同性婚訴訟「画期的な判決」でも、弁護団が控訴する理由

    同性婚を認めない今の制度を「違憲」とした札幌地裁の判決に、原告弁護団が画期的と評価し、控訴する考えを示す声明を出した。

    同性婚を求める複数の同性カップルが起こした訴訟で、札幌地裁(武部知子裁判長)は3月17日、同性婚を認めない今の法制度を法の下の平等に反し違憲とする判決を出した。


    原告側の「結婚の自由をすべての人に」北海道訴訟弁護団と、同訴訟の全国弁護団連絡会がこの日、「画期的な判決」とする声明を連名で出した。

    一方、損害賠償請求そのものは棄却されたうえ、「国会が立法義務を果たさず違憲状態を放置して改めようとしない現状の違法性を明らかにすることにより国会に速やかな立法措置を促す必要がある」として、控訴する考えを示した。

    この裁判は、札幌、東京、福岡など全国5カ所で計29人(うち1人は死去)が起こしたもので、各地の弁護団が連携して訴訟を進めている。

    声明の主な内容は、以下の通りだ。


    本日の札幌地裁の判決は、各地の「結婚の自由をすべての人に」訴訟の中で初めての司法判断が下されたもので、同性間の婚姻を認めないことについての憲法判断が行われた日本初の判決であるとともに、同性間の婚姻を認めない本件規定は憲法14条1項(法の下の平等)に違反して違憲である旨を判示した、画期的な判決である。

    本日の札幌地裁の判決は、まず、本件規定が憲法24条(婚姻の自由、両性の平等)に違反するか否かの点については、同条の制定経緯や同条において「両性」「夫婦」という文言が用いられることなどからすると、憲法24条は異性婚について定めるものであり、同性婚について定めるものではないと解されることから、本件規定が同性間の婚姻を認めていないことが同条に違反するとはいえないと判 断し、憲法13条(個人の尊重、幸福追求権)についても、包括的な人権規定である同条のみによって、同性間の婚姻及び家族に関する特定の制度を直接導き出すことは困難であるから、本件規定が同条に違反するとはいえないとした。

    一方で、平等原則を規定する憲法14条1項については、以下のとおり違憲だと明示的に判示した。

    婚姻とは、身分関係と結びついた複合的な法的効果を同時又は異時に生じさせる法律行為であるとした上で、同性愛者のカップルは、婚姻によって生じる法的効果を享受することはできないことから、異性愛者と同性愛者との間には、区別取扱いがあるということを認めた。

    その上で、この区別取扱いが合理的根拠を有するか否かは、性的指向が自らの意思にかかわらず決定される個人の性質であることからすれば、真にやむを得ない区別取扱いであるか否かの観点から慎重になされなければならないとした。

    そして、婚姻によって生じる法的効果を享受する利益は、憲法24条からしても保障される異性愛者にとって重要な法的利益であるところ、異性愛者と同性愛者の差異は性的指向が異なることのみであり、そのような法的利益は、同性愛者であっても、異性愛者であっても、等しく享有しうるものと解するのが相当であるとした。

    本件規定は、子の有無、子をつくる意思・能力の有無にかかわらず、夫婦の共同生活自体を保護することが重要な目的であり、同性愛者であっても、婚姻の本質を伴った共同生活を営むことができるから、同性愛者に対して、婚姻によって生じる法的効果の一切を享受しえないものとする理由はないとした。

    札幌地裁判決は、少数者である同性愛者の保護に関する立法者の裁量権行使について、次のとおり述べた。

    「圧倒的多数派である異性愛者の理解又は許容がなければ、同性愛者のカップルは、重要な法的利益である婚姻によって生じる法的効果を享受する利益の一部であってもこれを受け得ないとするのは、同性愛者のカップルを保護することによって我が国の伝統的な家族観に多少なりとも変容をもたらすであろうことを考慮しても、異性愛者と比して、自らの意思で同性愛を選択したのではない同性愛者の保護にあまりにも欠けるといわざるを得ない」

    そして、同性間の婚姻や家族に関する制度は、第一次的には国会が国民感情などを踏まえた総合的判断により定められるものであるとしても、同性愛者のカップルに対する法的保護に肯定的な国民が増加していること、同性愛者と異性愛者との間の区別を解消すべきとする要請が高まりつつあること、諸外国においても性的指向による区別取扱いを解消する要請が高まっている状況があることなどからすると、同性愛者に対して婚姻の法的効果の一部ですらも享受する法的手段を提供していないことについては、国会の裁量権の範囲を超えたものであり、合理的根拠を欠いた差別取扱いに当たると解さざるを得ないとし、したがって、その限度で本件規定は憲法14条1項に違反するものであるとした。

    判決は、本件規定は憲法14条1項に違反するものであると判断したが、諸外国の同性婚・パートナーシップ制度の導入や我が国における地方自治体の登録パートナーシップ制度の拡がりが比較的近時のことであること、国会においても同性婚に関する議論がなされるようになったのは最近のことであること、同性婚に関する制度がないことの合憲性についてこれまで裁判所の判断が示されたことがなかったことなどに照らすと、本件規定が憲法違反であることを国会が直ちに認識することは容易ではなく、国会が正当な理由なく長期にわたって本件規定の改廃を怠ったものとは評価できないとして、国会が本件規定を改廃していないことが国家賠償法上は違法であるとはいえないとした。

    「画期的で高く評価できる」

    本判決が同性間の婚姻を認めていない本件規定が憲法14条1項に違反するとの判断を初めて示した点は画期的なものであり、原告らの真摯な訴えを受け止めた判決として高く評価できるものだ。

    他方、判決が国会の責任を認めなかった点は、法律婚の制定を待つ多くの同性カップルの権利実現を先延ばしにするものであり、残念な思いも拭い去れない。

    結婚するかどうか、誰と結婚するか婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであり、婚姻によって生じる法的効果を享受する利益は、性的指向にかかわらず、誰にも等しく享有しうる重要な利益である。同性愛者らは、結婚の持つ重要な法律上の効果を享受できないだけでなく、そのことにより、社会から異性愛者よりも劣ったものとして扱われ、その尊厳を日々傷つけられ、同性愛者らに対し、社会から異性愛者よりも劣ったものとして扱われることによる劣等感を植え付けられてきた。

    本日の判決が、同性間の婚姻を認めないことについて、合理的根拠を欠く差別的取り扱いとして、その違憲性を明確に認めたことは大いに評価する。

    判決は、国会が本件規定を改廃していないことが国家賠償法上違法であるとはいえないとしたが、それは違憲状態をそのまま放置することを単に容認したものではなく、法改正に、もはや一刻の猶予もないことを指し示すものである。

    国は速やかな立法措置を

    国は、この判決を真摯に受け止め、憲法に反するとされた現行の民法及び戸籍法の改正に直ちに着手し、この違憲状態を速やかに解消すべきである。

    北海道訴訟の原告ら及び弁護団は、国会が立法義務を果たさず違憲状態を放置して遅々として改めようとしない現状の違法性を明らかにすることにより国会に速やかな立法措置を促す必要があると考えており、請求棄却となった本件判決に対しては、今後控訴をする予定である。

    改めて、これまでこの裁判を支援していただいたすべての人々に感謝申し上げるとともに、引き続きご支援・ご協力をお願いするものである。

    そして、他の地裁における「結婚の自由をすべての人に」訴訟においても、原告らの声に真摯に耳を傾け、丁寧な審理のもとに、本日の札幌地裁の判決を超え、原告らに対し勝訴の判決が下されることを強く期待する。