【UPDATE】憲法学者・小林節さん、政治団体立ち上げ 候補者も発表

    その名も「国民怒りの声」

    5月9日付朝日新聞朝刊に「『安保法制は違憲』の憲法学者 参院選候補擁立へ政治団体」というニュースが掲載された。

    報じられた憲法学者は小林節・慶応大名誉教授、67歳。

    改憲派であり、自民党に近い論客として長らくテレビなどで活躍した。しかし、昨夏の安保法を巡る議論では、明確に「違憲」と自民党に反対し、注目を集めた。安倍政権の政策には野党の主張に近い論理で、反対に回っている。同時に自衛隊は「合憲」で、改憲が必要だという立場は変えていない。

    その小林氏が自ら参院選に出るという。それも既存の政党からではなく、自ら政治団体を立ち上げて。その理由はなにか。

    手書きの設立宣言「ここに第三の旗を立てる」

    朝日新聞朝刊での報道があった9日午後、千代田区の日本記者クラブで記者会見が開かれた。

    会場では、小林氏が参院選に向けて立ち上げた政治団体「国民怒りの声」の設立宣言が配布された。A4用紙3枚で、全て手書き。丸みを帯びた独特の筆跡で書かれていた。

    午後1時54分、会見の定刻6分前。記者会見場に設置された椅子に小林氏が座った。集まった報道陣から一斉にフラッシュを浴びる。数十人が取材に詰めかけ、椅子に座れない記者も多かった。注目度は高い。

    濃紺のスーツ、白いシャツに薄い紫のネクタイ、胸元には白いチーフ。マイクの位置を気にしながら、写真撮影に応じる。

    定刻に会見は始まった。冒頭、「時間が許すかぎり、いかなる質問にも答えます」と宣言。次に、設立宣言を5分50秒かけて淡々と読み上げた。

    「(安倍政権は)政府自身が公然と憲法を破ったことになる。これが立憲主義の危機である」

    「民主党政権の失政を赦すことができず、また共産党に投票する気にもなれない多数の有権者の代弁者たらんとして、ここに第三の旗を立てることにした」

    立候補した理由は、安倍政権を中心とした改憲派による憲法改正阻止だ。では、具体的には、どのような政策を訴えるのか。

    7つの基本政策、野党との違いは?

    基本政策は7つ。以下の通り。

    ・言論の自由の回復(メディアや大学への不介入)

    ・消費税再増税の延期と行財政改革

    ・辺野古新基地建設の中止と対米再交渉

    ・TPP不承認と再交渉

    ・原発の廃止と新エネルギーの転換

    ・戦争法の廃止と関連予算の福祉・教育への転換、改悪労働法制の改正などによる共生社会の実現

    ・憲法改悪の阻止

    既存野党や、リベラル寄りの市民団体が訴えてきたことと同じような言葉が並んでいるように読める。

    小林氏によると、個人的な人脈で集った、経済人、市民運動家、学者ら通称「10人の仲間」とともに考えたという。ただし、彼らの名前は明かさなかった。

    BuzzFeed Newsは憲法以外の政治課題について、どう判断していくのか質問した。

    「物事はそんなに難しくないんですよ。自由と豊かさと平和に寄与するかどうかという視点で、政策を考えれば自ずと選択できる。国会議員は人気で選ばれ、選択をする立場。私には67歳の年寄り並みの成熟した判断力はある。百科事典のような人脈を持っているから、その中で相談して判断すればいい」

    「当たり前のことを言っているだけ。わからない人とは戦えない」

    この政治団体は、どのような人たちの受け皿となるのか。小林氏は「自分の考えは当たり前のものだ」と強調し、以下のように述べた。

    「(7つの基本政策は)全部、当たり前のようなことを言っているだけだと思いますよ。私としては。だって、言論の自由回復。これに反対する人はいないでしょ。建前上、安倍政権だって反対しない。消費税の再増税延期も客観的な事実として決まっている」

    「辺野古の新基地中止。アメリカンデモクラシーでいえば、一番偉いのは国民個人で、次が直に接している地方自治体。そこが嫌だと言っているものを国策だからといって、74%(基地を)押し付ける。説明しようがない」

    口調は徐々に鋭さを増していく。時として突き放すような語り口は、安保法制を「違憲」と断じた会見とまったく同じだ。

    質問した私の顔を見ながら、右手を細かく上下させる。

    「TPPもこれはアウトですよ。原発は安くて安全でクリーンなエネルギーだと私は昔、信じていました。だけど、福島第一原発の事故でそうじゃないことがわかったじゃないですか。大方針として廃止を決められないほうがおかしいんですね。いまそれで食べているからなんてことは、人道に反する話。これに反対する人は仲間にいりません。中国、北朝鮮が危ないと言われても、攻めてこられる環境にない。専守防衛をかなぐり捨てて、アメリカと海外で戦争をする。論理がつながらない。これが理解できない人とはともに戦う理由はない」

    専門の憲法についてもこう語る。

    「憲法はしょせん、道具ですから改正はいいけど改悪はダメです。憲法改正はありうるけど、改悪を反対するというのは選択の余地がない。全部ご理解できる方だけ集まってくれれば結構です」

    肝心の候補者は「空に向かって『公募』と声をかける」

    質問に対して、ぽんぽん答えていく。

    曰く、団体名「国民怒りの声」も「10人の仲間」との多数決で決めた。小林氏は本心では反対だったが、自分の主張を安倍政権に聞いてもらえなかった「怒り」を団体名に込めた。短期決戦であり、名前を覚えてもらうためにインパクトの強い団体名にしたという。

    曰く、アメリカの大統領選で民主党から立候補を目指すバーニー・サンダース上院議員に刺激を受けた。選挙資金はクラウドファウンディングで集める、クラウドファウンディングで反応を試し盛り上がらないなら、やめる可能性もある。自ら声はかけないが、小林氏を含めて比例区で少なくとも10人の候補者を集める。

    「僕らの発想は裾野を広げる。民進党でも、共産党でも、社民党、生活もそれぞれの固定客がいる。(固定層以外の)中間層は棄権するしかない。今のままでは棄権してしまう有権者の受け皿が必要だ。選択肢がないなら、自分が立とうと思ったんです」

    威勢のいい言葉が次々と飛び出すが、肝心の候補者はどこから出てくるのか。

    「広く空に向かって『公募』と声をかけます。思いがたぎったら来てください。特定のグループ、個人にお願いはしない」。具体的な候補者選定はまだ進んでいないことが明らかになった。

    基本政策は「ブレーンによって、5月中にさらなる具体化、ブラッシュアップをする」という。

    「いまは個人プロジェクト」

    会見後、小林氏はBuzzFeed Newsの取材にこう話した。

    「本当に決断したのは昨日の夜かな。日本全国歩いて、優秀な人がいるのを知ったわけ。そういう人がインターネットで広く、公募したらきてくれると期待しているの。いまは僕の個人プロジェクト」

    アップデート

    「国民怒りの声」は6月10日、参院選の比例代表名簿を公開した。小林さんに加え、映画「ゴジラ」シリーズで知られる俳優の宝田明さんら計8人が名を連ねた。

    アップデート

    「国民怒りの声」は6月17日、宝田明さんの擁立を取りやめると発表した。


    直筆の設立宣言は以下の通り。