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軍歌を聞き続けた少年。「オレの歌」を紡いだ難民2世のラッパー。ここには、2020年の“日本”がある。

日本で暮らす移民の生活や歴史、文化を発信している「難民支援協会」のウェブメディア「ニッポン複雑紀行」が1月30日〜2月5日まで、新宿御苑前のギャラリーで写真展を開催している。

黒島トーマス友基さんは中学生の頃、“日本人”になりたくて、毎日軍歌を聞いていた。

ニッポン複雑紀行 / 田川基成

梁鈴麗さんには、母の名から一字とった「相馬」という名字もある。

MC NAMは、一隻の船で命からがら逃げ出した家族、母と父に連なる自分の物語を「オレの歌」というラップに込めた。

一人ひとりが物語るのは、時代や社会の流れに翻弄されながら、様々な道のりを経てこの国にたどり着き、生きてきた人々が織りなす「日本」の姿だ。

ニッポン複雑紀行 / 田川基成 / Via refugee.or.jp

東京都内、2018年撮影

こうした人々の人生を紐解きながら、日本で暮らす移民の生活や歴史、文化について発信してきたNPO法人「難民支援協会」のウェブメディア「ニッポン複雑紀行」が、1月30日から新宿御苑前のギャラリーで、写真展を開催している。

「ニッポン複雑紀行」が写真展

ニッポン複雑紀行 / 田川基成 / Via refugee.or.jp

群馬県大泉町、2019年撮影

会場には、ニッポン複雑紀行がこれまで取材してきた人々や町並みを記録した写真約60点とともに、写真に写る彼ら彼女らの言葉が、壁一面に散りばめられている。

ニッポン複雑紀行 / Via refugee.or.jp

移民や難民に関する報道では、当事者の置かれた様々な事情から名前や顔を伏せたものが多いなか、ニッポン複雑紀行は、本人の同意を得た上で、なるべく一人ひとりの姿を伝えることを大切にしてきた。

展示には、撮影時の状況や背景情報を説明したキャプションは、添えられていない。

それには理由があると、作品の一部の撮影と写真展キュレーションを担当した写真家の田川基成さんは語る。

ニッポン複雑紀行 / 田川基成 / Via refugee.or.jp

千葉県船橋市、2011年撮影

「言語は様々なものを定義付けして説明するものですが、写真は、ある現象や人、風景を『未分化』のまま、そのまま提示することができるので、ニッポン複雑紀行のコンセプトとも合致していると考えました」

「写真展を訪れた人が、わかりやすい説明を持たないまま、写真に写っているものだけから想像を巡らせて、何を考えるか、どんな記憶が呼び起こされるか。それは一人ひとりに委ねたいと思っています」

36年の時を超えて

ニッポン複雑紀行 / 柴田大輔 / Via refugee.or.jp

フィリピン・マニラ、2018年撮影

学生時代から日本で暮らす移民の姿などを記録し続けてきた田川さんには、展示作品の中でも、特に印象に残っている写真がある。

2018年に神戸市で撮影したベトナム難民2世のラッパー、MC NAMさんの写真だ。

ニッポン複雑紀行 / 田川基成 / Via refugee.or.jp

兵庫県神戸市、2018年撮影

田川さんの父は日本赤十字社の職員で、田川さんが6歳になる頃まで、長崎県西彼杵半島の山奥にあった「ベトナム難民寮」の管理人を務めていた。

かつては小学校だったその寮で、100人ほどのベトナム人が教室を仕切りで区切って暮らしていたこと、寮の庭で楽しげにサッカーボールを追いかけていた姿を、田川さんは覚えている。

今でもベトナムの正月料理を目にすると、どこからか懐かしさがこみ上げてくる。

そして、その寮のことを覚えていたのは、田川さんだけではなかった。MC NAMさんの母親は40年近く前、田川さんの父が管理する寮で暮らしていたのだ。

この取材がきっかけで、田川さんの父とMC NAMさんの母は、およそ36年ぶりに再会を果たすことになる。

ここでも、複雑に織り成された社会の中で、人生が交錯している。

「自明のものだと捉えてきた日本の現実」をもう一度知る

ニッポン複雑紀行 / 田川基成 / Via refugee.or.jp

東京都内、2019年撮影

法務省が昨年発表した速報値によると、日本国内で暮らす外国人は、過去最多の282万9416人にのぼった(2019年6月現在)。

日本社会を言い表すフレーズとして、しばしば持ち出されてきた「単一民族国家」という言葉は、現実とは遠くかけ離れている。

ニッポン複雑紀行 / 田川基成 / Via refugee.or.jp

東京都内、2018年撮影

写真に写っているのは、2017〜2020年の日本で暮らしている人々。同じ日本社会の中にいる人たちであり、風景だ。

ニッポン複雑紀行 / 田川基成 / Via refugee.or.jp

群馬県大泉町、2019年撮影

立ち上げから2年の間で、ニッポン複雑紀行は「日本で生まれ育った人が知っていると思い込んできた日本、自明のものだと捉えてきた日本の現実をもう一度知り直すこと」をテーマに発信を続けてきた。

ニッポン複雑紀行・編集長の望月優大さんはこう語る。

「ニッポン複雑紀行は、『ニッポンは複雑だ。複雑でいいし、複雑なほうがもっといい』というコンセプトを掲げています」

「『ニッポンは複雑だ』というのは事実を、そして『複雑でいいし、複雑なほうがもっといい』というのは私たちの価値観を表しています」

ニッポン複雑紀行 / 田川基成 / Via refugee.or.jp

静岡県浜松市、2019年撮影

望月さんは写真展に訪れる人々に、「自分と同じところ」と「違うところ」の両方を探してみてほしいと語る。

「日本の国内でも、進学や仕事で生まれ育った地域を離れて暮らす経験を持つ人はたくさんいます」

「故郷を離れて暮らす寂しさやわくわく、言葉や文化の違いに戸惑うこと。移民の多くが通過するこうした経験は、日本で生まれ育った人の多くにとっても、共感できるものだと思います」

ニッポン複雑紀行 / 田川基成 / Via refugee.or.jp

東京都内、2018年撮影

「その一方で、例えば、家族がいきなり収容施設に収容されて、ひとりぼっちになってしまうという経験は、日本国籍を持っている家族だったら、日本国内では体験し得ないことです」

「そうした違い、差はどうして起きているのかも、一枚一枚の写真を見ながらぜひ考えてみてほしいと思います」

「この社会で暮らすすべての人たちが、互いがどんな経験をし、何を思ってきたのか、考えるきっかけになれば嬉しいです」

神戸定住外国人支援センター(KFC)を1997年に設立した金宣吉(キム・ソンギル)理事長は、ニッポン複雑紀行の取材にこう語っている。

「日本人は当事者です、移民が困難を抱える社会を作っていることのね。外国人だけが当事者なわけではないですから」


写真展「ニッポン複雑紀行」

  • 日時:2020年1月30日(木)〜 2月5日(水)10:00〜 18:00
    ※日曜休館、最終日は15時まで。2月1日(土)15:00〜16:00は、ギャラリートーク(要参加申込み)が開催されるため、非常に混雑する見込みです。

  • 場所:アイデムフォトギャラリー・シリウス
    (東京都新宿区新宿1-4-10 アイデム本社ビル2F、東京メトロ丸ノ内線「新宿御苑前」駅より徒歩2分)

  • 入場料:無料

Contact Saori Ibuki at saori.ibuki@buzzfeed.com.

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