彼らはいつでも熱かった!今こそ読みたい広島カープ名作集

    つまり「神ってる」作品ばかり

    広島カープが熱いのは今年だけ?

    広島カープが25年ぶりのリーグ優勝を決めた。今年の広島は熱い。ドラマもある。でも、カープが熱かったのは、今年だけじゃない。優勝を決めたいまだからこそ読みたい、カープを描いた名作を集めた。

    「江夏の21球」(山際淳司)

    時は1979年11月4日、近鉄バファローズ対広島カープの日本シリーズ第7戦。優勝を目前にした九回裏のマウンドに江夏豊がいた。無死満塁、絶体絶命のピンチを招いた江夏は、何を考えたのか。ベンチは、バッターは……。江夏が投じた21球の中に様々な思いが交錯する。

    鮮やかな筆致で、場面を切り取りスポーツノンフィクションの新たな地平を切り開いた名作。広島カープ時代の江夏、マウンドに駆け寄る鉄人・衣笠祥雄、投球練習を始める北別府学……。ファンなら感涙必至の名前が並ぶ。角川文庫「スローカーブを、もう一球」収録。

    「スカウト」(後藤正治)

    衣笠祥雄、大野豊、達川光男、川口和久、正田耕三……。広島カープの黄金時代を彩った名選手である。彼らには共通点がある。伝説のスカウトが掘り起こした才能であるということだ。伝説のスカウトーー。それが「スカウト」の主人公、木庭教だ。

    木庭は1945年8月6日、広島で被爆している。戦後、発足したばかりで屈指の貧乏球団だった広島でスカウトとして、働くことになる。プロ野球で耐えうる素材なのか、一人の人間としてはどうか。木庭の眼差しはシビアだが、最後に温かさが残る。それは、いまのカープにも、確かに息づいているように思えるのだった。木庭は2008年死去、享年81歳。裏方の仕事に、光を当てた傑作だ。

    「もう一度、投げたかった:炎のストッパー津田恒美・最後の闘い」(山登 義明、大古 滋久)

    25年前の優勝、絶対に忘れてはいけない投手がいる。それがこの本の主人公、「炎のストッパー」津田だ。彼は1993年、脳腫瘍のため32歳の短い生涯を終えた。最後の最後まで、マウンドに戻ろうとしていた闘病生活……。未だ、語り継がれる伝説の投手の思いとは。妻・晃代さんによる「最後のストライク―津田恒美と生きた2年3カ月」とあわせて読みたい。

    「走れ!タカハシ」(村上龍)

    著作のタイトルにあるタカハシとは、広島カープの黄金時代を支えた、高橋慶彦のこと。村上龍さんいわく「ファーストベースにヘッドスライディングしてもそれが様になる日本でも珍しいプロ野球選手」。どこかで野球を楽しむ、普通の人たちが主人公の短編集で、話のどこかでタカハシは走る。村上さんは、「野球を楽しんでいる」「楽しんでいる人間を見るのは、楽しい」と書く。それは、いまだって変わらない。

    悲壮感たっぷりに野球をやっているより、楽しんでいる選手がいっぱいるほうが、楽しい。今年のカープも楽しい。

    「赤ヘル1975」(重松清)

    小説をもう一作。舞台は1975年ーー。そう、広島カープが球団史上、初の優勝を勝ち取る年である。原爆とカープを軸に、描かれる少年たちの物語。

    広島カープ誕生物語(中沢啓治)

    漫画「はだしのゲン」で有名な中沢さんだが、この作品も負けていない。戦後の広島市民にとって、カープの存在とは、なんだったのか。当然ながら、カープファンである筆者による、思い入れたっぷりの漫画だ。中沢さんは2012年に亡くなった。生きていたら、今年の広島を、カープをどう見ていただろう。

    「球場ラヴァーズ」(石田敦子)

    最後の一冊は、当代カープ女子物語。例えば前田智徳、例えば黒田博樹に託す思い。好きなものを応援する。その気持ちがもたらす、力はすごい。プロ野球選手になることはできなくても、自分の人生の一部をかけて応援することはできるのだ。著者のカープ愛が炸裂する。