違いすぎる性格
民進党代表戦が始まった。8月21日、午後1時半——。民進党本部に設けられた会見場に姿を見せたのは、前原誠司さん(55歳)と枝野幸男さん(53歳)だ。
党内でも保守派、リベラル派として立ち位置が違うとされていたが、この日も冒頭の一言から違いが浮き彫りになった。
前原さんが打ち出した社会保障重視路線
前原さんは民主党政権で外務大臣などを務め、外交、安全保障問題に強い、党内屈指の改憲派の論客である。
しかし、キーワードは昨年、蓮舫さんに敗れた代表戦でも打ち出した「All for All」。すべての人が負担者、すべての人が受益者であるという考え方である。つまり社会保障政策だ。
前原さんは冒頭、この国の戦後史を振り返ることから始めた。
「第2次世界大戦が終わってから72年がたちました。奇跡の復興、高度経済長を遂げた先輩諸氏がご高齢で年金生活をやっている。年金は2040年まで下がり続け、不安で日頃の生活を切り詰めながら、今を苦しく生きている先輩諸氏がいる」
「日本の立役者をないがしろにすることしかできない。こんな日本は尊厳ある国家ではない。真に敬い、安定的に元気に長生きをしていただく。あらたな自民党にかわる選択肢を作りたい」
高齢者に向けた、年金や社会保障政策のアピールからスピーチは始まった。続いて若者に向けたメッセージに。
「若い人は非正規雇用が増えている。働いても給料があがらずに、結婚もできない。これが日本の現状だ。結果として少子化、結果として人口減、地域は疲弊している」
「これを放置している自民党しかないのか。もう一つの選択肢を示す。民進党のためではなく、私たちには日本のこれからのために選択肢を示すという歴史的使命がある」
そして、自身の政策を象徴するスローガンとして「All for All」を強調した。
「若い人に不安から希望を、ご高齢者には安心して過ごせる老後を」「みんなが尊厳を感じられる、みんなが分断をなくし、支えあう」社会であると宣言するーー。その先に目指すのは政権交代だ。
枝野さんが語ったリアリズムあるリベラル派路線
対する枝野さんは、官房長官であり幹事長といった「ナンバー2」路線の脱却を目指しつつ、リベラル派に馴染み深い言葉を随所に散りばめるスピーチを展開した。
枝野さんは冒頭、立候補の動機を「危機感と怒り」と説明した。何に対する危機感と怒りなのか。本人の言葉はこうだ。
「党の再生はもちろんのこと、立憲主義はないがしろ、政治が私物化され、考えられないような情報隠蔽がまかり通っている」
「こんな政治の状況に強い怒りを感じている。まっとうな政治を取り戻さないといけない。リアリズムと実行力をもって、今の政治との対抗軸を打ち立てる」
安保法、加計学園問題、防衛省の隠蔽……といった安倍政権下の問題を想起させる言葉を矢継ぎ早に並べる。
続いて、党内に向けてリーダー像を示す。
「地域の声、地域に最大化させるボトムアップ型リーダーとして立て直す」として、地域重視の姿勢を打ち出した。
「原発ゼロはもはやリアリズム。専守防衛を外すような憲法改悪と徹底して戦います。ジェンダー差別、ヘイトスピーチなど多様性をないがしろにしている問題、情報公開で自民党とは明確に違う対抗軸がある」
「地域から草の根から、地に足つけて、いっときの風に流されずに立て直す」
演説の狙いは明確だ。
かねてから民進党が主張しているオープンな政治、2011年3月11日を官房長官として迎え、自身の政治家人生を決めたと公言する脱原発論、法律家らしく憲法問題への言及——。
そこに「リアリズム」という言葉を織り交ぜ、ただのリベラル派についてまわる理想主義とは一線を画すと宣言する。
その笑顔の裏に……
両者の違いは冒頭から明確になった。
野党共闘路線についても牽制しあう。
幹事長として昨年の参院選を戦った枝野さんは「できることを最大限やる。候補者一本化は一定の成果をあげた」ーー。
対する前原さんは「理念・政策があわないところと共闘するのはおかしい。(野党協力の)是非についても見直し」と批判的な見解をぶつけるーー。
最後のフォトセッションで、笑顔で手を握った2人だが、その隔たりは大きいと言わざるを得ない。
どちらが代表になるかで民進党という政党の性格は著しく変わる。自民党にかわる政権選択の道を作ることができるのか。その方向はどちらの路線になるのか。
BuzzFeed Newsは2人の単独インタビューを予定している。