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中絶のためにバイトでお金を…。日本の「懲罰的」な現実、産婦人科医たちが国に求める5つのこと

日本にも安全な中絶・流産の選択肢を増やすことを求めて、産婦人科医や中絶などの経験がある当事者でつくる団体が12月14日、厚生労働省に要望書と署名4万2248筆を提出した。

日本にも安全な中絶・流産の選択肢を増やすことを求めて、産婦人科医や中絶などの経験がある当事者でつくる団体が12月14日、厚生労働省に要望書と署名4万2248筆を提出した。

日本ではまだ承認されていない「経口妊娠中絶薬」を認可し、人工妊娠中絶だけでなく、流産でも治療時に選択できるようにすることなどを求めている。

安全な中絶・流産の選択肢を

要望書を提出したのは、産婦人科医の遠見才希子さんが代表を務める「Safe Abortion Japan Project」。

賛同団体として、妊娠による様々な葛藤を抱えた人を支援するNPO法人「ピッコラーレ」や「不妊・不育治療の環境改善を目指す当事者の会」、10代20代の女の子を支援するNPO法人「BONDプロジェクト」など、6団体も名前を連ねた。

要望書で求めているのは、次の5点。

  1. 安全で安価な「経口中絶薬」を認可し、国際的推奨に基づく運用、管理をすること

  2. 人工妊娠中絶だけでなく、流産の場合でも「経口中絶薬」を選択できるようにすること

  3. 時代遅れで行うべきでない「掻爬法」を、安全な「真空吸引法」に切り替えること

  4. 安全な中絶へのアクセスを妨げる要因となる「高額な費用」や、本人以外の「第三者の同意」が要求される状況を改善すること

  5. 避妊方法を含む中絶後ケア、偏見やスティグマを生み出さないケアや教育を提供すること


焦点になっているのは、今月下旬にも、製造販売に向けた承認申請が厚労省へ提出される「経口妊娠中絶薬」だ。

妊娠の維持に必要なホルモンの働きを止める「ミフェプリストン」と、子宮収縮を起こし、内容物を排出させる「ミソプロストール」という2種類の薬を飲むことで中絶を可能にするもので、WHOの必須医薬品として、世界80カ国以上で認可されている。

日本ではこれまで、都道府県医師会が指定した母体保護法指定医による外科手術によってのみ、人工妊娠中絶が認められてきた。

WHOが2012年に発表した「安全な中絶に関するガイドライン」では、医師が子宮内に器具を入れて、胎児や胎盤を掻き出す「搔爬(そうは)法」は安全性が低く、「時代遅れな手法」であるとして、子宮内の内容物を吸い出す「吸引法」や、中絶薬に置き換えるべきだと提唱されている。

しかし、日本産婦人科医会が2012年に実施した全国調査では、搔爬法による中絶が約3割、搔爬法と吸引法を併用した方法が約5割を占め、2019年の調査でも、搔爬法を用いた手術が広く続けられていることが明らかにされている。

また、海外では流産した際にも経口中絶薬を用いた治療が広がっているが、日本では中絶と同様の手術を受けるか、子宮の内容物が自然に排出されるまで待機するかの2択しかない。

遠見さんが署名を立ち上げた発端は、2019年に参加した国際学会で、他国の参加者から「なぜ日本では未だに、懲罰的な搔爬法による中絶手術を、罰金のような高額な金額でやっているのか。なぜ安価で安全な経口中絶薬を使っていないのか」という質問をぶつけられたことにある。

そして、遠見さん自身も流産した際に、搔爬法による手術を経験した女性の一人だ。

「金属製の器具を子宮の中に入れて、掻き出される行為は、稀に正常な組織を傷つける可能性があるだけでなく、精神的にもとても負担が大きいと感じました」

「流産したことに対するつらさがまずある中で、手術を受けることは、ただただつらいなと感じていました。海外では、他の方法があるのに、なぜそれが日本では選択肢にないんだろうと」

「女性の未来や可能性が潰されている」

望まない妊娠をした女性にとって、人工妊娠中絶が大きな負担となるさらなる要因には、費用が高額なことが挙げられる。

日本では原則として、人工妊娠中絶に健康保険が適応されないため、妊娠初期には10〜20万円ほどの高額な費用がかかるとされている。

一方、国連人口基金などによると、海外では経口中絶薬が4〜12ドル、日本円で平均740円で販売されており、公費で中絶をまかなう国も多く存在する。

今回、承認申請されるラインファーマの中絶薬についても、治験に参加した東京大学の大須賀穣教授(産婦人科学)が「病院経営の観点から、薬による中絶も手術と同等の価格設定となる可能性がある」と述べたことが報じられ、薬が認められたとしても、高額で利用しづらい状況が続くのではと懸念されている。

ピッコラーレで相談支援員をしている大庭美代子さんは、2015〜2019年までに団体の相談窓口に寄せられた中絶に関する相談は217件あり、中でも「中絶手術が受けられない」という相談のほとんどが、金銭的な問題だったと語った。

「もちろん中絶をしたいけどお金がないという相談もあれば、お金がなくて、中絶したかったけどできなかったという相談もあります」

「また、専門学校に行くために一生懸命バイトをしてお金を貯めていたけど、思いがけない妊娠をしてしまって、せっかく貯めたお金を中絶のために使わなければならないという人や、一生懸命バイトをして月に2万くらい稼いでいるので、分割で費用を払いたいと思っているが、学生なのでクレジットカードを持っていない…という方もいます」

「中絶にかかる費用負担が女性側だけにのしかかってしまっているだけに、女性たちのこれからの未来や可能性が、潰されてしまうということも日々相談の中で耳にしています」

BuzzFeed Newsの取材に対して、ラインファーマ社の北村幹弥・代表取締役社長は「自由診療となるため、それぞれのクリニックが治療費を決めることになる」と言い、薬自体の価格についても「まだ社内でも検討していない状況」だと説明している。

遠見さんは「海外から30年以上遅れて、ようやく経口中絶薬の承認申請の運びとなっていますので、国際基準に合った推奨やガイドラインに基づく運用・管理が行われていくように、安全な中絶・流産の選択できる社会が、1日も早く実現することを願っています」と語った。