Posted on 2017年9月13日

    福島の子どもと被ばく「出産に影響はない」"ネットでしか"話題にならない重要報告

    国内の科学者の代表機関「日本学術会議」が発表した、原発事故と子どもの放射線被ばくについての報告。メディアではほとんど話題にならない、重要報告に何が書かれているのか?

    日本学術会議の報告を読み解く

    時事通信

    福島の子どもたち

    一本の報告がインターネット上で話題になっている。国内の科学者の代表機関「日本学術会議」の報告「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」だ。

    この中で福島第一原発事故による胎児への影響はないこと、チェルノブイリ原発事故よりも被ばく量が「はるかに低い」という重要な事実が指摘されている。

    特に前者は、調査でもまだまだ根強い不安が残っていることが明らかになっている。しかし、科学者の「代表機関」の報告は大きく報じられることはなかった。

    「これだけ重要な報告がなぜ報道されないのか」と疑問視する声があがる。

    胎児への影響「科学的には決着がついたと認識されている」

    Satoru Ishido / BuzzFeed

    報告は医療者、疫学だけでなく哲学者なども携わっている。議論を重ね、今年9月1日に公表された。これまで発表された学術論文や、国際機関の報告書を参照している。

    「福島原発事故による公衆への健康リスクは極めて小さいといった予測結果」がまとまって紹介されている。

    科学者たちが積み上げたデータ

    不安が根強い、胎児への影響については、実証されたデータを取り上げている。引用しよう。

    福島原発事故から一年後には、福島県の県民健康調査の結果が取りまとめられ、福島県の妊婦の流産や中絶は福島第1原発事故の前後で増減していないことが確認された。

    そして死産、早産、低出生時体重及び先天性異常の発生率に事故の影響が見られないことが証明された。

    報告ではデータで明らかになっていることを並べて、専門家の認識をこう紹介する。

    「胎児影響」に関しては、上記のような実証的結果を得て、科学的には決着がついたと認識されている。

    チェルノブイリより「はるかに低い」

    健康影響で比較されることが多かったチェルノブイリ原発事故についても、事実をもとに、こう指摘する。

    福島県の県民健康調査によると、比較的被ばく線量が高いと予測された川俣
    町(山木屋地区)、浪江町、飯舘村住民(放射線業務従事経験者を除く)の調査結果では、合計9747人の約95%、9歳以下の748 人の99%が5mSv未満であった。

    これは「ベラルーシやウクライナの避難者集団の平均被ばく線量と比べるとはるかに低い」というのが事実だ。

    課題はコミュニケーション

    時事通信

    南相馬市で開かれた野球教室

    福島県内で子どもを対象に検査されている、甲状腺がんついてはどうか。こんな議論が紹介されている。

    今まで検査が施行されたことが
    ない対象者・地域に、初めて精度管理された超音波画像診断が導入されたことによるいわゆる“スクリーニング効果”であると考えられている。

    事実、UNSCEAR や IAEAの福島報告書からも被ばく線量の低さから、放射線の影響は想定されていない

    課題として挙げられているのは、データが揃ってから先、つまり「伝え方」であり、コミュニケーションの問題だ。

    地域に密着したニーズ対応ときめ細かいリスクコミュニケーションを実践することが重要である。

    つまり、科学的に積み上げられたデータそのものへの疑義はないのだ。

    早野さんはどう読み解くのか?

    Satoru Ishido / BuzzFeed

    早野龍五さん

    この報告をどう読むことができるのか。福島を拠点に、子どもの被ばくなども調査してきた、早野龍五・東大名誉教授に聞いた。

    まず、この報告は早野さんが積み上げてきたデータ、実測に基づく見解と一致しているのかどうか。

    「しっかりした報告になっていると評価できます」

    《僕が直接関わってきたのは、放射性セシウム由来の内部被ばくと外部被ばくの調査です。

    前者はほとんど無視できる値でしかなく、後者は日本や世界各地の自然放射線量と比較して大差ないことをいくつかの論文で明らかにしてきました。

    学術会議の報告ではこのようなことが述べられています。

    ①食品中の放射性セシウムから人が受ける放射線量は、現行基準値の設定根拠である1mSvの1%以下であり、極めて低いことが明らかとなっている。

    ②空間線量率から推計された追加線量よりも 個人線量計での計測値が少ない。

    またUNSCEAR(国連科学委員会)の「放射性セシウムによる低線量・低線量率の被ばくでは、将来のがん統計に有意な変化はみられないだろう」という予測も引用しています。

    これまでの6年半に蓄積された実測データ等に基づき、しっかりとした報告になっていると評価できます。》

    どこが大事な点なのか?

    現場で奔走してきた、早野さんの目から見ても評価するポイントの多い報告だという。では、この中で特に大事な点はどこか。

    《この報告は【「子どもの」放射線被ばくの影響と今後の課題】というタイトルにも表れているように、子どもへの影響に特化してまとめたことに特徴があります。

    報告書の冒頭に「単に放射能不安や恐怖だけではなく、この「子ども」を守るための自衛手段が随所に垣間見られる」と明記されています。

    その通りで、福島の抱える困難な問題の多くは、放射線そのものというよりも、子どもを守らんがための社会的心理的なものが根底にあることが、正しく捉えられていると思います。》

    さらに、続ける。

    胎児影響はなんの心配もする必要はない。なのに……

    《この報告が「子どもの放射線被ばくによる健康影響に関する科学的根拠」にとどまっていないことも重要です。

    「福島原発事故による子どもの健康影響に関する社会の認識」というセクションを設け、国際機関、国、県、などが発表してきた公式見解「以外」にどういう見解や説があるのか、その代表的なものを論じています。

    胎児影響はなんの心配もする必要はないし、「科学的には決着がついた」と専門家は認識していても、ネット上では依然として、奇形や、子どもが産めない、といった言説が飛び交っています。》

    報告書には、こんな指摘がある。

    福島原発事故後、主にはソーシャルメディアを介して、チェルノブイリ原発事故の再来とか、チェルノブイリや福島で観察されたものとして、動植物の奇形に関するさまざまな流言飛語レベルの情報が発信・拡散され、「次世代への影響」に関する不安を増幅する悪影響をもたらした。

    《報告書では、実際に県民健康調査で「回答者の約半分が『次世代への影響の可能性が高い』と答えている」と記すなど、この問題が深刻であることがきちんと書かれています。ここも大事なことです。》

    明確な根拠がないまま、人々を脅すような言説もなくならない。報告書では、こうした言説の問題点も指摘されている。

    そして、この報告はほとんど報道されなかった……

    ところが、である。報告書の報道は、限定的なものにとどまっている。

    地元紙、全国紙の県版など一部のメディアが報じただけで、例えばヤフーニュースで検索をしても、この件を報じたニュースは1本しかでてこない。

    ニュースとしては専門家がみても重要なのに、まだ一部でしか報じられていないのが現状だ。

    早野さんは、ここに大きな問題意識を持っている。

    《僕の知るところ、これを大きく報じているのは全国紙の福島県版、福島民友と福島民報など、福島県内のメディアが中心です。

    テレビキー局なども、大きく報じる動きはなさそうです。

    全国紙も「福島が危ないかもしれない」というニュースは、大きく取り上げてきていたのに、多分野の研究者が集い、丁寧に検討されてきた基本的かつ重要な報告を全く取り上げないのはなぜでしょうか?

    僕には非常に疑問です。》

    バズフィード・ジャパン ニュース記者

    Contact Satoru Ishido at Satoru.Ishido@buzzfeed.com.

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