「あの時の絶望感は経験したことがない」認可外保育園で生後6カ月の男の子が死亡、両親が刑事告訴

    2018年に練馬区の認可外保育施設「若草ベビールーム」で、生後6カ月の男の子が死亡した事故で、両親が当時の施設長を刑事告訴した。

    2018年に東京都練馬区の認可外保育施設で、生後6カ月の男の子が死亡した事故で、乳児が睡眠中に窒息死することがないよう、きめ細かく観察する義務を怠ったとして、両親が当時の施設長を業務上過失致死の疑いで刑事告訴した。

    6月2日にオンラインで記者会見を開いた両親は「息子を失ってから、笑うこともなく無念を晴らすことを考えてきた。それ相応の処罰を受けて、罪を償ってほしい」と訴えた。

    生後6カ月の男の子が死亡

    事故が起きたのは、練馬区の認可外保育施設「若草ベビールーム」(現在は閉所)。

    告訴状などによると、事故で亡くなった勇磨君は、2018年10月3日午後1時半ごろから午後2時ごろまでの間、眠っている間に窒息による心肺停止状態に陥り、搬送先の病院で死亡が確認された。

    施設長は、施設の責任者であるとともに、勤務していた職員の中で唯一、保育士資格を持っていた。そのため、睡眠中の事故が起きないよう仰向けに寝かせ、顔色と呼吸状態をきめ細かく確認する義務があったのに、それを怠ったとしている。

    東京都が施設の職員から聞き取りをした検証委員会の報告書によると、事故が起きた日、施設では乳児4人、幼児15人の計19人を、施設長と職員2人の計3人で見ていた。

    午後1時半ごろまでに、職員が勇磨君にミルク200ccを与え、ゲップをさせたのち、乳児室にあるベッドで寝かしつけた。その後、午後2時ごろに様子を確認しに行くまで、約30分間ほど別の部屋で作業をしていたという。

    発見した際、勇磨君はうつ伏せの状態で、嘔吐していた。顔は青白く、呼吸をしているかわからなかった。職員が近くの診療所へ連れて行ったところ、救急車を呼ぶよう指示されたため、119番通報した。

    度重なる指導監督

    内閣府の事故報告集計によると、2018年に教育・保育施設で発生した死亡事故は9件で、そのうち8件が睡眠中に発生した。

    都は指導監督基準で、睡眠中の対応について「乳幼児の顔色や呼吸の状態をきめ細かく観察すること」「乳児を寝かせる場合は仰向けにすること」と規定している。

    国のガイドラインにおいても「医学的な理由で医師からうつぶせ寝を勧められている場合以外は、乳児の顔が見える仰向けに寝かせることが重要であり、何よりも、一人にしないこと、寝かせ方に配慮を行うこと」とされている。

    一方、若草ベビールームでは、事故が起きる数年前から都の立ち入り調査で、様々な問題点を指摘されていた。

    認可外保育施設 生後6か月の男の子死亡で遺族が告訴 東京 練馬 #nhk_news https://t.co/t71BWzoIh8

    特に、2018年1月に実施された調査では、睡眠中に赤ちゃんが死亡する「乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防への配慮が不足している」と指導を受けていた。

    これに対して施設側は、改善策として睡眠チェックリストを配置し、0歳児は5分ごとに状況を観察することにしたと都に報告した。

    しかし、実際は、事故の3カ月ほど前からチェックの間隔が10分~30分と不規則になっていたことが、事故後に行われた施設長への聞き取り調査で明らかになっている。

    この他に都から指導を受けていた「児童の安全確保が不足している」「入所児童1人当たりの面積が不足している」などの項目についても、改善報告をした翌年にも、繰り返し指導を受けていた。

    調査報告書では「繰り返し指摘を受けるということは、指導監督を重く受け止めていないか、改善が困難な構造設備などの場合である。改善の意思がなく、毎年連続して同様の項目に対して指摘を受けている施設に対しては、より厳しい行政指導が必要ではないか」と指摘されている。

    勇磨くんの両親の代理人を務める寺町東子弁護士は会見で、現行の制度では、指導監督に対して改善報告をした施設が、実際に改善策を実行したのかチェックする機能が欠けていると指摘した。

    「指導監督への改善報告は、1カ月以内に書面ですることになっていますが、書面を出した後に、本当に改善されたかどうかのチェックが行われないケースが多く、書面だけ出せばいいとなりかねない問題がある」

    「命に関わるような基準に抵触している場合は、直ちに改善命令や改善勧告など、法的な枠組みに乗っかって措置をとっていく必要があると思います。文書指摘や口頭指導にとどまっていると、繰り返し問題を指摘されている悪質な業者が排除されていきません」

    母親「毎日思い出しています」

    勇磨君と両親は、事故が起きた年の7月から、若草ベビールームの利用を始めた。8月中旬から定期的に通うようになり、9月には週3、4回ほど利用していた。

    勇磨君の母親は会見で、「毎日思い出しています。夢に出てこないかなって毎日思うほどですが、夢にも出てきてくれず悲しいです」と息子を亡くした痛みを語った。

    父親も「もう(事故から)2年ほど経ちますが、忘れられないです。あの時の絶望感は今まで経験したことないものだったので、何としてもこのまま終わらせたくないという気持ちが日に日に増してきています」と語る。

    施設長に罪を償ってほしいという気持ちとともに、自治体に対しても、行政指導の制度や指導結果に関する情報発信などにおいて、対策を講じてほしいという。

    「何度も行政による指導を受けていたのに、若草ベビールームのような施設が運営できていたのは問題があると思います」

    「認可外保育施設は監査のチェックを厳重にし、その場でやり過ごせるようなものにして欲しくない。その上で、それぞれの施設の立ち入り調査の結果などをよりわかりやすく開示してもらえたら、選ぶ側としても助かると思います」