インターネットとの出会いは「東京のコインランドリー」だった。

    ※少しだけ映画のネタバレを含みます。

    寂れたゲームセンターを飛び出した「でこぼこコンビ」が、ふるさとを救うためにインターネットの大海原で冒険を繰り広げる映画「シュガー・ラッシュ:オンライン」が12月21日、日本で公開された。

    「ズートピア」で動物たちの世界を描いたディズニーの製作陣が描くのは、秒刻みで変化し、拡大し続けるインターネットの世界。

    そこでは、Google、Yahoo!、LINEなどの見慣れたロゴが立ち並ぶ摩天楼に、歴代のディズニープリンセスたちが勢ぞろいする。

    ネット時代を生きる子どもと大人たちに、ディズニーはどのような物語を届けるのか。BuzzFeed Newsはリッチ・ムーア監督と、脚本も手がけたフィル・ジョンストン監督に聞いた。

    前作は古き良き時代への「ラブレター」

    ーー主人公のヴァネロペとラルフは、アーケードゲームの世界のキャラクター。2012年に公開されたシリーズ第1作では、古き良きゲームの世界が描かれましたが、今回はどうしてインターネットに?

    ジョンストン:3年半ほど前に続編を作るべきか議論し始めた頃から、まずあったのが、「二人の暮らすゲームセンターにWi-Fiルーターが接続されて、ラルフがインターネットを脅威と見なして壊そうとする」というアイディアでした。

    ムーア:第1作は、パックマンやソニックなど、子どもの頃に遊んだゲームセンターやビデオゲームの思い出に対する「ラブレター」で、とてもノスタルジックでした。

    僕たち自身、映画の終わり方がとても気に入っていて、このノスタルジックな世界をこれ以上、どううまく作ればいいのかわからなかったし、観客もこの古き良き世界をまた見たいと思っているかわからなかったんです。

    だから2作目はもっと現代的なものにアップデートして、ゲームセンターとは無縁な世界で育った人にも共感してもらえる作品にできないかと考えました。

    そこでたどり着いたのが、インターネットでした。今では世界中の人が日常的にインターネットを使っていますから。

    東京のコインランドリーで

    ーーラルフとヴァネロペがインターネットと出会うシーンでは、自分が幼い頃に初めてインターネットを使ったときの感動が少しよみがえるようでした。

    ジョンストン:僕もたった今思い出したんですが、今年うちのスタジオのCCOになったジェニファー・リー(映画『アナと雪の女王』の監督)と一緒に大学に通っていた頃、彼女が初めてウェブカメラのライブ中継を見せてくれたんです。

    それも、なぜか東京のどこかにあるコインランドリーの様子をただずっと流しているもので(笑)

    「誰が何のためにこんなもの見るんだ?」「見れるから見るんだよ!」と興奮しながら話して、地球の反対側でただ人が行き来しているのを見れることに感動したのを覚えています。

    ムーア:昔は映画でお金持ちを描写するときは、巨大な箱みたいな携帯電話を持たせれば、「うわ〜アイツはお金持ちだ」って一発で伝えられた時代もあったんですけどね…(笑)

    ジョンストン:僕が東京のコインランドリーを眺めていた日から20年も経っていませんが、今では誰でも、どこでも、どこにいる人とでも繋がることができる。本当にすごいことです。

    プリンセスは「再定義」されたのではない

    ーー映画の予告編ではネットの世界をさまようヴァネロペが、ディズニーの公式サイトに迷い込み、歴代のディズニープリンセスたちと出会うシーンが話題になりました。

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    ーーこれまでのディズニー映画では「救われる側」だったプリンセスたちが、ピンチに陥ったラルフを「救う」場面も。今まであったようでなかったプリンセスたちの姿に感動しました。

    ジョンストン:プリンセスたちの物語をよくよく見ていたら、みんな誘拐されたり、毒物を食べさせられたり、監禁されたり、本当に散々な目にあってることに気付きました(笑)

    今回の映画で、ヴァネロペが本物のプリンセスかを確認するために、ラプンツェルが「背が高くて強い男性に幸せにしてもらったってみんなに思われてる?」と聞くシーンがあります。

    確かに初期のディズニー映画ではそういう描写もありますが、プリンセスたち一人ひとりを紐解いていくと、みんなとても強い女性たちだということがわかります。

    だからこそ、今回の映画でプリンセスたちが「背が高くて強い男」であるラルフを救うことになるのは、彼女たちにとっては自然な流れだなと思っていて。それが「シュガー・ラッシュ」で実現したってのは本当に変な話ですけど…(笑)

    ムーア:インターネットでは何でもありだからね(笑)

    ムーア:ただ変なのが、これまでそのシーンについて、何度も「ディズニープリンセスを再定義したお気持ちはいかがですか?」と質問されたんですが、再定義したとは全く思っていません。

    むしろ、彼女たちの前にわだかまっていた「プリンセスはただの綺麗なモデルだ」「ガウンを着た美しい女性たちだ」みたいな余計な概念を取り去っただけ。自分の子どもたちにはそんなもの見せたくないですから。

    プリンセスたちのアクションシーンも、全て本来の人物像や物語に根付いています。だから僕たちはプリンセスたちを再定義したのではなく、彼女たちの本当の姿、僕たちがずっと見たいと思っていた姿を描くことができたのだと思います。

    ネットいじめ「君は一人じゃない」

    ーー映画ではインターネットの世界ならではの冒険や喜びとともに、ネットの「闇」も描かれています。ネット時代を生きる子どもたちに、どのようなメッセージを届けたいと思いますか?

    ムーア:YouTuberを目指すラルフが、インターネットのルールその1「SNSのコメントは読まないほうが身のため」を身を持って学ぶシーンがあります。

    僕自身、この映画についてみんながどう思ったか知りたくて、ネットのコメントやレビューを読んでは「そんなに意地悪なこと言わなくてもいいのに…いい映画が作りたいだけなのに…そんな言い方しなくても…」と落ち込むことはあります。

    でも大切なのは、攻撃された自分が悪いんだ、落ち込む自分が弱いんだと責めるのではなく、人を傷つけるような言葉をネットに書くことに時間を費やしてる人に問題があるんだと知ることだと思います。

    ジョンストン:もうすっかり大人になった僕たちだって、SNSのコメントなんか無視すればいいと割り切ることはとても難しいし、日々傷ついています。

    映画を通じて、特にネットいじめで傷ついた子どもたちが、自分は一人ではないこと、ネットの中傷は今や誰もが経験し、誰にとっても嫌なものであると知って、周りの人に少し優しくなることができたら嬉しいです。