのである。

    問題は50年間、変わっていないようだ。