まちがった薬物報道はもういらない 大竹まこと騒動が問いかける本当の問題

    著名人の薬物報道に決定的に欠けている治療という視点。このままでいいのかを問いかける声があがっている。

    これでいいのか、薬物報道?

    タレント、大竹まことさんの長女(28)が大麻取締法違反(所持)容疑で警視庁大崎署に逮捕された問題が波紋を広げている。

    報道によると、長女の逮捕容疑は1月28日、東京都品川区内で大麻を所持していた疑い。これを受けて2月1日夜、父親の大竹さんが謝罪会見を開いた。

    芸能人の子供とはいえ、成人した子供で謝罪が必要なのかという問題が情報番組などでヒートアップする一方、重要な問題であるにもかかわらず、争点になっていない問題がある。

    著名人の薬物報道の在り方だ。逮捕や本人だけでなく、家族の動向ばかりがクローズアップされ、本当に必要な治療などの視点が欠如する。

    評論家の荻上チキさんは自身のTwitterで、親のバッシングに苦言を呈した上で、薬物依存症支援について《「親の責任」としてバッシングすることは誰の得にもならない。当事者たちを追い込み、磨耗させるばかり。薬物依存症支援にもマイナスで、誰の得にもならない》とツイートした。

    「親の責任」としてバッシングすることは誰の得にもならない。当事者たちを追い込み、磨耗させるばかり。薬物依存症支援にもマイナスで、誰の得にもならない。薬物問題を本気で議論している人であれば、個人を晒さずとも議論はできるし、晒すことがむしろスティグマ化につながるとわかっている。

    報道の目安になるガイドラインがある。

    荻上さん、国立精神・神経医療研究センターの精神科医・松本俊彦さん、依存症患者の支援に関わるダルク女性ハウス代表の上岡陽江さんらが共同で作成した「薬物報道ガイドライン」だ。

    この中で強調されるのは、著名人の一挙手一投足に注目するのではなく、治療につなげる報道という視点だ。ガイドラインを発表する記者会見で上岡さんはこう強調していた。

    「薬物をやめても、きちんと治療につなげないと自殺未遂を繰り返すことようなことも起きます。(治療や支援施設へつながる)連絡先と依存症は回復可能であること。そのことを伝えるだけで、死なずにすむ人がたくさんいます。どうかお願いします」

    どんな報道をすれば問題の解決につながるのか。芸能マスコミだけでなく、社会で考えられるガイドラインになっている。あらためて読み返しておきたい。

    ガイドラインをあらためて全文掲載する

    【望ましいこと】

    • 薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること
    • 依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること
    • 相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること
    • 友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること
    • 「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと
    • 薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること
    • 依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること
    • 依存症の背景には、貧困や虐待など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること

    【避けるべきこと】

    • 「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと
    • 薬物への興味を煽る結果になるような報道を行わないこと
    • 「人間やめますか」のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと
    • 薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと
    • 逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと
    • 「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと
    • ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと
    • 「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと
    • 家族の支えで回復するかのような、美談に仕立て上げないこと