戦争しか知らない3歳の女の子。空爆の恐怖から娘を守るため、お父さんはあるゲームを始めた。

    「でも、娘が大きくなる間も空爆が続いたとき、私のゲームだけでは、彼女の心を深い精神的なトラウマから守れなくなる日が来るのではないかと、恐れています」

    内戦勃発からまもなく9年の月日を数えようとしているシリア。いまも激しい戦闘が続くなか、空爆の音に怯えていた娘のために、父親が考えたある「ゲーム」が世界中で注目を集めている。

    「爆弾が落ちたら笑おうね」

    内戦勃発からまもなく9年となるシリア。今も激しい戦闘が続くなか、娘が空爆の音に怯えなくていいよう、父親が始めた“あるゲーム“が世界の注目を集めています。 父親は「娘は今はまだ大丈夫。でもこのまま空爆が続けば、いつかは私のゲームだけでは娘の心を守ることができなくなる」と語っています。

    中東の放送局「アルジャジーラ」や、ロイター通信によると、話題を呼んでいるのは、2月19日に父親の友人がTwitterに投稿した動画。

    そこには、反体制派の最後の拠点となっているシリア北西部のイドリブ県に暮らすアブドッラー・ムハンマドさんと3歳の娘サルワさんが、ソファに腰掛け、何かを楽しみに待っている様子が映っている。

    わくわくした表情のふたりが待ち望んでいるのは、空爆を告げる音だ。

    ムハンマドさん「(音が聞こえると)これは戦闘機かな?それとも爆弾?」

    サルワさん
    「爆弾だよ」

    ムハンマドさん「爆弾?」

    サルワさん「もうすぐ落ちてくるから、笑おうね」

    そして、激しい爆発音が轟くと、サルワさんは弾けるように笑い始める。ムハンマドさんが「ね?爆弾面白かったよね?」とたずねると、サルワさん「うん!面白かった」と笑い続ける。

    「心から恐怖を取り除くために」

    アルジャジーラの取材によると、ムハンマドさん親子がこのゲームを始めたのは、昨年12月ごろ。空爆が激しくなるなか、爆音に怯えるサルワさんにこう教えたのだと言う。

    「以前にラマダーンの終了を祝う大祭で、近所の子供たちがが爆竹を鳴らしてお祝いをして時がありました。その時もサルワが怖がっていたので、ベランダに連れていって、ただのおもちゃだから怖がらなくていいと教えたんです」

    「今回もそれを言い訳に使えないかと、空爆もただのゲームだから、怖がらなくていいんだと教えられないかと考えました」

    「娘の心から恐怖を取り除き、あの大きな恐ろしい音を、何か明るく、楽しいものに結び付けてほしかったんです」

    「いつか守れなくなる日が来る」

    シリアでは2011年3月以降、およそ9年間にわたって、アサド政権軍と反体制派による激しい内戦が続いている。

    シリア人権監視団が1月4日に発表した調査結果によると、この内戦による死者は38万人を超えた。そのうち約2万2000人が、18歳以下の子どもたちだったとされる。

    まだ3歳のサルワさんは、戦争のさなかにあるシリアしか知らない。ムハンマドさんは「サルワはまだ大丈夫。よく遊び、笑い、冗談を言う子どもです」だと語る。

    「でも、娘が大きくなる間も空爆が続いたら、私のゲームだけでは、深い精神的なトラウマから、彼女の心を守れなくなる日が来るのではないかと恐れています」