「まさかコロナに巻き込まれるとは」住まいを失った元外資系社員。彼らが再出発を目指すための場所がある。

    「もし支援ハウスに入れていなかったら、今ごろ本当に路上生活が始まっていたと思いますね。このコロナの渦の中で」

    貧困やDV被害によって安全な住まいをなくしたLGBT当事者に個室シェルターを提供し、再出発に向けた支援をしている「LGBTハウジングファーストを考える会・東京」が、シェルターを増やすための資金を、クラウドファンディングで募っている。

    住まいを失ったLGBTのためのシェルター

    住まいを失ったLGBT当事者が利用できるシェルター増設のために、クラウドファンディングを実施しています。9月10日までネクストゴール200万円に挑戦中です。サポートを充実し多くの人が社会復帰できるために、ご支援を宜しくお願いします。 https://t.co/f5oMyGm3Pd #LGBT #貧困 #新型コロナウイルス

    LGBTハウジングファーストを考える会・東京」は2017年に発足。複数のNGOが協働しつつ、中野区内のアパートの一室を「支援ハウス(個室シェルター)」として借り上げ、これまでに計5人のLGBT当事者を支援してきた。

    【4人目の入居者】 3人目の方が自立生活に移られた直後、すでに次の方が支援ハウスを利用しています。職場でパワハラを受け、仕事と住まいを同時に失ったそうです。しばらく、支援ハウスを利用しながら、次のステップに向けて準備をすることになりました。私たちも伴走支援を続けていきます。#LGBT

    1人当たりの入居期間は3カ月前後で、スタッフが相談支援をしながら、必要な福祉支援サービスと繋ぐ。運営を始めた2019年1月からほぼ空きがない状態が続いている。

    一方、入居希望の相談は1年間で20件弱ほど寄せられ、「僕たちが予想していた以上のニーズがあった」と、設立から携わっている運営スタッフの生島嗣さん(NPO法人ぷれいす東京)は語る。

    そして、そのニーズは新型コロナウイルスの影響でさらに高まっている。

    「路上生活が始まっていたかもしれない」

    「もし支援ハウスに入れていなかったら、今ごろ本当に路上生活が始まっていたと思いますね。このコロナの渦の中で」

    6月から入居したゲイ男性のSさん(40代)は、BuzzFeed Newsの取材にそう語る。

    Sさんは昨年秋、20年以上勤めた外資系の企業を退職した。

    発端となった出来事は、東日本大震災だった。福島第一原発事故が起きたとき、Sさんは東北地方の事業所で所長を務めていた。

    従業員はパートも含むと20人弱。現場が混乱を極める中、事業所の閉鎖を求める上層部と従業員たちの暮らしを背負うプレッシャーとのはざまで、適応障害を発症した。

    その後、別の勤務地に異動してからも「自分には何もできない」という恐怖がつきまとった。数年後にはHIV陽性が判明。心身の不調が重なり、休職を繰り返した。

    退職したとき、Sさんの預金口座には70万円ほど残っていた。都内の飲食店で働き始めたが、月の収入は6万~15万円の間でまばら。マンスリーマンションの家賃にほとんど消えてしまう月もあった。

    「まさかコロナに巻き込まれるとは」

    「このままでは路頭に迷うかもしれない」。そう不安を覚え始めた頃、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、店が休業せざるを得なくなった。その時のSさんの手持ちは7、8万円ほどだった。

    「休業しなければ、お店が予定していたイベントなどで臨時収入が入る予定だったんですが、それもなくなり、もう家賃が払えない、暮らす場所がなくなってしまうとなった時、どうしたらいいかわからなくなりました」

    「それまでは、いざとなったら別のバイトでも始めればいいと考えたりもしていましたが、まさかコロナに巻き込まれるとは思っていなかったので…」

    入居後は支援ハウスを住居として、生活保護を申請。「この機会だからこそ人生設計を考え直すタイミングにしたい」とSさんは語る。

    「コロナのようにいきなり社会が一変することもあり、いつどこで貧困に陥るかわからないと実感しました。自分だけじゃなくて、周りの誰にも起こりうることだと思っています」

    パワハラ、DV被害の経験を経て

    Sさんの前に入居していたKさん(男性、40代)も、社宅に住み込みで働いていた建設関連の会社でパワハラを受け、ボストンバッグ1つを手に、着の身着のまま逃れてきた。

    支援ハウスに入る前に生活保護や住居確保給付金の申請をしようとしたが、窓口で「まずは働き先を探しましょう」「退職金でアパートを借りてから来てください」などと言われ、諦めたという。

    ネットカフェで過ごした数日間は「惨めでしかなかった」と振り返る。

    「常に周りに誰かしらいる物音がするので眠れないし、日がな一日、ああいう暗いところで過ごしていると、ここでこのまま死ねたらいいのに…と考える瞬間もありました」

    支援ハウス入居後は、1週間以内に生活保護の受給が決まり、スタッフを通じて紹介を受けた病院で心身の療養に専念した。4カ月ほどで転宅が決まり、自立生活を再開した。

    KさんもHIV陽性で、過去には同性の交際相手からDVを受けて、後遺症が残るほどの大怪我を負った経験があった。

    そのため、男性と複数人で寝泊まりすることになるような施設では、自身のセクシュアリティや健康に関するプライバシーを守ることが難しく、回復に専念できなかっただろうと語る。

    「自分は長い間、『助けて』と言うことができず、『助けて』と言うくらいなら黙っていようと考えていました。でも今は、自分から積極的に逃げて助けを求めるのも一つの方法だよと胸を張って言えます」

    支援を拡大していくために

    LGBT支援ハウス二人目の入居者の方にも、スタッフによる定期的な面談をおこなっています。お部屋の使い方に不便がないか、福祉制度の諸手続について困っていることはないかなど、穏やかな雰囲気で聞き取りが進みました。 https://t.co/NhQg8aqD4O

    「LGBTハウジングファーストを考える会・東京」が団体名に掲げている「ハウジングファースト」とは、「住まいは基本的な人権である」という理念のもと、生活困窮者に対して、まずは安定した住居を提供することを最優先し、そこを出発地点に様々な支援につなげていくという考え方だ。

    特に、LGBTの当事者が既存の福祉施設を利用する際には、Kさんのように同性パートナーからDV被害を受けた人が同性の人と相部屋になったり、本人が希望する性別でのケアを受けられなかったりと、必要な支援を妨げる環境に置かれるケースがある。

    今回のクラウドファンディングで寄せられた資金は、支援ハウスをもう1室増やし、運営するための経費に当てる予定だ。すでに150万円の支援が寄せられ、200万円を目標に募集を続けている。

    「公的な支援にアクセスしたいと思っても、役所で自分の状況を説明できないからと躊躇する人も少なくありません」と生島さんは言う。

    「新型コロナウイルスが経済に与えた打撃は、これまで以上に幅広い層に影響を及ぼしています。だからこそ、私たちのサポートも拡大していく必要があると考えています」


    「LGBTハウジングファーストを考える会・東京」のクラウドファンディングは9月10日まで。団体のホームページを通じて寄付をすることもできる。