「歓迎」と「無関心」 オバマ大統領、広島訪問が投げかけること

    被爆地が歓迎する、一方で……

    アメリカのオバマ大統領が原爆投下後、現職のアメリカ大統領として初めて、被爆地・広島を訪問することが決まった。2009年4月、チェコの首都プラハで「核なき世界」を訴えてきたオバマ大統領の初訪問を、どう受け止めたのか。

    「被爆地の思いを感じて、世界に向けてメッセージを」

    「とても歓迎しますね。原爆投下した後の姿をみてもらたい」

    広島を舞台に原爆被害の実態を描いた漫画「はだしのゲン」の作者・故中沢啓治さんの妻ミサヨさんはBuzzFeed News の取材に声を弾ませた。

    「原爆資料館や慰霊碑もそうですし、被爆者の声をきいてもらいたい。オバマさんが感じたことを、世界に向けて核廃絶に向けたメッセージとして伝えてもらいたい。ぜひ、はだしのゲンを読んでもらいたいですね」

    原爆について、アメリカ大統領に謝罪してほしいという気持ちが「以前はあった」。しかし、今はそのこだわりは薄まりつつあるという。

    「今回のチャンスを逃したらもう来れないわけじゃないですか。任期が終わるから。謝罪がなくても、被爆地の思いを感じ取って、そのまま世界に向けてメッセージを広めてもらいたい。核の恐ろしさを伝えてもらいたいと思います」

    「主人が6歳のとき原爆が投下されました。母親が生きていたから、まともな生活ができたんだけど。両親がいなくて子供が一人ぼっちになった、原爆孤児の話も描いています。原爆を受けたらこんな姿になるんだ、苦しみを味わうんだってことを知ってほしい」

    「アメリカ人の中にはオバマさんの訪問に反対している人もいるんでしょう。結局、そういう人たちは、原爆が投下された直後の様子を知らないと思うんですよね。そこを知ってもらえたら……。実際に来てみて、知ってほしい。見てもらえれば、考え方が変わると思いますよ」

    「跳び上がるくらいの気持ち」

    広島県原爆被害者団体協議会(被団協)の理事長として、長年、原爆の恐ろしさと核廃絶を訴えてきた坪井直さんも、オバマ大統領を歓迎する一人だ。

    「跳び上がるくらいの気持ち。機会があるなら、『あなたは我々の仲間です。核兵器をなくすために一緒に頑張りましょう』と言いたい」読売新聞の取材に話している。

    広島、長崎の悲願

    被爆地・広島市の松井一実市長は次のようなコメントを発表。

    とりわけ、核超大国である米国のオバマ大統領には、機会あるごとに広島訪問を要請してきた。この度の大統領の理性と良心に基づく英断を心から歓迎する。大統領には、平和記念公園において被爆の実相に触れ、被爆者の体験や平和を願う「ヒロシマの心」を共有していただきたい。その上で、プラハでの「核兵器のない世界の実現」に向けた決意を一層強固なものとし、世界の政治指導者が共に歩みを進めるような具体的な道筋を示していただき考えています。

    同じ被爆地・長崎市の田上富久市長も歓迎のコメントを出した。

    被爆地長崎として、大統領の広島訪問を心から歓迎します。
    大統領が直接、被爆の実相に触れることの意義は非常に大きく歴史的な一歩であると思います。被爆地から、大統領自身の言葉で、「核兵器のない世界」の実現に向けた力強いメッセージを発信されることを期待します。

    核実験抗議の声明でも、訪問を呼びかけ続けた広島

    アメリカ大統領の被爆地訪問は、広島、長崎の悲願だ。特に、オバマ大統領は核廃絶に強い意気込みを見せていただけに、期待値は高かった。

    そのオバマ大統領も「核なき世界」を訴える一方で、政権下では新型核兵器の実験もしてきた。広島の首長は核実験への抗議の中で、訪問への言及を続けていた。

    2013年、広島県の湯崎英彦知事は核実験に対して「核爆発を伴わないとはいえ、実験を繰り返し行うことは、自国の核戦力を維持する姿勢の現れであるともとれ、核実験を実施した事実をすぐに公表しなかったことを含め、被爆者を始め、核兵器廃絶を望む世界の人々に大きな落胆と不信感を与えるものであり、誠に遺憾であります」と抗議

    その抗議はこんな一文で結ばれていた。

    「オバマ大統領には、是非、被爆地広島を訪問し、被爆の実相に触れ、核兵器廃絶に向けた思いを新たにされることを期待します」

    広島訪問は全国紙も朝夕刊の一面、NHKもトップニュースで報じるなど、各報道機関でも大きな扱いとなった。

    「記念すべきことだとは思いますが、直接、自分には関係はないからね」

    一方、広島・長崎以外の日本の人々は今回の訪問をどう受け止めているのだろうか。BuzzFeed Newsは新宿で、道行く人々に聞いた。

    「オバマ大統領の広島訪問が決まって話題になっていますよね。どう思ったか、感想を教えてください」

    濃色のスーツを着て、茶色のネクタイを締めた40代前後のサラリーマンは、新宿駅近くで立ち止まって、2分ほど取材に応じてくれた。「うーん、なんだろう。日米関係の新しい一歩だとは思いますが……」。他にコメントはないかと聞くと、困惑した表情を浮かべて言葉が止まった。

    駅前にはTシャツに緑の薄手のパーカーを羽織り、デニム姿の若い男性がスマホの画面を触っていた。彼に同じ質問を投げかけてみる。彼はスマホの画面を見たまま、表情を変えずに「あぁそうなんですか」と小さな声で話した。何を問いかけても「いいんじゃないですか」と同じ口調で、答えるだけだった。

    12人が立ち止まり、コメントをしてくれたが、総じて言葉は続かない。

    手押し車を押して歩いていた60代の女性はこう話す。「記念すべきことだとは思いますが、直接、自分には関係はないからね」

    5月10日11日の両日(11日は午後7時時点)、ヤフーが公表している検索数急上昇ワードランキング上位30位までに、オバマ大統領や広島訪問を示す言葉は入っていない。