• lgbtjapan badge

「人を差別する言葉は、みんなの柔らかい所を傷つける」 尾辻かな子議員の14年

「この変化の速度は、さらに加速させられるんじゃないかと思っています」

来月、日本で初めて、同性同士が結婚する自由や権利をめぐって争う集団訴訟が始まる。

電通が実施した調査で「同性婚に賛成」が約8割を占めるなど、LGBTへの理解が広がる一方、政治家などによる差別的な発言は後を絶たない。

LGBTを取り巻く環境はどのように変化し、どこへ向かっていくのか。BuzzFeed Newsは同性愛をオープンにした初めての国会議員の尾辻かな子議員に聞いた。


カミングアウトした14年前

私がカミングアウトしたのは、2005年です。

当時、私は大阪府議会議員でしたが、性的マイノリティの課題に取り組むために国政を目指したいとなった時に、小選挙区で出馬するという選択肢はありませんでした。

小選挙区の候補者は、その地域におけるその政党の代表ですから。そこにマイノリティである、同性愛者の女性候補が来るという選択は当時、非常に困難でした。

同性婚やLGBTに対する差別への対策などについて話していても、取材に来た記者の方々に「どうやって記事を載せたら良いんだろう」と言われました。

LGBTの課題が、国が取り組むべき政治的な課題であることを、記者の上司に理解してもらうことが難しかったんです。

それが今では、1週間あればLGBTに関するニュースが複数報道され、私も小選挙区で選挙ができています。

私自身もオープンな議員として特別視されている感じはしませんし、私が国会で質問しなくても、誰かが当たり前にLGBTの問題について追及して、政治的課題として一緒に取り組んでくれます。

国会の議事録に「同性愛」や「LGBT」という言葉が出てくる数も、私が政治の世界に入った頃とは全然違うと思います。

そうした意味では、思ったよりも早く時代は変わったと感じます。その一方で、法制度はまだまだ追いついていません。

だからこそ、この変化の速度は、さらに加速させられるんじゃないかと思っています。

「杉田さんは若いから」で済ますのか

2018年はLGBTをめぐるニュースが数多く報じられましたが、やはり自民党の杉田水脈議員が「新潮45」に寄せた寄稿「『LGBT』支援の度が過ぎる」は、大きな出来事だったと思っています。

今までも政治家が同じような言動をすることはありましたが、ここまで大きく社会的な問題として注目されることは、これまでなかったからです。

「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」という杉田さんの言葉に対して、当事者以外の方にも「これは問題だ」という意識が広がったこと、「性的指向や性自認に対する差別は許されない」と感じられるようになったことは、非常に重要だったと思います。

しかし、自民党や杉田さんからはこれまで、寄稿の内容に関する明確な謝罪はありません。

自民党は、平沢勝栄議員が「(LGBTの)人たちばっかりになったら国はつぶれちゃう」と発言したり、過去にも柴山昌彦文科相が「同性婚を制度化すると少子化に拍車がかかる」と述べたりして、批判されてきました。

豊田真由子さんの秘書に対するパワハラ問題が発覚したときは、あっという間に離党まで行ったのに、「杉田さんはまだ若いから」という言葉で済まされている。

その点に、自民党の中枢にいる方々が、問題を深刻に受け止めていないのではないかと感じます。

著名人のカミングアウト

2018年には、カミングアウトされた著名人の方も多くいらっしゃいました。

経済評論家の勝間和代さんに、同志社大学の岡野八代教授、日本文学者のロバート・キャンベルさん。岡野さんは、杉田さんの寄稿に対して抗議する街頭アクションで、カミングアウトされました。

これまでいくつもの街頭アクションでマイクを握って来られた岡野さんが、この日は、「泣かずに原稿を話し続けるのがすごく難しくて、何度も何度も練習したんだ」と仰っていたことがすごく印象に残っています。

自分自身の話をするときは感情が高ぶってしまって、涙が出るほど色んな気持ちが出てしまうこと。その、当事者が語ることの重さというか、カミングアウトすることの覚悟とかが、私もすごくわかる。

泣いちゃいそうになるのも、すごくよくわかるんです。

今日は大阪で緊急の街頭宣伝。 岡野八代先生の自らの半生を振り返るカミングアウトの言葉。牟田和恵先生の科研費をめぐるバッシングの話。飛び入りで参加した彼のLGBTの友人が泣きながら電話をかけてきた話。私たちは怒っている、そして泣き寝入りはしない。 #0728杉田辞職しろ大阪街宣

こうした人を差別する発言というのは、誰かの存在を、みんなの柔らかい部分をすごく傷つけているんだと日々感じています。

岡野さんがそんな思いをしてでも、自分のことを話さなければいけないんだと決意させたのが、杉田さんの文章だったということです。 

無関心でも、無関係ではいられない

他にもこの1年で、同性カップルを公的に認める「パートナーシップ制度」が各地の政令指定都市などに広がりました。

まず、札幌から始まって、福岡、大阪、熊本(今年4月から実施予定)が次々と後に続きました。政令指定都市は人口が大きいですから、こうした広がりを見せたことはすごく大きいなと思います。

さらには、「弟の夫」や「おっさんずラブ」など、ゲイ男性を主人公にしたドラマがテレビで見られるようになったことにも時代を感じますね。

東京レインボープライドのパレードに20人以上の国会議員が参加して、一緒に歩いたこともすごく印象的でした。

LGBTであるということと支持政党は様々ですが、法律の制定は議会の仕事です。

差別解消法を実現するなら、同性パートナーとの結婚を進めるなら、法律を改正したり、立法したりする必要があります。LGBTの権利獲得に、政治は避けて通れない部分があります。

民主主義社会はみなさんの投票で作られるものですから、全てにおいて生活は政治と関係しています。無関心でもいいけど、無関係ではいられません。

12月5日には、野党6党派で「LGBT差別解消法案」を衆院に提出しました。

この法案は、与野党で対決するものではないと思っています。自民党が対案を作っているのであれば、早く提出していただき、すり合わせをして、超党派で議論を進めていただきたいと思っています。


(おつじ・かなこ)
1974年生まれ。大阪府議会議員だった2005年にカミングアウト。2013年の参議院選挙で当選し、日本で初めて同性愛をオープンにした国会議員に。現在は大阪2区選出の衆院議員(立憲民主党)。