りぼん編集長が、りぼんを卒業した女の子たちにも届けたいマンガがある。

    「この漫画に無関心な女子はいても、無関係な女子はいない」

    「異例。この連載は、何があろうと、続けていきます」

    雑誌での連載開始と同時に、編集長がいきなりそう宣言をしたことで、話題を呼んでいる少女漫画がある。

    「りぼん」9月号(集英社)で連載が始まった、牧野あおいさんの新作「さよならミニスカート」だ。

    主人公の神山仁那は学校で唯一、スカートではなく、スラックスを履いて通学している女子高生。

    彼女は半年前まで、アイドルグループの「不動のセンター」だった。

    だが、握手会でナイフを持ったファンに切りつけられた事件をきっかけに、アイドルをやめ、さらには「女の子」をやめる。

    事件のトラウマに苦しみ、アイドルとしての自分やミニスカートを捨てた仁那の毎日は、「女の子」であることを誰かに消費される葛藤や、何気ない言葉がのこす傷を浮き彫りにする。

    特設サイトに掲載された「異例」の宣言は、こう締めくくられている。

    「この漫画に無関心な女子はいても、無関係な女子はいない。今こそ、読んでください。今こそ、すべての女子に捧げたい」

    なぜ、いまこの漫画を届けるのか。BuzzFeed Newsは、りぼんの相田聡一編集長と「さよならミニスカート」の担当編集者に聞いた。

    「これはすごいのが来たな」と思いました

    ーー「このまんがに関しては、何があろうと、読者のみなさんに面白さが伝わるまで連載をし続けていきます。それくらい覚悟を示せるまんがと出会ってしまったのです」という”異例”の宣言が大きな注目を集めました。

    相田:ネーム選考で作品を読んだときから、「これはすごいのが来たな」と思いました。

    当時、僕は副編集長だったんですが、もう1人の副編と編集長含めた全員が満場一致で絶賛でした。これはなかなかないことです。

    僕は長く「少年ジャンプ」で編集をしていて、2017年の夏に「りぼん」に来たばかりだったのですが、いい意味で今の「りぼん」にない、「これをりぼんでやっていいのか?」「りぼんでやったらどうなるんだろう?」というわくわく感がありました。

    ーーなにがそこまで編集部を唸らせたのでしょうか?

    相田:未解決の事件をめぐるサスペンスや、次々起こるショッキングな展開の面白さもありつつ、少女漫画の文法をしっかり押さえている。悩みを抱えている主人公の女の子の成長譚になっていると感じました。

    相田:色んな考え方があると思うんですが、少女漫画ってやっぱり、読者が主人公に憧れられるものでなきゃいけないと思うんですよ。

    少年漫画で読者がヒーローに憧れるのと同じで、少女漫画もこんな恋愛をしてみたい、こんな人と出会ってみたい、こんな生活を送りたいと感じさせることが本質だと思っていて。

    サスペンスを売りにしている漫画だと、サスペンスの面白さだけが前に出がちじゃないですか。

    両方を兼ね備えた作品が少ない中で、この作品にはそこだけで終わらない深みがある。ちゃんと今の女の子に読んでほしいと思わせるものになっていると感じました。

    「女の子」に向けられる「性的な眼差し」

    ーー小学5・6年生を主なターゲットにしている「りぼん」で、実際に起きた事件を彷彿とさせる物語や、セクハラや痴漢、性的な眼差しを向けられる葛藤を描いたことも注目を集めた理由でした。

    担当:著者の牧野さんが最後に連載されてから5年ほどの間、次回作の構想を練るなかで出てきたのが、「さよならミニスカート」の原案でした。

    担当:ただ、実在する事件を直接のモチーフにしているわけでも、性的な言動をめぐる社会の動きを受けて、そこだけを狙って描いているわけでもありません。

    伝えたいメッセージを込めて、一人の女の子の物語を描こう、読者に楽しんでもらえる漫画を作ろうと、牧野さんが懸命に考えた結果、この作品が生まれた。

    社会的な文脈と繋がったことで、想像以上に幅広く大きな反響をいただき、大変ありがたく思っています。

    相田:確かに、表面的に見てこの漫画は「りぼん」ぽくないなと思う人がいてもおかしくないと思います。

    僕らも、今の「りぼん」のラインナップに慣れている読者の女の子たちに刺さらなかったり、「私たちのための漫画じゃない」と思われたりするかもしれないという不安もゼロではありませんでした。

    それでも万が一、今の読者から反応がなくても、これは面白いものだから、面白いものはちゃんと載せていきたいという思いがあの宣言につながっています。

    漫画が売れない理由

    ーー「さよならミニスカート」は、「りぼん」の連載として初めてLINEマンガと少年ジャンプ+でも同時配信しています。

    相田:りぼんの読者は、みんなある時期に卒業しちゃうんですよね。ジャンプはずっと読み続けてくれる読者が多いのに、りぼんは「もうこれは私が読む雑誌じゃない」と思われる日が来てしまう、というか。

    でも、この作品はそうやって卒業していった人たちにも楽しんでもらえる、「りぼんはまだまだ面白いぞ」といえる作品だと思ったので、本誌の外から来る人を狙っていこうという意図もありました。

    漫画が読まれなくなってるのは、他にゲームやインターネットなど面白いものができたということなんです。他のメディアが面白いから負けているわけで、他より面白かったら勝てるはずなんです。

    だからこそ、面白いものをちゃんと届けないといけないと思っています。

    少女漫画はどんな「少女」を語るのか

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    「さよならミニスカート」の実写版イメージ動画

    ーーTwitterやLINEマンガのコメント欄には、登場人物の女の子たちの葛藤に共感し、自分自身の経験や思いを語る読者の声も多く投稿されています。少女漫画がどんな「少女」を描くかは、なぜ重要だと考えますか?

    相田:本来子どもの頃に触れた漫画って、人格形成に影響を与えるものだと思っています。だからこそ楽しいんですよ、僕らも。

    僕らの前後の世代だと、「私はこの漫画を読んで育ちました」って人がいっぱいいますよね。小・中学生の頃に出会って、人生を決められてしまうくらいの影響のあるエンターテイメントって、漫画くらいしかなかった。

    そういう意味では、僕は漫画が今も日本一のメディアだと思ってるんですよ。

    相田:だから、まずは面白い作品を作る。その面白い作品のなかにあるものを、読者に読み取ってもらう。

    マンガは何百とあるので、書いてあることはバラバラでいいんです。どれも作家さんと編集が必死になって、「こういう人物って魅力的だよね」って思って書いているので、その中の一つでも二つでも拾ってくれればいい。

    今はどういう少女像が正しいとか、こういう時代だからこう描くべきだっていう答えもありません。

    ただ、雑誌の中に10個マンガがあったら、それぞれに魅力的な人間が描かれていて、憧れを感じることができる。そういう雑誌を作らないといけないと思っています。


    『さよならミニスカート』は現在、りぼん10月号で2話目を掲載中です。

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