なにが福島県産への「不安」を無くすのか?専門家が示す、シンプルな解

    風評被害研究の第一人者、東京大・関谷直也さんが実証研究を元に示した、シンプルな解。「まずハイレベルの検査体制、基準値超え0という事実が伝わることが大切」

    止まらない風評被害、どうしたらいい?

    福島県産米への風評被害が止まらない。全量全袋検査で、基準値超えは0が続き、安全が確認されている。しかし、価格が回復しない。

    どうしたらいいのか?

    ブランディングが重要、消費者も科学的知識を身につけてほしい——繰り返されてきた論争に一つの解答が示された。

    購買拒否にもっとも効果的なのは「福島県のハイレベルの検査体制と米の基準値超えが0であるという事実を徹底して伝えること」

    《福島県のお米は1000万袋超の全量全袋検査をずっと続けていて、基準値超えは2015年から0です。安全であるにもかかわらず、価格や取引が2011年以前に回復していない。

    まさに風評被害です。購買が回復しない理由は明白です。この事実が伝わっていないのです。》

    こう語るのは東京大特任准教授の関谷直也さん(災害情報論)だ。関谷さんは風評被害研究の先端を走る研究者である。

    福島県内と県外で、風評被害、消費者の意識調査を2013年から続けてきた。その結果、見えてきたのが冒頭に示された解答だ。裏付けられたデータを見ていこう。

    データから語ろう

    まず、関谷さんは風評被害を「ある社会問題が報道されることによって、本来安全とされるものを人々が危険視し、消費、観光取引をやめることなどによって引き起こされる経済的被害」(日経新聞より)と定義する。

    原発事故が原因になり、安全なはずのお米を、人々が危険視し、購買が控えられ、経済被害が生じた福島県産米はまさに「風評被害」を受けている。

    では、なぜ風評被害が止まらないのか。

    関谷さんの説明はこうだ。

    実は抵抗感は減っている

    《福島県民とそれ以外のインターネット調査の結果です。見ての通り、福島県産への抵抗感は減っています。なぜかわかりますか?》

    その理由は風化です。》

    そして、全量全袋検査を知っている人も減っている

    とっても大事な検査結果も……

    《グラフを見ての通り、年々、全量全袋検査を知らない人が増えていて、今年に至っては福島県以外の人は6割が全量全袋検査が行われていることを知らない。

    福島県民は今年は20%は知らないという結果になったとはいえ、8割は知っている。この差は大きい。

    検査結果についてもグラフの通りです。ほとんどがNDであることを全国的には80%以上が知らない。》

    進む風化と関心低下

    つまり、原発事故について風化が進み、放射線について気にしないという人が増えている。しかし、その一方で福島県産米がどうなっているかについての関心も同時に低下している。

    その結果、全国的に検査結果は伝わらないまま、風評は固定化してしまった。関谷さんは現状、福島県産米が直面している問題を3点にわける。

    ① 流通が滞ってしまい、原発事故以前は流通していたスーパーなどで他県産の米に置き換わった。

    ② 安全であること、品質が良いことは業者に知られており、安価で流通していく。結果、価格は回復せず、業務用で流通していること。

    ③ 流通業者は消費者の反応も気にして、福島県産米の市場回復には消極的であること。6年間の経過の中で、バイヤーも変わっていたりして、また福島県産の販売を再開しようという動機が薄い。

    これは業者による買い叩きではないのか?

    《いま福島で起きていることは原子力「災害」です。

    阪神・淡路大震災でもそうですが、災害のあと、長い期間、取引が停止している間に他の地域にシェアを奪われるという流通構造の変化は起きてしまうものなんです。

    短期的には、被災地の商品の棚を埋めなければならず、他の取引先の商品を置く。

    それが長期間続けば、被災地の生産が回復し、取引を再開したくとも、その他の取引先の商品をどかすことはできない。新たに市場を開拓しなければならず、それは容易ではない。

    いま起こっていることは、阪神でも起きたことと同じです。

    お米は、この6年間で、東北や北海道、北信越でも新しい品種、特A米としてブランド米がどんどん投入されていて、産地間競争も激しくなってきた。

    良い悪いではなく、福島県産米が流通しない間に、他に市場を取られてしまったというのが現状です。

    東日本大震災でいえば、宮城や岩手の海産物も流通構造の変化に直面しています。

    そこに割って入るために必要なのは、消費者に科学的知識を身につけてもらうことでもなく、「福島県産は美味しい」といったブランディング戦略だけでもない。

    知識もブランディングも重要なのですが、もっと根本的に必要なことがあります。》

    それは一体なにか?この調査結果を見てほしい。

    《購買行動に決定的な影響を与える情報は、全量全袋検査が行われていること、そして検査結果という「事実」が伝えられていることなんです。

    福島県産の農産物の販売についてかかわっている人からすると「もう、そんなことやっている」と思われるかもしれないのですが、結果を見るとまったく出ていないのです。

    メディアがニュースとして報じないという声もあります。その点は否定できません。でも、報じないからこそPRという手法がある。

    予算をかけることもできるはずです。》

    購買行動に影響を与えているのは、芸能人、専門家、キャラクターよりも「事実」であることが明確にデータにあらわれている。

    まずは徹底して事実を伝えよ

    《まずPRすべきは、徹底した事実です。事実を伝えることが、消費者の購買行動を変える一番大きな要因であることは調査結果から明らかになっています。

    災害後の産業構造の変化に対応するために、必要なのは事実を周知させること。そうしないと、せっかくのブランディングも浸透しないで終わりかねないのです。》

    「ハイレベルな検査体制のもと、基準値以下が0だったという結果こそが最大のブランド価値だと思うのです」

    関谷さんは福島県内には、全量全袋検査が周知されているという「事実」を重視する。

    少なくとも福島県内で、できてきたこと。すなわち、全量全袋検査などの検査体制が常識となってきたことやある程度の検査結果の周知、が全国でできないわけがないのだ、と。

    《ハイレベルな検査体制のもと、基準値以下が0だったという結果こそが最大のブランド価値だと思うのです。

    課題は繰り返しですが、PRに尽きます。今までの方法でダメなら、他の方法に切り替える。調査結果から言える最も重要なポイントです。

    検査体制と結果を伝えるということ。それをおろそかにした、風評被害対策はありえないのです。》