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経口中絶薬、年内に承認申請へ。使い方は?費用は? 新たな中絶の選択肢になるか

イギリスの製薬会社「ラインファーマ」が今月下旬にも、「経口中絶薬」の製造販売に向けた承認申請を厚生労働省にする。使い方や費用などの申請内容について、北村幹弥・代表取締役社長に聞いた。

薬での人工妊娠中絶を可能にする「経口中絶薬」について、製薬会社「ラインファーマ」が今月下旬にも、製造販売に向けた承認申請を厚生労働省にする方針で、準備を進めている。

同社が申請するのは、妊娠の維持に必要なホルモンの働きを止める「ミフェプリストン」と、子宮収縮を起こし、内容物を排出させる「ミソプロストール」という2種類の薬をセットにしたコンビパック。

医薬品医療機器総合機構(PMDA)と厚生労働省による審査には1年ほどかかる見込みとされ、安全で安価な中絶の選択肢を増やすことができるか注目が高まっている。

世界80カ国以上で認可

経口中絶薬は1988年にフランスで初めて承認され、世界80カ国以上で広く認可されている。WHOの必須医薬品にも指定されており、安全な中絶方法として推奨されている。

国連人口基金によると、海外では中絶薬の価格は4〜12ドルほどとされており、中絶が公費で賄われている国も多くある。

WHOは妊娠12週以内であれば、自宅などで自ら薬を飲むことも可能であるとし、中絶へのアクセス改善や患者のエンパワメントにもつながると指摘している。

一方、日本ではこれまで、都道府県医師会が指定した母体保護法指定医による外科手術によってのみ、人工妊娠中絶が認められてきた。

WHOが2012年に発表した「安全な中絶に関するガイドライン」では、医師が子宮内に器具を入れて、胎児や胎盤を掻き出す「搔爬(そうは)法」は、より安全性が低く「時代遅れな手法」であるとして、子宮内の内容物を吸い出す「吸引法」や、中絶薬に置き換えるべきだと呼びかけられている。

しかし、日本産婦人科医会が2012年に実施した全国調査では、搔爬法による中絶が約3割、搔爬法と吸引法を併用した方法が約5割を占めた。

また、日本では原則として、人工妊娠中絶に健康保険が適応されないため、10〜20万円ほどの高額な費用がかかることも問題視されている。

2020年に行われた人工妊娠中絶の数が14万5千件にのぼる中、女性の健康と権利を守るために、安全でアクセスしやすい中絶の選択肢を日本でも認める必要があると、署名活動などが行われてきた。

投与方法は?「入院は必要ない」

今回申請される中絶薬は、まずミフェプリストン200mgを飲み、36〜48時間以内に2薬目のミソプロストール800μgを口の中で溶かしてから飲む方法をとる。

2020年6月までに、18〜45歳で、妊娠9週以内の120人を対象に臨床試験を実施し、93%の被験者が2薬目の投与から24時間以内に中絶に成功した。

副作用としては、被験者の30.0%が腹痛、20.8%が嘔吐などの症状を訴えたが、ほとんどが軽度または中等度だったという。

ラインファーマの北村幹弥・代表取締役社長は12月10日、BuzzFeed Newsの取材に対して、申請内容の方針について次のように明かした。

まず、対象は妊娠9週(63日)以内の患者。薬の投与方法としては、現状と同様に、2薬とも母体保護法指定医のもとで飲むことを想定しているという。

臨床試験は、被験者が入院した状態で実施されたため、実際の治療でも入院が必須とされ、高額な費用負担が必要になるのではないかと危惧する声が、国会の中でも上がっていた

しかし北村氏は、臨床試験では時間ごとに細かく経過観察をするために入院の形をとったが、実際にはその必要はなく、医師のもとで薬を飲んだ後は、数時間ほど様子を見てから帰宅することを想定しているという。

中絶に成功した際に起こる出血は、通常の生理よりも出血量は多いものの、一般的な生理ナプキンなどで対応できるという。

「海外でも入院治療を必須としている国はなく、日本だけそうした状況になったら、それこそ世界から取り残され、女性の権利の観点からも非常に問題になる」と北村氏は語る。

妊娠中絶をしている施設の多くが入院施設を持っていないことからも、「入院を必須としたら、限られた施設でしか薬を提供できないことになる」と指摘する。

費用は?「まだ社内でも検討していない」

費用に関しては、治験に参加した東京大学の大須賀穣教授(産婦人科学)が「病院経営の観点から、薬による中絶も手術と同等の価格設定となる可能性がある」と述べたことが報じられ、薬が認められても、高額でアクセスしにくい状況が続くのではと懸念されていた。

北村氏は「自由診療となるため、それぞれのクリニックが治療費を決めることになる」と言い、薬自体の価格についても「まだ社内でも検討していない状況」だと語った。

その上で、日本では申請に必要な臨床試験が海外よりも厳しく、「開発費用だけでも、普通の薬剤と同じくらい費用がかかっていることが、海外とは大きく違う。薬剤の価格は開発費も含めて考えないといけない」とした。

妊娠中絶薬が認められることによって、安全でアクセスしやすい中絶の選択肢が生まれると期待する声については、こう語った。

「個人の意見にはなるが、海外では妊娠中絶に対する国のサポートがある一方、日本ではそれがない。女性の健康と権利のことから考えると、日本はもっと女性を大事にするような政策をとっていただいた方がいいんじゃないかと思っています」

「妊娠中絶は望まない状況で起こるものであり、必ずしも本人が『悪い』ということではありません」

「妊娠中絶薬はあくまで、選択肢の一つ。これまでは望まない妊娠をした女性がクリニックに行くことにも抵抗感があったと思いますが、望まない妊娠は特殊なことではなく、起きるものなのだという意識が広がっていけばと思います」